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京都府立医科大学Presents マイナーエマージェンシー!(4)〜その診療、本当に正しいですか?〜

京都府立医科大学Presents マイナーエマージェンシー!(4)
〜その診療、本当に正しいですか?〜
[第4回]急性創傷治療:総論
担当:牧野陽介
監 修:太田 凡 Bon Ota
京都府立医科大学附属病院救急医療部/救急医療科
代 表:宮本雄気 Yuki Miyamoto
京都府立医科大学附属病院・東京大学公共健康医学専攻
副代表:牧野陽介 Yosuke Makino
京都府立医科大学附属病院救急医療部/救急医療科

「絶対に断らない救急」をポリシーとする府立医大救急科.それを実現できるのは,「魚を単に与える」ような単純な知識だけではなく,応用の利く「魚の釣り方」を知っているから.そのコツを皆さんにお教えします!


はじめに

 皆さん,創傷診療で困ったことはないでしょうか.創傷診療は医師を続ける以上は避けては通れない分野ですが,十分な知識をもって診療を行っている医師は少ないように思います.その理由として,なかなか教わる機会が少ないことと,また命に関わることが少ないため,知識をアップデートせずに漫然と診療を続けてしまっていることなどが考えられます.当直で縫合はするが,その後のフォローアップは外科系の先生にお願いしている……なんてことも多いと思います.ですが,実はその患者さんは初期治療が不十分だったために大きな傷跡が残り,今でも悩んでいるかもしれません.確かに,創傷ができてしまった以上は元通りに治ることは決してありませんし,常に創傷診療に長けた医師が対応できる環境なんてほぼありません.だからこそ,初期対応をするわれわれがしっかりとした知識・技術をもって治療にあたる必要があります.今回は急性創傷に関する知識をまとめ,非専門医でも自信をもって診療できるようになることを目標に解説します.

用語の説明 “傷”と“創”について

 どちらも「キズ」と読む漢字ですが,医学的には,表層の連続性に破綻がない場合は“傷”,ある場合は“創”といいます.つまり,ぶつけて皮下血腫ができたり,筋肉を痛めただけの場合は打撲傷や筋挫傷と表現し,すりむいたり,縫合が必要な場合や,皮膚欠損が認められれば擦過創,挫創,欠損創,などと表現します.ただ,診療の現場ではよく混同されており,擦過傷や咬傷などは創にかかわらず傷と呼んでいることも多いです.ここでは傷か創か区別のつかない場合は創傷と表現します.

【人物紹介】
・後期研修医 M先生:先週外傷診療の講習を受けて少し自信がついてきている今日この頃.
・指導医 O先生:「断らない救急」をポリシーに,皆を時に優しく,時に厳しく指導する.

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症例

24歳,男性.特に既往なし.
来院30分前,250 ccバイクを運転中に,歩行者を避けようとして転倒した.歩行可能だが,顔面と右手掌,右下腿を受傷したため救急搬送[図1]

図1

[図1]症例 顔面の擦過創,右手掌,右下腿の挫創

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M先生 O先生! primary surveyに問題なく,secondary surveyとして顔面の擦過創,右手掌の挫創,右膝の挫創があります.手掌,膝は脂肪織が見えていて縫合が必要そうです!
O先生 いいですね.バイクの破損はどの程度だった? 画像検索は必要かな?
M先生 バイクは特にへこみはないですが,フロントガラスが割れていたようです.創部以外には痛みはなく,関節可動域や歩行も問題ないので腱損傷や骨折はなさそうですが,ガラスの混入など異物検索目的にX線を撮る必要があると思います!
O先生 そうだね.あと,どんな創傷でも基本的にカメラで写真を撮ってカルテに取り込んでおこう.最初の創傷がどうであったかは,フォローアップやその後もし事故の相手とトラブルになったときに重要な情報になるからね.

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