『発達性トラウマ』を読んで、トラウマ観がアップデートされた

『発達性トラウマ「生きづらさ」の正体』を最近読んだ。

今でこそ普通に過ごしてはいるが、私は小学校高学年ごろからずっと陰鬱な気分で生きてきた。万物は仕方なくやらされるもので、ゲームや漫画といった現実逃避意外に生きる理由なんて一つもなかった。

そんな日々が変わったのは、岡田尊司の『愛着障害』を読んでからだ。それまでは普通の家庭で愛情を受けながらどうして……と思っていたが、普通に家庭環境が異常だったのだ。少し機嫌を損ねれば黙りこくってコミュニケーションを拒否する両親というのは、どうやらあまり良い親ではなかったらしい。そこからアダルトチルドレン概念を学んだり、『子は親を救うために「心の病」になる』を読んだりして、気分はだいぶ良くなった。

心理療法についても様々な手法を調べた。2019年ごろには短期間カウンセリングに通ったが、そこでは「D.D.バーンズが手法を洗練させる前のところまで自力で来ている」「ここまで自力で臨床心理学を調べる人間は初めて見た」と言われ、最終回ではカウンセラーの先生が「心理学会で河合隼雄先生がこういう話をしてて……」「やっぱり無意識に行き着くんですねぇ」みたいな話をしていた。その後に『疾風怒濤精神分析入門』を読んで、なるほどあの先生はラカン派のエッセンスも持っていたんだなと納得したりした。

苦しみから逃れるために臨床心理学を調べる、という人生を送っているので当然『身体はトラウマを記憶する』も存在は知っていた。しかし、「トラウマというほど大きな傷を受けてないからな……」と思い手に取っていなかった。

最近、Kindleの日替わりセールで『発達性トラウマ』が安かったので、まぁ新書だし読んでみるか……というノリで読んだのだが、どうやら私はトラウマという語の定義をまるっきり間違えていたらしい。

トラウマは大きな傷を指すものではない

トラウマというと戦争や災害、あるいは性暴力といった存在の基盤を揺るがすような大事件をイメージすることが多い。しかし実際には、生物は一時的な大きなストレスよりも小さなストレスを断続的に受け続けるほうが良くないらしい。

複雑性PTSDの研究は「性的暴力の後遺症が戦争神経症と酷似している(pp.43)」ことからきているらしいが、性的暴力の多くは対人での支配的な関係性をもとに長期にわたって行われる。戦争神経症もまた、戦地でいつ攻撃されるかわからない不安に長く晒されることが良くないとされている。

そして、どうやら戦争や性暴力のような大きなダメージでなくても、小さなダメージを積み重ねるのも良くないらしい。生物にとってストレスというのは捕食されそうな時に馬鹿力を出す源になるもので、短時間のものはむしろ耐性があるように見える。この解釈はわりと進化生物学っぽいので本書の論旨ではない。

本書では「トラウマ≒ストレス障害+ハラスメント→自己の喪失、対人関係の障害、その他」という図式を持ち出している。

その回復のためには、

  1. 環境を調整する

  2. 身体を回復する

  3. 自己を再建する

  4. 記憶・経験を処理する

  5. 他者とのつながりを回復する

という手順を踏むことが大事らしい。この図式化はとてもためになった。

症状にフォーカスする限界

症状にフォーカスするのは②までの段階で、ここまでは認知行動療法をはじめとして多くの知見が存在する。しかし、トラウマ≒ストレス障害+ハラスメントを受けている人は、原因となった自己中心的で感情的な人たちのようになりたくないと感じている。他人の感情に振り回されて酷い目にあったのだから、自分はそうなりたくないと思うのだ。

人によっては「自分は他者を傷つけてしまうのではないか」という加害脅迫を感じてしまうそうなのだが、私はまさにこのタイプだ。自分の感情は人を傷つけるから、感情を排する癖がついている。

そういう人は自分のエゴや感情を抑圧しがちになり、自己の再建以降のフェーズがうまくいかないと本書では説かれている。

そしてこれは、ものすごく心当たりがある。

実家を出て環境を調整できた。トレーニングをして、身体を回復もできた。なのに、自分と他者の間に膜があるように感じる。感情を必要としない仕事面のコミュニケーションは取れるが、感情を必要とするコミュニケーションはうまく取れない。取ろうにも、自分がどう感じているかがわからない。

その理由がようやく分かったのは大きな収穫だ。

まずは、しっかりと自己中心的である必要があります。自分を大切にするということを前提に、自分の都合で考えて、自分の欲とは何か、何がしたくて、何がほしいか、とシンプルに考えることを心がけます。(pp.157)

自分一人で完結しない時でも自己中心的である、というのが次の課題なのだろう。頑張っていきたい。

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