見出し画像

女性アスリートの悩み、広島で聞きました~カラダ編

 女性アスリートの健康問題も、最近あらためて注目されています。ホルモンの影響もあり、月経異常のほか摂食障害や貧血などは、とりわけ女性が陥りやすいと言われています。中国地方ゆかりの女性アスリートに、これまで公に話すことが少なかった「カラダ」のことを聞いてみました。(西村萌)

■元バドミントン日本代表米元小春さん(31)

生理痛や不正出血「男性の指導者に話しにくかった」

 広島市南区出身で、元バドミントン日本代表の米元小春さん(31)=愛知県豊橋市=は2021年1月、所属していた社会人チームを引退しました。体調のことを聞くと、現役時代は生理痛や月経時以外の不正出血に悩んでいたことを、打ち明けてくれました。

2009年の全日本実業団選手権でプレーする米元小春さん

 昔から生理痛がひどく、熱が出たり、吐いたりすることもありました。薬はひどくなる前に飲まないと効きません。さらに、その時期は目が腫れてシャトルを追えなくなる。バドミントンで調子の良い日って「目が見える日」。目がすごく大事なんですね。痛みやかゆみで目が見えなくなり、体が重くなって、プレーに影響が出ました。
 メディカルチェックを受け、低用量ピルや薬を薦められました。でも先輩から「飲んで体が重くなった」「ホルモンバランスが崩れて動きに影響が出た」「薬の種類によって副作用の出方が違う」と聞き、飲むのに勇気が必要で結局飲めなくて。ドーピング検査に引っかかる可能性もあったので、処方された薬以外は飲めず、効き目の強い市販薬は避けました。それでも毎月の不調を言い訳にしないように意識してきました。
 代表入りすると、1年の大半を代表合宿や遠征で拘束されます。「勝たないといけない」というプレッシャーもあって、1カ月半近く不正出血が続く時期がありました。病院に行くと「ホルモンバランスが崩れたから」と言われました。じんましんが1カ月続いたこともあります。
 チームのコーチや監督といった指導者はみんな男性。生理や不正出血のことはやっぱり直接言えないし、言いづらいので、女性のトレーナーを経由して伝えます。ミックス(男女混合)ダブルスのパートナーにも、生理中に(経血が漏れる可能性があり)白いスコートを履きづらい理由は言えませんでした。
 カラダの話は、男性に感覚的にわかってもらうのは難しいこと。例えば、練習後にプールでコンディションを整える時間があり、そのときに入れなかったら「あ、生理なんだ」と周囲に思われます。いちいち知られたくないのに…。コーチなど発言権のある人が女性だったら、そのメニューが必須にならなかったのかもしれません。

■フィールドホッケー女子コカ・コーラ元選手・田中泉樹いずきさん(29)

学生時代は貧血や生理痛「痛くても痛いと言えず」

 広島市を拠点とするフィールドホッケー女子の実業団コカ・コーラでは、体調表に月経などを自由に書き込む形で、指導陣に伝えているようです。コカ・コーラの元選手で、2012年ロンドン五輪代表の田中泉樹さん(29)は、今は困っていないそうですが、学生時代は貧血や生理痛の問題に直面していたと振り返ります。

日本リーグでプレーする田中泉樹さん

 高校生の時は、生理痛がありましたね。薬は飲みませんでした。監督が男性なので、そういうことは伝えにくかった。大人になったら生理痛は落ち着いて、今は痛みがひどい時だけ薬を飲んでいます。ドーピング検査があるので薬の種類には気を使います。
 中学では貧血になりました。走り込みに体が付いていかなくなって、動けなくなった。でも休みはしませんでした。痛くても痛いと言えなかった。当時は精神論が基本でしたから。そういう環境によって鍛えられた部分もあると思いますが、しんどかったです。
 今は食事が管理されて、寮で鉄分を意識したメニューがあります。

指導者の受け止めは?ダイソー女子駅伝部・岩本真弥監督

 女性特有の体の問題を、指導者はどう受け止めているのでしょう。かつて広島・世羅高の陸上部を率い、現在は実業団ダイソー女子駅伝部(東広島市)の岩本真弥監督に聞きました。

 今は女性トレーナーに体調管理を任せています。男の自分には言いづらいことがあるだろうと思って。
 陸上界で体重制限をする強豪は多いですが、世羅高校時代は体重は自主記入にしていました。指導者の前で測定することでプレッシャーがかかり、摂食障害につながる場合があります。
 10代後半で初潮がこない子や、月経が止まって無月経になる子もいました。保護者も心配します。ただ産婦人科で処方された低容量ピルを飲むと、体形が変わり、結果を出せなくなるときもある。競技の特性を分かった上で、スポーツドクターに処置をしてもらった方が安心です。
 これまで体のトラブルは専門家に任せてきました。ただ、指導者がもっと選手の体のことを考えないといけないのかもしれません。

女子選手の半数以上「月経が練習や試合に影響」

 ソフトボールやハンドボールなどのアスリート259人を対象とした日本体育大のアンケートによると、「月経前から月経中に練習・試合に影響を及ぼす身体症状がある」と答えた選手は57%に上ります。パフォーマンス向上などをきっかけに「増量・減量経験がある」と答えた人も58%いました。

日体大・須永美歌子教授「指導者も選手も体について理解を」

 このアンケートに携わった日本体育大の須永美歌子教授(運動生理学)は、指導者と選手の双方が、体について理解することが必要だと訴えています。

 まず性ホルモンは個人差が大きく、月経の症状も個人差が大きいことを理解することです。それぞれの症状を観察し、対処法を改善していく必要があります。
 アスリートは、完璧主義の性格などから、摂食障害やオーバートレーニングによる無月経に陥ることがあります。中高生の場合は思春期で体が変化し、脂肪が増えます。無理に体重を絞らず、成長段階を踏まえたトレーニング内容にしていかないといけません。
 また思春期や月経時は体の変化があります。そのためには毎日、体重や体温を書き留め、自分の調子の波を把握することが重要です。生理用品として、タンポンや、ナプキンが要らない吸収型のパンツも相次いで発売されています。低用量ピルについては、副作用を含めて、正しい使い方や知識を身に付けて活用してください。
 指導者は、選手の体調に合ったトレーニング方法を考え、選手に寄り添ってあげてほしい。日誌などで体調や月経中の症状を共有するといい。男性指導者には言いにくいかもしれないので、保護者や保健室の先生を通じて伝えられるようにしてほしいです。

女性アスリートが性的な意図で写真を撮影されたり、会員制交流サイト(SNS)で画像を拡散されたりする「フォトハラスメント」についての悩みはこちら⇩⇩⇩