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理系はいらない、文系至上主義

『Phantom』の感想
羽田圭介の『Phantom』を読んだ。株式運用をする華美という女の人が、「自分は未来のお金にばかり気を取られている」「これでいいのか」と日々の生活をこなしながら自分に問い続ける話だ。あと十年後には、、、!あと二十年後には、、、!と手元にない幻のため日々を我慢する姿を見ると、後先考えずに今を楽しむほうが正解だよなーとか思ったりする。努力って美徳とされがちだけど、裏を返せば今をないがしろにする我慢の行為だなって、考えを揺るがされた。読む前と読んだあとで心に住む僕の脳みそが別人に変わっている感じ。小説ってこれだよな!コレコレ!と僕は羽田圭介大先生の方向に頭を下げた。(嘘) それにしても出版社の人って「新たな代表作誕生」って言いがち。

『竜そばかすの姫』の感想
映画も見た。『龍とそばかすの姫』という細田守監督最新作だ。学校では目立たない「すず」という女子高校生が架空のインターネット世界「U」で大活躍するお話である。観客が考えるべきテーマが多いな!というのが最初の感想だ。SNSの絡んだスクールカースト、正義マン、既得権益、リアルとネットを照らし合わせることが正しいのかどうか、児童虐待……。

ごちそうさまです。映画を見た後もずっと考えられるなんて、ずっと味のする肉を食べているような満足感が僕の脳みそをタプタプと満たした。←なんてすごい表現でしょう。ノーベル文学賞候補に決まりです。

超面白い冗談はこのくらいにしておいて、

この映画を見て僕はとっても怖くなりました。なぜなら、正義マンに襲われて恐怖を覚えていたすずたちが、虐待をされている子供を助ける時に、今度は自分たちが正義マンと化していたからです。そもそも僕の言う正義マンとは、作中のジャスティスはもちろん、「U」で特定活動をしていた人も含みますし、僕たちの生きる現実で歩調を乱さないようにしている人たち=自分のことも指しています。

だって怖いでしょう?その人たちの一瞬しか切り取っていない生放送で虐待まがいの映像が映っていたって理由で、虐待だ虐待だって決めつけて、窓の外にうつっているビルのかけらだけで住所を特定して、深夜バスに乗り込んでその日のうちに会いにくるって。それで「虐待はいけないね」って外から見ているだけの観客が今度はまた新しい正義マンと化してしまう。どうしてお父さんが虐待をしてしまうのかもわからないまま。

人が人を教育したり、指導したりするのってやっぱり無理があると思う。だから学校の先生に「お前の人生なんぼのもんじゃい!教育なんてできるほど偉い人なのか?おい?」って問い詰めたいし、人を罰する警察だって「そんな風に追い詰めて自分が生きづらくなっているだけでは?」って教えてあげたい。

なーんてね。この世界に先生や警察が存在し続けている限りはそれが正解ってこともわかってるんです。毎日オナニーにいそしんで文章でもオナニーするPCの前の私が生きていられるのは、人を教育して、治安を維持している方々のおかげだし。

けど、今ある世界に対して疑問を投げかけて、それを大きな世界観で表現できるのって小説じゃなくて『竜とそばかすの姫』みたいなアニメーション作品なんだと思う。「こうした方がもっと良くない?」「この方がいいよねほら見て!」って視覚的に表現できるし、観客も現実世界で無意識にその映像を追体験していくはずだし。一人ひとりに近いのが小説、社会全体で歩みを進められるのがアニメーション映画。

共通して言えるのは、世界を変えるきっかけを作るのは作品だということだ。やっぱ文系最高!と理系によって作られたクーラーを浴びながら思うのであった。



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