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カメラを買い換えようと思ったら買い足していた話

最近カメラを始めた友人がそこそこいるので、そういった人たちに向けて「カメラを買う人は何を考えて機材を選んでいるのか?」を書き出そうと思う。

結論としては買い換えではなく買い足しになったのだが、思考の過程を追うことで「カメラを買う人ってこういうこと考えてるんだ」という部分を理解していただければ幸いである。この思考はあくまで一例だが、参考になれば嬉しい。始めに言っておくと、我々はカメラやレンズを考えなしに買っているわけではないのである。

モチベーション


カメラを買い換えたい。2019年の12月に OM-D  E-M1 MarkⅡ を買ったのだが、コロナ禍で旅行の頻度が下がったことで使えていない。最後に旅行で使ったのは2020年の7月になる。

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ボディもさることながら M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO の手ぶれ補正がとにかく優秀で、上の写真は手持ちにもかかわらずシャッタースピードは1/5秒でバッチリ止まっている。

カメラ初心者向けに解説すると、「ブレ」には被写体ブレと手ブレの二種類がある。上の写真でいえば水の流れる感じは被写体ブレを意図的に使ったテクニックだが、長時間シャッターを開けると手ブレも起こりやすい。E-M1Ⅱと12-100の組み合わせは業界屈指の手ブレ補正が可能で、写真の歩留まり率をグッと上げることができる。望遠では手ブレが起こりやすいのが悩みだが、E-M1Ⅱ+12-100では夜間ですらほとんど困ったことはない。

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別に10万円超のレンズを使わなくたって、歩道橋の手すりに依託すれば安いレンズ (M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro) でもこれくらいは撮れてしまう。

とはいえ、12-100と組み合わせると望遠での夜景撮影を手持ちで(!!) 楽々できてしまう点はとても気に入っている。何枚も撮ったうちの一枚ではなく、毎回これくらい止まってくれるので本当にありがたい。

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カバーできる焦点域も考慮すれば、マイクロフォーサーズはフルサイズでシステムを組むより遙かに機動性が高く、安上がりだ。確かにセンサーサイズが小さく、狭いダイナミックレンジに不満はあるが、そこを妥協してでも機動性を求めた結果購入したのだ。「ダイナミックレンジが狭い」といってもそれはフルサイズやAPS-Cに比べての話で、かの岩合光昭氏だって猫を撮るのに使っているのだから、用途次第ではプロユースにも耐えられることは言うまでもない。

この辺りの用語がわからない初心者はSONYのサイトがなんだかんだ分かりやすいので参照して欲しい。

しかし、である。E-M1Ⅱはフラッグシップ機である。旅行には軽いといっても、スナップシューターのような使い方はしにくい。カバンに入れて、出すのもしまうのにも手間はかかる。

もっと手軽に撮りたいと願えば、自然と機材を見直すことになる。そして、はたと迷ってしまった。ちょっとだけ昔話をしてから、落ち着いて選定してみよう。

寄り道、カメラ遍歴

最初の一眼カメラはNikon D40だった。高校生の頃に買ってくれた両親には本当に感謝している。カメラの楽しさを覚えられたのは確実にD40のおかげだ。ロクな写真が残っていないが。

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600万画素という今からは信じられない低解像度で、フォーカスエリアはたったの3箇所で、ISO感度も1600くらいにするとノイズでガビガビになるカメラだったけれど、AF-S DX NIKKOR 35mm F1.8G という有名な撒き餌レンズで「制約のなかでどう撮るか」を覚えていった。

とはいえD40だとB5に印刷するのも辛かったので、就職して懐具合に余裕ができたのを機に2014年にD7100を買った。AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED は本当に素晴らしくて、目とオートフォーカス機構が直結しているのではないかと錯覚するほど合焦が早い。とはいえメインではタムロンのA09(28-75mm F/2.8)を主に使っていて、様々な旅行で活躍してくれた。

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そして2019年、「前にカメラ買ってから5年経ったし、旅行カメラをアップグレードしたいな」と思い、迷った末に機動性重視でマイクロフォーサーズに移行した。総重量1kgで何でもできるというのは、フルサイズはもちろんAPS-C機でもできない芸当だ。

しかし襲ってきたコロナ禍で、「旅行カメラ」という当初の予定が全部狂ってしまった。そしてスナップシューターレベルの機動性が欲しくなって今に至るというわけだ。旅先で大きなカメラを持つのは抵抗がないが、流石に近場だと厳しい。ファインダーがなくなっても、軍艦部の小さいカメラのほうが嬉しいのは第一条件だ。

第一候補、RX100

買い換え先として真っ先に思いついたのは高級コンデジの優等生、RX100シリーズだ。スペックだけ見れば不満はない。しかし、1.0型というセンサーサイズゆえにダイナミックレンジに不満がある。この点はマイクロフォーサーズではそこまで厳しいとは思わなかったのだが、作例を見るとけっこう差が気になるのは事実。とはいえ軽いし、小さいし、E-M1Ⅱ一式を下取りに出せばお釣りが返ってくる。かなり嬉しい。

第二候補、α7C

α7Cでフルサイズ移行というのもアリかナシでいえばアリだ。レンズ資産は持ち出せないが、12-100くらいしか目立ったレンズはないので売却すれば良く、マウント移行自体に抵抗感はない。となると、気になるのは重さとサイズだ。重さはともかく奥行きが結構ある。加えて、フルサイズである程度の焦点域をカバーしようとするとレンズが急に嵩張ってくる。普段使いならばパンケーキレンズで事足りるが、このサイズで気軽に持ち出せるかどうか、が課題となる。

まして、旅行となると現状の便利ズームと同等のレンズは存在しない。12-100は携帯性と性能を高いレベルで両立している唯一無二のレンズで、しかも最強クラスの手ぶれ補正を持つ。このためにマイクロフォーサーズを所有していると言っても過言ではない。

とはいえフルサイズのダイナミックレンジの広さと階調表現はマイクロフォーサーズでは物理的に太刀打ちができないので悩みどころでもある。

第三候補、E-P7

良い感じのマイクロフォーサーズはないかなと思ってサイトを見ていたら PEN E-P7 という PEN の新モデルが出ていた。E-M1ⅡとM.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macroを売ればある程度元が取れる。

スナップ用に LUMIX G 20mm F1.7 II ASPH. 辺りを買えばかなり良いスナップシューターになりそうだ。ということを考えると、RX100はレンズを手放すほどでもないだろうということでα7C vs. E-P7の一騎打ちになる。

マイクロフォーサーズの良いところは、プロユースのレンズでも20~30万円も出せば大抵手に入るところだ。たとえば自分が持っている 12-100mm F4.0 IS PROであれば35mm版換算で24-200mm, F4通しでレンズ内5軸手ぶれ補正という至れり尽くせりスペックではあるが15万円ほどで手に入る。もちろんフルサイズと比べて不利な点はいくつもあるが、その辺りは「自分はカメラに何を求めるか」でしかない。自分の場合、求めるのは機動性と旅行での便利さだから、マイクロフォーサーズはいい選択になる。とはいえ、フルサイズへの憧れは捨てがたいものがある。うーん、困った。

実機確認、そして

百聞は一見にしかず。実際に触ってみないと分からないというわけで、実機を量販店で触ってきた。まずα7Cだが、サイズ的にはE-M1Ⅱとほぼ変わらない。かなりフィーリングは良いが、マウントを変えるほどだろうか、旅行用途で良いレンズを考えると良い感触はない。というわけで候補からドロップ。

次にE-P7。E-M1Ⅱと比べてもかなり小さく、持ち出しやすそうだ。けれど、確かにスナップ用途なら良いが、これに561gの12-100をつけることを考えると恐ろしい。かなりトップヘビーになることは装着せずとも予想でき、一日どころか半日撮影すれば握力を使い果たして手が痛くなりそうだ。これでは旅行に持って行きにくい。

RX100は確かに小さくて良いのだけど、写りを犠牲にして小ささを取るのであればE-P7でも良さそうだ。

さて、どうするか。実店舗の良いところは、様々なレンズを見ることができるところ。何の気なしにマイクロフォーサーズのレンズを眺めていたら、気になったのが LEICA DG SUMMILUX 25mm F1.4 ASPH だった。

E-M1Ⅱとの比較のために 30mm F3.5 Macro を装着して来ていたのだが、装着してみてあまりにしっくりきてしまった。答えはシンプルだった。

E-M1Ⅱでもスナップできるようにすればいいじゃん。

量販店までE-M1Ⅱを持ってくる過程で気付いていた。重くなる原因は、561gの重いレンズだ。200gくらいの軽量レンズなら、E-M1Ⅱも持ち出しやすい。しんどいのは、ボディのいかつさではなく大口径のレンズだったのだ。サッと取り出せるカメラバッグを買う方が良いという、なんともつまらない結論に至ってしまった。

帰宅して即、30mm F3.5 Macroを下取りに出して LEICA DG SUMMILUX 25mm F1.4 を買った。最短撮影距離が10cmから30cmに伸びてしまうが、10cmまで被写体に寄る機会より、F1.4まで開放で撮りたい機会のほうが多いのだからそこは割り切るほかない。

そんなわけでさようなら、30mm F3.5 Macro。楽しいレンズだった。

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取り出しやすいカメラバッグを求めて

次の課題は取り出しやすいカメラバッグだ。現状はマンフロットのバックパックをメインに使っているが、横からアクセスできるわけではないので取り出しに少し手間取る。バックパックは両手がフリーになって嬉しい反面、カメラへのアクセスは少しまどろっこしくなる。これはもう仕方のないことだ。

というわけで、トートバッグタイプを選ぶことにした。これは店頭で見かけたハクバのチュルルが可愛いくて使い勝手も良さそうだったのでイエローを購入した。

感想としてはインナーケースが少しチープなので別のインナーケースを使うのも手ではあるが、普段使いで持って行けるサイズと使い勝手でかなり良い。ギリギリ、12-100を入れていても短時間なら運用できそうだ。

買い足そう。小さく軽いフルサイズ

さて、私がカメラに求めていたものは何だっただろうか。マイクロフォーサーズに求めているのはシステム全体での機動性だ。旅行の際、フルサイズならば小三元レンズ2本分の役割を1本で賄えるメリットは捨てがたい。

けれど、ツールとしてカメラを見た時となると大きなボケ量や豊かな階調表現が欲しい場面もある。となれば、必要なのはセンサーサイズの大きいカメラになる。できれば持ち出しやすくあって、かつ安いとなお嬉しい。そんな夢のようなカメラはあるだろうか。

答えは「人によってはある」となる。私の場合、それは RX1 であった。

2012年発売と古いカメラではあるが、フルサイズセンサーを搭載し総重量500gを切る(フルサイズとしては) コンパクトなカメラである。RX1RⅡは中古でも20万円近くするが、旧モデルであるこちらは中古ならば10万円未満で入手できる。これを「安い」と認識する辺りでカメラを買わない人からしたらドン引きかもしれないが、安いのだ。信じてほしい。

AF速度や電池の持ちに難はあるものの、スナップをメインにしたサブ機と考えればこれ以上のハマり役もないだろう。

固定レンズのスナップ機としてはAPS-CではあるがGRⅢも候補に挙がる。個人の感触ではあるが、自分としてはRX1のサイズ感でも十分コンパクトだと感じたためRX1にした。APS-Cとマイクロフォーサーズだとそこまでセンサーサイズの差を感じないのだからAPS-C機を買い足す意味は私にはないというのもある。

この辺りは完全に趣味とフィーリングと好み、そしてカメラに何を求めるかの問題だ。たとえばFoveonセンサーが好きならばdpシリーズを買えば良いし、RX1でも大きいと思えばGRⅢやX100Vが良いだろう。

大事なのはそのカメラを入手することで何を得て、何を捨てるのかを吟味できることだと思う。前者に注目する人は多いが、全てを満たすカメラはこの世にない(たとえあっても異常な値段になるだろう)のだから、「何を捨てるか」を考えることはとても重要だ。

私が捨てたものと、サブカメラが拾うもの

マイクロフォーサーズを使う私が捨てたのは、豊かな階調表現と、高感度耐性と、高解像度だ。これだけだと悪いことしかないように見えるが、これらのデメリットは圧倒的な機動性を得るための代償でもある。加えて、解像度が低いのは連写性能の点ではプラスに働くこともある。たとえば、プロレス会場では時折驚くような画が撮れる。

たとえば2020年のDDT大田区総合体育館大会メインイベントで撮れたこのシューティングスタープレスは、圧倒的な連写速度によって得られたものだ。

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捨てる覚悟を得るには、「なぜ写真を撮るか」を考える必要がある。そこで得られた「自分のカメラに必須の要件」を考えると、自ずと何を買うかは定まってくる。私の場合は機動性と夜間でも手持ち撮影ができること(もちろん旅行を考えてのことだ)だったので、E-M1Ⅱに落ち着いた。

もちろん、必須の要件を考え抜いても機材が増えることはある。だから、たくさんレンズを買っている人が間違っているわけではない。私はたまたまE-M1Ⅱと、旅行用の便利ズーム一本と、スナップ用の単焦点一本があれば今のところ足りているが、スポーツ撮影用に45-150は正直欲しい。絞りが一段階開放側に変わればシャッタースピードは1/2にできる。スポーツ撮影ではとても嬉しいのは言うまでもない。テレ端300mmは後楽園ホールなら確実に足りるし、テレコンがあればデーゲームの野球場にだって持って行けそうだ。

捨てたものが明確ならば、そこを補完するサブカメラも案外単純に求まってしまうのだな、というのが今回の買い換えにあたって気付いたことだ。もちろん求めるものによっては迷うこともあるので、私は運が良かったのだろう。

こんにちは、フルサイズ

というわけでお迎えしたRX1。ヘッダー画像にもしているが、ヘッダーは新しく買った LEICA DG SUMMILUX 25mm F1.4 ASPH で撮影している。マイクロフォーサーズではあるが、開放で撮るとかなり良好なボケが得られるので良い感じだ。

そんなわけで、早速RX1を持って渋谷に繰り出してみた。楽しい。

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撮ってみた感想だが、流石に2012年のカメラなだけあってISO2000くらいからノイズが気になりはじめる。フルサイズ機としてみると微妙だが、D40で鍛えられているので気にはならない。

プラス面に目を向けると、ダイナミックレンジの広さや描写のきめ細やかさは流石といったところだ。E-M1ⅡもRX1も2400万画素程度のカメラだが、画素数あたりのイメージセンサーサイズ差というものを如実に感じる画になっている。

20万円出してRX1RⅡを買うとなると迷うが、生産終了を経て中古価格が10万円を切っているRX1/RX1Rならばかなりお買い得だ、というのが正直な感想になる。

カメラポーチには入らないためレンズポーチに入れる必要はあるが、E-M1Ⅱに比べれば圧倒的な機動性だ。何より、サッと取り出してサッと撮影するのはE-M1Ⅱでは不可能な芸当である。

このままだと25mmを使わないままRX1ばかり使ってしまいそうだが、35mmも50mmも好きな画角なのでそのうち二台持ち出しという本末転倒なことをしてしまいそうな位、新しいレンズも新しいカメラも気に入っているのが現状だ。

おわりに

世の中に数多あるレビューはかなり端折られている。「購入者が何を求めているか」「購入者が何を捨てているか」という部分を書くとこれだけの分量になってしまう。そういう事情を抜きにレビューを信じてしまうと痛い目を見るだろう。

たとえばRX1は「フルサイズセンサーを持つこと」「サブカメラとして持ち歩けること」以外の全てを捨てて購入しているから私は満足しているが、他の要素を求めているならば悪いカメラになる。たとえば子供を撮ろうと思ったらAFの遅さは致命的だ。マイクロフォーサーズだって、私は機動性で選んでいるが豊かな階調表現やボケ量を強く求める人ならば全く良い選択肢にはならない。

そして難しいのは、ある程度カメラに慣れないと「自分に何が必要なのか」が分からないことだ。そういうわけで、カメラを最近買った人は機材のことはあまり気にせず手頃な中古APS-C機でバシャバシャ撮って、困ったら周りの詳しい人に聞けばいいのではないだろうかというありきたりな結論に至ってしまった。

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