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無関係な連想#1 チャクラ

ある日の出来事の断片と、それで勝手にフラッシュバックする歌詞のこと。


背中にタトゥーを入れたばかりで傷口はまだ治ってないから、染み出す墨と血を拭いて欲しいと、Sにお願いされた。

黒い半袖Tシャツを脱いだら、背骨に沿って首の真下から腰まで真っ直ぐに、七個のチャクラが刻まれいてる。頭上からの明かりに照らされて異様に白く見える肌の上に。痛めるのではないかと怯えながら、皮膚に貼られている透明なサージカルテープに針で小さい穴を開け、ティッシュを当てた。黒色の輪郭を指でなぞり、溜まった液体を穴まで導いて、ぼやけた模様が再び鮮明になるまでその繰り返し。このやり方は正しいのか二人とも分からないまま。

チャクラ、古代インド語で「車輪」という意味をする言葉。黒い水が染み通ったティッシュを机に置いて、彼の隣でググって初めて知った。

車輪を体に刻み込むために、白い背筋をけがしたばかりの彼。
手のひらがすごく冷たいのに、汗をかいた彼。

照明を暗くして、曼荼羅の布が飾り付けている壁に背を向けて、彼はジャスミンのインセンスを焚いた。ソファであぐらをかいて、あれこれ語って、眠気に襲われて、夜道を走って帰った。駐車場から家まで歩く間にほんの一瞬、風に吹かれて、髪に纏ってしまったジャスミンの匂いが鼻に強烈な刺激を与えた。

しばらくの間頭の中に、チャクラのタトゥー、Sの囁きのような柔らかい声、暗い橙色の光に染まった曼荼羅が、壊れた映写機にかけたフィルムみたいに、空回って再生され続けていた。

こういうのは只々光を拒む足踏みをしてるだけだということ、ずっと前から気づいたのに。

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