見出し画像

日本の民家 今の日本の家と、別の惑星のように違う――今となっては懐かしい

1962年のカラー記録映画(英映画社)。映像がこよなく愛おしく美しい。

*鹿児島 火山と台風に対応した造り。痩せた地質に対応した農の営み
*佐賀 台風、材木不足に対応し複雑な構造の屋根。生活で藁の多用
*島根 出雲の文化。海風、洪水を防ぐ黒松の築地松(ついじまつ)
*兵庫・丹波地方 都への通路、入母屋(いりもや)造りの風雅さ。竹を用いた副業
*奈良 独特の形態の屋根の高塀(たかへえ)造り(切妻の高さが家ごとに異なる)。土間に5つ並んだ竈(くど)
*徳島・山間部 かずら橋、斜面地に建てられた寄棟・三方構え。平家の落人伝説
*岐阜・奥飛騨 土地がなく上に伸びる、急勾配屋根の合掌造り。煙で2、3階までいぶす
*群馬 養蚕に適合した造り、桑木で煮炊き
*岩手 馬と家族の如く生活。同じ屋根の下、母屋と同等に立派な厩(うまや)
*新潟、山形、秋田 豪雪、大きく丈夫に造られている。かまくら遊び

と順々に、

各地方の自然の特質、そこに生まれた産業、暮らしの営みを描き、それを背景とした民家の姿を描いている。

その民家における普通の生活を描く

その中における人々の生活(食事、家内を歩いて移動する、客をもてなす、子らの手遊び、藁打ち、養蚕などが描かれているのが愉しい。はにかむような控えめな表情がどれも佳い)や地域の風物が、さりげなく淡々と描き込まれている映画。絵作りも見事なドキュメンタリーである。

また、ナレーションの説明こそ付されないが、縁側、シンプルな間取り、居間、座敷、仏間、土間・台所、かまどなどが淡々と映し出される。

映画公開当時、ナレーションで説明するまでもなく、観る人々にとって当たり前だった光景。

いまや、それら全てに細かい説明が必要なほど、産業、生活の様式、そして住まいのかたちが変わってしまったわけで、貴重な記録映像と思う。

わらぶき屋根、太い黒ずんだ木の柱・梁、障子、ふすま、いろり、掛け軸などに至っては、映画の「背景」として登場する、「あまりにありふれた」光景。

しかし、掛け軸などに、日本人が古来、外来文化の吸収に努め、それが民間にも浸透していたさまがさりげなく感得できる。

古来の生きたかを支える明治、昭和の新しい道具

そこに、明治や昭和まではなかった新しい道具、すなわち金属やプラスチック製の容器、道具が、上述の江戸時代以来の産業、生活の営みの「ために」自然に使われているさまも興味深い。

映画の作られた2年後に新幹線の開業、そして東京オリンピック、テレビの普及があった。

その後、第一次産業の徹底的な解体、古来の文化が溶解していくような状況、日本中どこに行っても画一的な建物・・・といった風景を私たちは今日、目にしている。

若い世代は、この映画で映し出されたような「家」の原体験すらない。

多くのものを失ったと思う。地方ごとの多様性といったことも含めて。

クリスチャンの生き方はそんな日本文化を支え得るか

最後に、クリスチャンとしてどうしても思うのは、描かれたような、昔からの民家の生活に、あまりにピューリタン過ぎるキリスト教は入る余地がないように感じること。

古き良きものを活かしながら、それをクリスチャンの生き方をもって強めるという試みは各地であったが、それが大きく根付くということもなしに終始したことは心許ない話である。

しかし、そのような挑戦は今後、再び大きな可能性を秘めているかもしれないとも思う。

田畑や、森林の管理を知らず知らずに行っている山間部の人々の
営みがあって、下流の都市部は洪水被害から免れ、
安全でおいしい水が確保されてきたことを私たちは忘れがちである


noteでは「クリエイターサポート機能」といって、100円・500円・自由金額の中から一つを選択して、投稿者を支援できるサービスがあります。クリ時旅人をもし応援してくださる方がいれば、100円からでもご支援頂けると大変ありがたいです。