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映画『君たちはどう生きるか』感想 -人類の営みへの肯定-

『君たちはどう生きるか』を観てきた。

映画レビューは星1つの人と、星5つの人に大きく分かれており
平均をとるとだいたい星2の後半から3の前半という、
ちょっと観るのをためらってしまうような数値になっていた。

そのため、
「何を目の前に出されてもとりあえず食べるぞ」という
僻地に住む民族の取材に行く
TVレポーターのような心持ち(?)で臨んだ。

結果、
「うん、おいしかったんだけど、
 私一体何を食べされられたんだろう?」という状態になっている。

誰かの見る夢を一緒に見たような感覚。
その夢が、
その辺のおじいちゃん(言い方が失礼)の見てる夢だったら
「昔の出来事と今日見たTVの内容がごっちゃになってるのね~」
と思う程度なのだけれど
なにせ、稀代のアニメ監督の見ている夢なものだから、
すべてが意味深に思えてしまう。

モチーフ、造形物、キャラクター、出来事、などなど
諸先輩たちの考察を聞くのがとにかく楽しく、考察沼から出られない。

色んな人に観てほしくて、
色んな人の意見を聞いてみたい作品ではあるけれど、
小さい子供さんを連れて行ったり、
あまり乗り気でない人を誘っていくのは全くおすすめしない。
「あのシーンってどういう意味だったの?」と聞かれても
「私も知りたいよ」と答えるしかないから。

(ここから先はネタバレになるため、
観られる予定の方はここでページを閉じて、
観終わってからぜひ戻ってきてくださいね)


インスピレーションの源泉

今回どういう意図なのか、
監督のイメージやアイディアを、
矛盾点や未整理な部分を、あえてそのまま表現されたという感じがする。

だから、この1つの作品の中に
あと5、6作品作れそうなテーマやモチーフが含まれていそうな気がして、
なんだかもったいない気持ちになる。

素直にカタルシスを感じられるような
エンタメ作品を観たかったなという気持ちもあるけれど、
そのあたりのもやもやを
こちらの動画で言語化してくださっている方がおられたので
スッキリした。

岡田斗司夫さん曰く、
アニメ作品は、作業に大勢の人が関わるものでかつ商業的な面も強いため
1人の人間のアイデアがそのまま表現されることは難しく、
別の人の意図が往々にして混ざりこみ、
ときには制作側の望まない形に曲げられてしまうこともある。
だから、今回のような作り方や宣伝の仕方は、
クリエイターが望んでも得られないような機会であり、
これまでのジブリ作品で築いてきたブランドの上に成り立つ、
監督へのご褒美のような作品、とのことだった。

良くも悪くも、観客に気を使っていないから、
監督のアイディアの源泉、
インスピレーションを受けとってそれを表現に変換する過程を
少しだけ垣間見ることができたような気がした。

悪意のある世界の中で生きる

私が一番感動したシーンは、
主人公が、大叔父からの
「創造の箱庭の中で理想の世界を作る活動を継いでくれないか」
という申し出を断って
これから戦禍に見舞われるであろう、
悪意のある世界の中で生きるということを選ぶ場面。

「戦禍」は時代設定的に第二次世界大戦を指しているのだけれど
当然、この令和の時代のことも指していると思う。

これは私の勝手な妄想だけれど、
これまでの作品の中で、
自然の中で生きることや、
争いのない世界への祈りを描いてきたにもかかわらず
世界がどんどんそれとは反対の方向に流れていることに
虚しさを感じる一方で、
そんな中でも今の子供たちに生きていってほしいという
気持ちが込められているように感じる。

世界が続くように

エンディングテーマである
米津玄師さんの「地球儀」の歌詞の中の
「この道が続くのは 続けと願ったから」
の部分がすごく好きだ。

主人公の眞人は
時間や場所が混在し、生と死の結び目のような塔の中で、
亡くなった母親(久子)の若いころに出会う。
「眞人が自分の子供であり、その子を産むということは
自分が火事で死ぬということだ」とわかってもなお
「眞人みたいな子供を産むなんて素敵じゃないか」と
久子は現実の世界に戻ることを決意する。

正直、私が同じ状況に置かれたら
「素敵だわ」なんて思わないし、現実の世界に戻りたいなんて思わない。
その子が将来「大谷翔平さんとか藤井風さんみたいになりますよ」
って言われたら…うーん、いやいやいや、やっぱりそんな道に
力強く進みだすなんてできない。
(男性でも同じじゃないかな。
 あなたの娘は新垣結衣さんみたいになりますよ。
 でも、あなたはその子が成長する前に死にますけどって言われて、
 「イイネ!」って言える人いるのかな…)

自分を産んでくれるために、自分の命もいとわないという、
ある種の母性の理想形(正直、母性の神聖化は好きじゃない)…。

でもこれを、
命を継ぎそれによって世界を続けていこうとする意志
というように読むなら
こんなカオティックな先がどうなるかもわからない現代において
人の営みを続けていくことへの強い肯定のように感じる。


とにかく意味深なモチーフや
秘密のイメージのオンパレードで
色んな読み取り方ができるから、
考察する人によって受け取り方や解釈が結構違って、
「そんな意味もあるのか!」と
目から鱗が落ちることが多い。
もうしばらく、色んな考察を観て楽しみたいと思う。

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