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20年会っていない母から電話が 02

兄は死にそうだというが、いったいどうなってるのか。それはわからない。

「お兄ちゃんは、身体のこと何もいわんけど。お兄ちゃんと仲良くしている人がおるじゃん。その人が教えてくれただけど、ガンだって言っとった」

「ガンか」兄の年齢は61歳。当然そんなことが起きてもおかしくない。
しかし、依然救急車は呼んでない。(もう疲れたので、言うのは諦める)
目がボーとして正気がないやら、本人は何か喋っているつもりだけど何を喋っているのかわからないやら。

(このまま家で死んだら、どうするのだろう)

結構な頻度で電話がかかってくるので、そんな状況の母親を無下にはできず、電話に付き合いながら少しは落ち着くようなことを言うしかない。「僕がいるから」などと言ってみる。

子どもとして、まあそういうのもいいかと思う。
しかし、今回の電話では私の話を聞く。態度を変えた母親。
私が冷静に話すと、それが気に入らないと怒って電話を切る、マンネリ喜劇のような母親が、今回は電話を切らない。

「あっ」

政権交代なのか。兄という王を失いかけている今、新たな主君を母親は探しているリクルーターなのか。
おばあちゃんの葬式も、私の結婚式も来なかった兄であるが、それでも守り通した母。
「お兄ちゃんばっかし、大変な目に合って」といいながら、私には「あんたが悪い」「あんたの育て方間違えた」という。

兄母カプセルは、私というヒールが必要だったのだろうし、ひょっとしたら私は数いるヒールの一人にすぎないかもしれない。
しかし、ヒールは今、君主になるのかもしれない。

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