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ソロキャンプに、1人で田舎巡り‥。ぼっち感なしの至福の「ソロ活」~連載「ソロの時代」から

 これから日本は、およそ2人に1人が独身の「ソロの時代」へ突入する。そんな社会の到来が、2040年の推計人口で予測されています。未婚の人や、離婚する人、連れ合いと死別する高齢者が増えるためです。「ソロ」といっても生活スタイルや考え方はさまざま。まずは、「ソロ活」を楽しむ人たちに会いに行きました。(林淳一郎、田中謙太郎)

「あー至福」ソロキャンプで羽を伸ばす

 せっせとテントを立てたら、さあキャンプ飯。韓国ラーメンを頬張り、広島市のフリーター女性(30)はふと思う。「あー、至福。自力でやったぞっていう達成感がたまんない」。たまの休日は、1人暮らしのアパートから車で山あいのキャンプ場へ。たった1人のソロキャンプで羽を伸ばす。気の向くまま、椅子に腰を掛け、ぼーっと景色を眺める。趣味のウクレレを奏でることも。「すべて自分のペース。この時間があるから仕事も頑張れる」

 週5日、雑貨店の販売員として働く。キャンプにはまったのは2021年5月。親しくする飲食店のオーナーに誘われて同行し、楽しかったのがきっかけだった。テントを買い、たき火台や日よけのタープもそろえた。

緩いつながりが心地いい

 1人の身軽さをエンジョイする。かといって「独りぼっちじゃない」という。友達4、5人と海へ行き、冬はスノーボードも楽しむ。「人と一緒にいるのも、1人で何かするのも好き。それぞれステージが違う感じかな」

 キャンプ場で知り合った同年代の男性たちとグループでソロキャンプに行ったこともある。別々にテントを張り、手料理をお裾分けする。眠くなったら三々五々それぞれのテントへ。翌朝、すっぴんを見られてもあまり気にならない。「ソロ好きの緩いつながりが不思議なくらい心地いい」と笑う。

「ソロ活動」好きも、タイプはさまざま。テントやカラオケに1人でこもるばかりではない。「自分時間」を楽しむうち、他人とのつながりが広がるケースもあるようだ。

1人で「田舎の日常探訪」

 広島県神石高原町の契約社員、高原康秀さん(45)は20年間、1人で「田舎の日常探訪」を楽しんできた。車に乗って中国地方を西へ東へ。スーパーや商店に立ち寄り、店内をじっくり観察する。ご当地の麺や牛乳を買い求め、珍しい飲料缶が並ぶ自動販売機があると写真に収める。「地域の個性や誰も気に留めないようなことに注目すると、好奇心をくすぐられる」

 地方の書店や古本市も巡る。目当ては、個人制作の本「リトルプレス」。そこに載る地域のレア情報を自身の探訪に生かす。訪れた書店の店主に声を掛けられることも時々ある。話すうちに「へー、よく知っているね」と感心される。ここ5年、そんな出会いが増えてきた。書店主に誘われてトークイベントで趣味を語ったり、中国山地の魅力を伝える雑誌作りに関わったり。気付くと、つながる人は大学生から公務員まで幅広くなった。

集団は苦手、結婚したいと思わない

 もともと「ぼっち」タイプ。友達が少なく、大学卒業後もこれまでに3回転職した。「会話は嫌じゃないけど、集団の中で気を使うのが苦手で」。職場の人間関係には深入りしない。同好会も趣味の優劣を競う感じがして敬遠してしまう。

 それに比べ、今のつながりは「居心地がいい」。雑誌作りなどは、みんな肩書や趣味はばらばらでも、なんとなく意見がまとまる。両親と暮らし、進んで結婚したいとは思わない。「僕なりに満たされた毎日。完全1人の孤立じゃなければ、それなりに楽しくやっていけると思っています」

2040年、15歳以上の半数独身に

 4634万人、割合にして47%。18年後の2040年、わが国の15歳以上人口のほぼ半数が独身者になるという。国立社会保障・人口問題研究所(社人研、東京)は2018年にまとめた推計人口で「ソロ社会化」が進んでいく未来をそう描く。約50年前の1970年は3011万人、38%だった。

 独身者とは、未婚をはじめ、配偶者と離婚、死別した人たち。増え始めたのは80年代からだ。国勢調査によると、1995年に4千万人を突破。直近の2020年の調査では4317万人に達している。

 なぜソロ社会化していくのだろう。「結婚するのは当たり前」「離婚はいけないこと」…。こうした固定観念にとらわれず、結婚も離婚も人生の選択肢の一つになりつつある。たとえ結婚して子どもを授かっても大半は核家族。わが子が巣立ち、連れ合いに先立たれた高齢の「再独身者」は少なくない。人生100年時代を迎え、余生も長い。

外食や旅行 「おひとりさま」活況

 独身者が増えることにより、ソロの暮らし方や生き方もクローズアップされてきた。ジャーナリスト故岩下久美子さんの著書「おひとりさま」(2001年)の書名タイトルが、流行語大賞にノミネートされたのは2005年のこと。年代を問わず、1人で外食や趣味、レジャーを楽しむ「ソロ活」への注目度も高まっている。

 実際、独身者をターゲットにした市場は活況だ。その成長ぶりは、調査会社の矢野経済研究所(東京)が20年に実施した「おひとりさま市場」の動向調査からも浮かんでくる。

 「ひとり焼き肉」など外食市場の規模は、19年度が7兆9733億円と見込まれ、4年連続アップ。国内旅行やカラオケ、終活関連など全15分野のうち13分野で、前年の18年度を上回る結果が出ている。

 ソロ社会化への過渡期にある今、「ひとり」のライフスタイルは「市民権」をつかみ始めている。