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メロス、普通に、友も妹もどうでもいい


 メロスはカフェの椅子にだらりと腰掛けた。彼の目は狭まり、携帯電話の画面を見つめていた。周囲はいつものように話し声やカップの音で満たされているが、彼にとっては静寂に包まれているようだった。友人の懇願する顔が心に浮かぶが、メロスはそれを邪魔な通知のように払いのけた。

 彼は帰ると約束した。不当な運命から友人を救うために。

 だが、都市の光に彼は魅了され、各交差点が新たな楽しみ、新たな気晴らしを明かしてくれた。メロスの指は携帯を軽快に叩き、数時間前に出会ったばかりの誰かからのメッセージに返信した。
重要ではないが、約束を忘れるほどには興味深い誰か。

 いつもそこにいた妹の声は、導きとなるメロディであったが、今やメロスにとっては失われた囁きに過ぎない。
彼女は常にそこにいたが、メロスは常にあるものに飽きていた。

 都市の生活は、古い世界の単調なリズムとは打って変わって、興奮を約束していた。
「メロス、戻らなくては!約束を思い出して!」友人の言葉が彼の記憶の中で虚しく反響した。

 しかし、約束とは、彼のカプチーノの泡のようなものだ。
一触れで消えてなくなる。

 携帯が再び振動し、彼を不快な思考の縁から引き戻した。
メロスはにやりとした。邪魔されたことへの怒りが消え去る。

約束は、やることがない人々のためのものだ、と彼は決めた。

 今の彼にはコーヒーがあり、携帯があり、
そして眠らない都市が彼を忘却の腕で抱きしめるのを待っていた。

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