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グラヴィタスフィリア

かぐやSFコンテストの応募作です。


『グラヴィタスフィリア』

訓練服大好き野郎さんのカスタマーレビュー
★★★★☆
>地球服のセットでこの価格なら安いと思い、詐欺覚悟で購入しました。包装はしっかりと密閉されており、商品が届いて中を見ると、校服と、運動靴、重力訓練服の上下がきっちり揃っていました。くじ運の悪い私ですがついにアタリを引いたなと歓喜しております。
校服は某有名私立○○中学高等学校の夏服で、大きな襟付き、いわゆるセーラー服。カラーは空色で白い縫い付けの親子線。ファスナーは脇に。身ごろは薄く青みが勝った白。綿50%ポリエステル50%で地上服特有の軽さと通気性が味わえます。上下とも使用感が薄く、破れやほつれがないのが気になりましたが、裏地にはしっかりとシミが付いていたので堪能しました。高温多湿の環境特有の匂いが香しくも懐かしいです。
訓練服は適度な使用感があり、お尻や膝のあたりの布地が薄く光っているのが何とも乙です。こちらはズボンのタグにネームが付いていて、2年3組までは読み取れたのですが、最近の子の名前は漢字やアルファベットや、何でも混ざっているので読めませんでした。自分も歳を取ったなと感じる今日この頃です。トホホ。。。
運動靴は今も昔も変わらないですね。1G対応の走行用シューズになります。大きさは22.5センチ。小柄な子だったのかな? 靴底はすり減っていないけれど、中敷きのロゴはしっかり消えていて、大事に使ったんだなと、しみじみ想像してしまいましたw

>出品者です。お買い上げいただきありがとうございました。堪能していただけたなら幸いです笑。お送りした校服その他は来年にもモデルチェンジをしてしまうので、プレミア付くと思います。モデルチェンジ後はよくある男女兼用のジャージ・スーツ型の物になってしまうので、私としても歴史あるセーラー服がなくなっていくのは名残惜しいです。でも、このサイトで買ってくださる方のように、旧服装にもファンがいて、大切にしてくださるのだ、と思うと嬉しいです。

>出品者様、コメントありがとうございます。大切に使用させていただきます(なんちゃって)。制服の変更は寂しいですね。この界隈でもちょっと話題になっていました。時代遅れだとか何とか言われても、やっぱり着ていた人にとっては大切な思い出ですからね。まあオジサンは男だから着ないけどね(笑)
 筆が乗って来たのでちょっとオジサンの昔話に付き合ってもらいましょう。私は地上の生まれですが、もう長い事地上には帰っていません。と言うのも、足を使わない仕事なもので、筋力も衰え、今さら重力訓練をするような歳でもないだろうと半ばあきらめています。不便はありません。何しろ“こちら”で活動する人の幅も増えたので、昔地上でしていた頃と変わらない生活が出来ています。若い子も増えていて、登下校用のバスが飛ぶのをほほえましく見守る毎日です。それにこうやってネットも出来るしね。
 ネットが出来ると言っても、地上のニュースはもうめっきり読まなくなりました。こう見えても(見えないか笑)昔はたくさん勉強して新しいことを取り入れていたのですが、最近では入ってくる情報も政治と環境のことばっかりで、聞き飽きてしまいました。
 こんな私ですが一つだけ地上に未練がありました。私が君たちくらいの頃は、災害の混乱と、学校制度の改革の真最中で、カリキュラムに余裕がなかったのです。君たちにとっては教科書でしか知らない出来事かな? カリキュラムはまだ部活動と呼ばれていた時代で、内容も学校が決めたいくつかを、生徒が選ぶ形で、オジサンはテニス部だったんだけれど、一年生の内にカリキュラム自体がなくなってしまったんだよ。そういう、勉強以外の時間に労力を割くのはスマートじゃない(スマートって死語かな)って言われる時代だったんだね。そうそう、話がそれてしまったけれど、私はその頃から訓練服が好きで、私たちの世代では体操服と呼ばれていたんだけれど、好きな子の体操服とかセーラー服とかを見るうちに、どうしても着てみたくなっちゃったり(笑)。でもそういう事するのは変態だからね。これは今でもそうかもしれないけれど。でも当時は見ていることしかできなかった。だから、カリキュラムが一時期廃止された時、見ることすら奪うのかって憤ったもんだよ。こういうこと言ったらまた炎上するのかもしれないけれどね。そこはこういうサイトだから大目に見てね。
 だから、なんというか、重力訓練が正式にカリキュラムに採用された時はうれしかったな。また健康な汗を流して、体操服で駆け回る娘たちが見られるのかと思うとわくわくしちゃった。でもそれからすぐに転勤が決まって、今オジサン宇宙ですよ。“こっち”ではごてごてした、分厚い服が基本だし、汗もほとんどかかずに済むように調整されているし、汚い話でごめんだけど、排せつも最低限で、それもすぐにクリーニングされるように調整されているから、今の“こっち”の子たちは洗濯知らずだと思う。でも、オジサンみたいな古いタイプの人はどうしても、生きている感覚というか、ああ、身体って生モノなんだなって感じたいと、どうしても思っちゃうんだよね。そうやって探して、探して、行きついたのがこのサイトです。
 長くなっちゃったけれど、キモかったらごめんなさい。でも私は本当に救われています。校服のほころびや、訓練服の匂いを感じるたびに、重力が恋しくなる。日差しと重力が恋しくなる。
 出品者さんも、いずれ“こっち”に来ることになると思う。でも重力の地平で流した汗は何物にも代えがたい思い出になるから、その事は忘れないでほしいなと思います。

***
 読み終えて、書きかけて、やめて、端末をとじると、カーテン越しの空には嵐の色が宿る。急いで洗濯物を取り込もうとして、その手をふと止め、分厚い雲の向こうに思いをはせる。どこの誰とも知らないオジサンは今なにをしているのだろう。彼は俺の制服を「使う」のだろうか、それとも「着る」のだろうか。
 俺はどうやら、古い価値観と背中合わせで宇宙に放り出された可哀そうな男を救ったらしい。いま、地上の服装は驚くほど多様だ。セーラー服が男女共用になって久しいというのに、彼は今も知らないままなのだろう。伝えるべきか否か、俺の指はまだ小さく迷って震えている。
「着てもいいのに」
 口に出した言葉は分厚い雲に跳ね返されてどこか近くの地上に落下する。セーラー服に憧れて、今はもう少なくなったセーラー採用校をわざわざ選び、夢をかなえた俺と、空を飛んでるキモいおじさんが重なる。俺たちはどこで道を違えたのだろう。分からない。分からないまま、細々と雨は降りだして、やがて小さな救済が、寂しく押し流されていく。天上では雨に流される感傷なんてないのかもしれないと、ふと思う。

(了)


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