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私が筆頭著者である論文が公開されました

私が修士の頃に研究していた内容を(ようやく)論文化し、この度 Journal of Chemical Ecology誌で出版されました。オープンアクセスなので、下のリンクよりどなたでも読んでいただけます。

https://link.springer.com/article/10.1007/s10886-024-01512-y


本実験ではゲノム編集技術CRISPR-Cas9を用い、吉永直子博士の提唱した「FACsを介した鱗翅目幼虫の窒素吸収効率化モデル」の検証を試みました。得られた結果は吉永モデルを補強するものでしたが、完全な証明には至りませんでした。しかし、これまでchemistry中心であった化学生態学研究に分子生物学的手法のゲノム編集技術を導入することで、長く続くFACsの研究に新たな展開を示したことが最大の功績だと思っています。ボスもその点を高く評価してくださりました。

また、本研究はFACs研究の第一人者であるTumlinson先生の御存命中に進行していた最後の仕事であり、こうして論文という形に仕上がり一安心しております。Tumlinson先生と直接お会いしたことはないのですが、本実験の経過や結果を喜ばれていたそうで嬉しく思います。

FACsを取り巻く三者間相互作用は、化学生態学においてクラシックな系でありながら未だ謎を多く抱える興味深い生態です。今後も化学的手法を中心としつつ多側面からアプローチすることで永く続いていくテーマであると思います。

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【用語】
三者間相互作用:
イモムシが植物を嚙る時、唾液に含まれるFACsが植物に付着する。すると植物はFACsを認識してイモムシによる食害を感知する。するとさらに、植物体から特徴的な匂いを放出し、寄生ハチを呼び寄せる。寄生ハチはイモムシに卵を産みつけて利用する。傍から見ると、植物がハチを利用してイモムシを撃退しているように捉えられる。1990年、Tumlinson先生がScience誌で報告。

FACs:
アミノ酸と脂肪酸が一つずつ縮合した(くっついた)もの。イモムシの腸管内で作られ、葉っぱを食べる時に口へと出てきてしまう。結果的に、このFACsのせいでイモムシは寄生ハチに見つかってしまう。イモムシがFACsを持つことは一見すると不合理だが、わざわざFACsを作るには何か隠されたメリットがあるはず。そのメリットを解明するのが本研究の目的。

吉永モデル:
私の担当教官である吉永直子博士が2008年にPNAS誌にて提唱。イモムシが体内でFACsを作ったり壊したりすることで窒素の吸収を効率化しているという学説。イモムシに食べさせた放射性同位体化合物の追跡実験により導かれた。

CRISPR-Cas9:
2020年にノーベル化学賞の対象となったゲノム編集技術。DNAの標的配列を認識する「gRNA」とDNAを切断する「Cas9」を細胞内に導入することで、狙った箇所のDNA配列を切断する。従来のゲノム編集技術に比べて安価で簡便。

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