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「みんなでつくる中国山地」つくり手インタビュー Vol.2 森田一平さん   新しい「地元」の姿を伝えたい

こんにちは。中国山地編集舎メンバーの重原です。
不定期で掲載している「みんなでつくる中国山地」つくり手インタビューの第2回をお届けします。

今回は島根県邑南町在住の中国山地編集舎事務局長、森田一平さんに、創刊号の取材で感じたことや、森田さんを語る上で欠かせない「本」との関わりについて聞きました。

森田写真


森田さんは、創刊号巻頭の特集1・ルポ「中国山地1,000キロの旅」で、「持続可能な地域社会総合研究所」所長の藤山浩さんと中国山地を巡り、そこで出会った面白くて魅力的な人々、地域(そして本屋さん)の姿から、新しい「地元」の展望をつづっています。この旅で、コトバとしてではなく、実態を伴って「地元」を実感できたといいます。

「あなたの『地元』は、どこですか?」

ルポでは、従来の「自治会」などの言葉から想像される地域コミュニティーの枠を超えて、若者も含めて多様な担い手が関わり、自分の手が届く範囲を大切にしながら、足りないものを補い合ってたくましく歩む「地元」が生き生きと描かれています。
「中国山地には、一定の共同体も残っているし、新しいチャレンジをしようとする若者も入ってきている。新しい形に進化した『地元』というものが人々にとって心地よい場所になっている」
「今の社会には、このままではよくないという漠然とした違和感がある。将来への不安と、こっち側の方が面白いんじゃないかという思いの交差点が中国山地だという予感がした」
森田さんは、こう旅を振り返ります。

「100年先を見据える視座」

創刊号は、経済成長を追い求めてきた日本社会の象徴とも言える東京五輪が行われ、社会の転換点となる「2020年」から、100年発刊し続ける年刊誌というコンセプトを掲げています。東京五輪は延期になりましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、私たちの社会、暮らしは大きな変化を余儀なくされています。

「100年っていうのは、藤山さんの提案で。えっ?!って思ったんだけど、さずがそのへんが藤山さんのすごいところで、100年って言われた瞬間に、思考の、考える単位が変わるんですよ。2020年をターニングポイントに『変わります』と言うのと、そこから先100年かけてどんな社会をつくっていくかを考えるのとでは、意味合いが全然違う。100年間続く社会を構想する、一歩ずつみんなで考えながら作っていく、そのスタンスが大事かなと感じています」

こうして、創刊号の中にあるフレーズ「100年先を見据える視座」が生まれ、実際に「100年」という言葉やその視点は多くの人の心に響き、共感を呼んでいます。

持続可能な地域社会へ

「目先の利益を求める視点になりがちだけど、100年先を見てどう行動するべきかを考えたときに、やっぱり人も企業も地域も、行動基準を変えないといけないのかなと。持続的な地域、社会、世界をつくるために、森林資源や農地、知恵とか、長い時間軸で物事を捉えられるのが中国山地ならではの魅力だし、価値だと思う」
森田さんの言葉に、私も視界が開けていくような、爽快な気分になっていきます。

森田さんと「本」、原体験は…

前回、インタビューでご紹介した中国山地編集舎メンバーでnoteチームの宍戸俊悟さんと、森田さんの共通点が「本が好き」。ここからは「本」をキーワードに森田さんの人物像に迫ってみたいと思います。

島根県邑南町・旧羽須美村出身の森田さんは、中学校まで羽須美で過ごし、高校は県庁所在地、松江市の高校に進学。羽須美には本屋がなく、薬局の一角に漫画や週刊誌が置いてあるような状況でした。
高校進学後、松江市にある島根県立図書館の自習室に通うようになり、「世の中にこんなにたくさん本があるのか」と衝撃を受けます。そこから読書にはまり、大学、社会人と進んでも貪るように本を読んでいました。

本は全部、つながっている

「本っていうのは、著者がずっと考えて蓄積してきたものが一つの形になってる。その本を読んだ人が、ほかの本も読んで、あるいは現実を取材して、前の人が考えていたことを織り込んでまた書く。その本を読んだ人がまた、次の時代のことに合わせて新しい取材をして書いていく」
「本って、1冊1冊のようだけど、一つとして別文脈で生まれてきた本はなくて、人と同じように、その本を生み出すためのお父さん、お母さんに当たる本が全部あると思うんですよ。人類が何千年と考え記録してきたことの連鎖が蓄積されている。1日寝そべりながら、先人が一生かけて考えてきたことが読めるわけだから、すごいことだよなと…」

「推し」についてなめらかに語る森田さん。インタビューをしているZoomの画面からも熱が伝わります。

ないものは作ろう

大学卒業後、島根県の地元紙で記者を続けていた森田さんが会社を辞め、地元に戻ったのは2017年。邑南町を通るJR三江線の廃線がきっかけでした。その年から、邑南町役場に新設された羽須美振興推進室という、旧羽須美村の活性化を担う部署に勤務する傍ら、三江線跡地の活用に取り組むNPO法人「江の川鐡道」で、廃線を走るトロッコの運転手としても活躍しています。11月29日には、こつこつと準備を進めてきた古本屋「みんなでつくる中国山地の本屋」が待望のオープンを迎えます。みんなでつくる中国山地のバックナンバーを揃え、100年先を考えるのにぴったりな場所になりそうです。

「ないものは作ろうっていう話で、何もないからこそやるべきことはあるというのが、中国山地の魅力。東京には確かに何でもあるけど、自分の役割はないっていうことになってるんじゃないか。ここだと、足りないものだらけなので、足りないものを見つけてチャレンジできる。昔は、選択肢がないことをネガティブに捉えていたけど、むしろここに本の読める環境を作ることが私のやるべきことだと考えれば、自分の役割も果たせるのかなと考えた」

みんなに「届ける」中国山地


大手ネット通販での取り扱いをやめ、公式サイトか書店で販売している「みんなでつくる中国山地」創刊号。森田さんは、各地の書店に創刊号を配達する役目も引き受けています。
「本屋に本を届ける行為そのものが、次の読み手に届ける行為でもあるので、すごくうれしいですね。本屋は知識をつないでいく役割があるんだとすると、本屋を訪ねてそこに中国山地の本が並んでいくというのは、すごい喜びだし、届けにいく行為自体は全然苦にならない。長時間ドライブが辛くはなってくるんだけど…」
森田さんはきょうも、中国山地のどこかで、ハンドルを握っていることでしょう。
そんな創刊号、ぜひ手にしていただけたらうれしいです。

こぼれ話


今回のZoomインタビューでは、途中、森田さんがいる邑南町の有線放送が聞こえてきました。
「みなさんこんばんは。夜のお知らせです」。
オンラインでも、邑南町の暮らしが垣間見えて、うれしくなってしまいました。

次回予告…!


次回は、森田さんが「七咲さんの写真がなかったら、この雑誌はどうなっていたか…」と語る、創刊号の写真を担当した島根県出身の写真家、七咲友梨さんのインタビューをお届けします。


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