六枚道場1A


 小林猫太さん「孤高の右翼手」


「野球の試合という一つのミニマルな秩序の中にあって、主人公が異分子として存在し続けるコンフリクト」という視点では、宮沢賢治「猫の事務所」を連想しました。「主人公は野球が好きなのか」と問いかけたとき、構造的にしかそれを肯定できないのが面白い。有り体に言えば、純粋に野球が好きでやっているようには見えないのが大事な気がする。
 自分事になるけれど、集団スポーツ、特に野球は、はじめから世界の常識みたいな顔して「当然君も知ってるよな」とばかり突然目の前にあらわれる。体育の授業でソフトボールをするのに、誰もルールを教えてくれない。今でも、フライもイレギュラーもライン際もぼんやりとしか理解できていない。だから本作を読んで感じたのは孤独と言うよりも、期待される動きが出来ないと非難されることのない、主人公の気楽さだった(なおこの読みには私怨が含まれる)。けれども主人公がそれでも野球に組み込まれることを望み、憤り、諦観しを繰り返すのはなんだか愛おしくもやるせない。行き先がなんだって、乗りかけた舟を下りるのってすごく難しいんだよね。そんなことを考えました。


澪標あわいさん「金網」


こうえんのおはなしだ!!!
地域のお祭りって楽しいんですよね。普段静かな地域に、ああこれだけの人が少なくとも居るのだなぁと実感できる素敵な日です。特に夜の縁日には不思議な感覚がつきまとう。おのおのの物語が強調されすぎて、自分の物語に浸りきれない人は、中心に居ながら周縁へ追いやられてしまうきらいがある。盆踊りなんかは櫓が真ん中にあって、人は位置的にもぜったい縁にいるのが、お祭りの大事な部分を体現していて面白い。縁日の由来はまた別なのだけれど。
さてタイトルの「金網」ままさしく縁の一辺であって、描写の中心はひたすら人物か私の感慨。時間も人もひとところに溶けゆくような喧噪の、外から「やってきて」外に「帰って行く」描写があるのは私と祖父だけです。祭りの主役はもちろん祭りを楽しむ人たちで、私はそこになじめず結局はじきのけられてしまう。祖父は幾分か付き合い方を知っている。金網は私たちの時間遡行ぎみた祭りへの参加に呪術的な意味を与えると同時に、「地域住民で賑わう縁日ー鉄柵に鍵をされた人の居ない広場」という公園の二重性も見えて、それがまた最近「キャッチボールも禁止で出来ない」と話題の、公共性の問題に言及しているようにも思えます。


中野真さん「永遠に一緒」


前半は吉田知子の「迷蕨」を連想して、後半はそれが吹き飛んだ。個人的にはおばあさんの頭に水をかける衝撃の中盤展開と、その後の団らんはとても好ましい展開だった。反面「霊たちが見えている」展開と「寿命が分かる」展開の直接的なつながりは「霊感が強い」だけなのかな、と考えたりしました。
ラストの一文がとても素敵です。なんやかんやで一緒に居たんだね……よかったね。よかったのか。後々あの親戚の会合に加わるんだろうか。「は?」って思ったまま。永遠に一緒とか確かによく聞く決まり文句ではあるけれど、それは契約だし呪いそのものだ。少しうがった見方をすると、そもそも冒頭の「お墓参りに行こう」が(プロポーズ前にしては)とても重くて、気がつけば「君しか考えられない」とか「同じ時間に死ぬから」とか、石平さんのはく言葉は要所要所で呪いなのが面白い。僕の好きな映画に「ロブスター」というディストピアSF恋愛映画があるのだけれど、その世界では、「生涯を共にするペアの同質性」に登場人物の全員が偏執狂的にとらわれていて、これがディストピア感の根底に流れてる。石平さんの言葉を呪いとした底には同じような文脈を読むことも出来らかもしれません。●追記1/2 ハギワラシンジさんのキャスを聞いて、もっと素直にキュンとする物語として読むのがよかったかと思い直した!●さらに追加・私信1/2 中野さんの記事にて言及い頂いてあぁああ生意気言ってすみませんでした! あと穿った読み方してすみませんでした! 僕はなんと言うか、中盤展開とラスト展開のどちらも好きで、欲張りなのでそれぞれに読みたいと思ってしまったんですね。しかしそれには6枚があんまりにも狭い。悩ましいですね。「寿命がわかったら他人と関係を築けるのか」ひいては「人はなぜ他人との関係に一致を求めるのか」みたいなテーマにはとても興味をそそられますね。とすれば泣く泣く、ご先祖様総立ちシーンをライトにして、寿命関連の話で一点突破するか……むう、難し……。しかし素敵なお話であることは確かです。そして最終候補おめでとうございます!


Aは3作でバランスが取れていたと思う。孤高の右翼手は、たぶん僕がちっぽけに考えたのよりもっと大きなテーマ設定とかがあって、読みきれていないのかも、と感じたよ。金網は文体も舞台もみんな僕好みなんで、逆に僕ならこうするみたいなところがなくもないけれどそれを言うのは違う気がするので、作者さんのことをもっと知りたいなって思った。永遠に一緒は、一場面いちびめんをもっとじっくり読みたいと思みたいし、そこに何があって誰がどんな顔してるのか、見たいなと思いました。

誰が上手とかを僕が決められるはずもなく、何様だって感じだし、単に好みになって申し訳ないけれど、公園とお祭りの話というミヤツキアドバンテージを最後まで外す事が出来なかったよ……「金網」に一票。

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