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虫の糞がなぜ美味しいか?

虫の糞と聞いて、美味しいとか美味しくないとか考える人はそういないはずです。むしろ、味覚とはおよそ結びつかない類の単語であるのでしょう、一般社会では。しかし、これが美味しいんですね~。粒々のまま食べてもそれなりに美味しいのですが、やはりお湯を注いでお茶にするのが一番分かりやすく美味しいと思います。虫の糞とお茶を一緒くたにするなんて!と言う方や怒る方さえいるかもしれませんが、味も香りもお茶そのものなんですよね。面白いことに、どんな種類の植物と虫の組み合わせの糞でも大体お茶っぽくなってしまう。その上で風味が劇的に変わるから面白い!

 ではなぜ、虫の糞がお茶っぽくなってしまうのか。私なりに考察してみました。

​ まずは一般的なお茶の製法についてザックリ(本当にザックリ!)紹介します。この世のお茶のほとんどの原料がチャノキという植物の葉あるいは茎です。収穫されたこれらは人の手あるいは機械によって徹底的に揉みほぐされ、細胞が破壊の限りを尽くされます。この工程を揉捻と言います。この工程によって、チャノキのもつタンパク質と酵素が物理的に触れ合います(これが大切)。これらは普段、細胞内の別々の場所で分けられているので揉捻の工程が大事なそうです。タンパク質と酵素が触れ合うと、タンパク質は分解されアミノ酸が生じます。この反応を発酵と呼ぶんです。アミノ酸は旨味のもとですので、お茶を飲んで旨味を感じられるのは、発酵によって生じたアミノ酸のおかげということです。

 揉捻の後、熱をかけたりと温度調節をしながら発酵を更に進めたり、丁度よいところで終わらせたりとします。

 また、カテキン類も酵素によって酸化され、これ同士が縮合する(繋がる)ことでテアフラビンという化合物が生じます。テアフラビンこそが紅茶の赤色色素の本体ともいえます。

発酵の概念図です。タンパク質が酵素によってバラバラになると、旨味成分のアミノ酸が生じます。もともとタンパク質ってアミノ酸が鎖みたいに繋がったものですからね!

ここまでが一般的なお茶の製法です。​では虫の糞に関してはどうでしょうか。

多くの虫さんは葉っぱをかじって食べます。よく観察してみると分かるのですが、葉っぱを口に含んではモグモグします。我々と同じように咀嚼するんですね~。すると葉っぱはボロボロになるわけですが、これがまさに揉捻に当たるんですね。さらに虫さんの腸管内を通っていく中で、葉っぱのタンパク質が、葉っぱ自身の酵素に加えて虫さんの持つ消化酵素によっても分解されていきます。虫さんの腸内細菌も葉っぱのタンパク質を分解しているかもしれません。このように虫さんの体内でも一般的なお茶と同じ、あるいはより複雑な発酵が起こっていると私は考えています。糞として出てくるころにはすっかり発酵しているということです。こう考えると虫さんの糞がお茶っぽくて美味しいのも納得ですよね。

虫さんの断面図です。歩く胃袋と言われるだけあって、シンプルな構造にみえます(腸ですが)。こう見ると、歩くお茶工場にもみえますよね。


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