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【エッセイ】てんやと茶髪

はじめまして、チョーシ・クルーニーです。
ごく普通のサラリーマンです。
毎日楽しそうにしているイケイケ人間を見るとなんだか引いてしまう。
そんな人間です。
ちなみに、チョーシ・クルーニーという名前は本名じゃないです。
純日本人です。
これから駄文を書いていこうと思いますが、貴重なお時間をいただくのは気が引けるのでお忙しい方はこのページを閉じていただいて大丈夫です。


まじで期待しないで読んでいただきたい。
笑える話とも思っていないし、何よりもこれを面白いと思っているような人間なんだと思われてしまうことを避けたい。
ただ、思いつくままに書いてみようと思っただけなのだ。


てんやと茶髪

大学生の頃、体育会系の部活動に所属していた。
もともと推薦で入部が決まっていたので入学前から練習に参加せねばならず、他の同級生よりも一ヶ月ほど早く地元を離れ上京した。
そのため大学にもまだ通っていないので、親の監視から外れ自由を手に入れたものの、友人もおらず私は孤独感に苛まれていた。
一人暮らしを始めると驚くほど会話をしない。
コンビニの店員に対して言った「あ、レシートいらないです」が一日を通して唯一、口に出した言葉だったことも珍しくなかった。

ある日、先輩たちが一年生の歓迎会を開いてくれる事になった。
孤独を感じていた私にとって嬉しい限りだったが、
大学の歓迎会というと派手なものをイメージしてしまう。

私は高校時代、教室の窓際で五〜六人でたむろして深夜バラエティの話題で盛り上がるような生徒で、決してクラスの中心にいるような人間ではなかった。その頃の私たちはカラオケとかボウリングとかそういった「陽キャラ的集まり」が苦手で、クラスの中心にいてかっこいいと言われている生徒たちを馬鹿にしてキモい笑い声を発していた。本当は憧れていたのに。
そんな私は歓迎会を楽しめるだろうか・・・
せっかく自分たちのために開いてくれるのだから途中で帰る事なんて許されないだろうし・・・

歓迎会当日、練習後に私服に着替えた先輩が、ボディシートで首の辺りを拭きながら
「そういえば今日は一年生の歓迎会だな!せっかくだから贅沢でもしようか!」と言った。
当日になっても歓迎会の予定は何も決まってなかったが、「贅沢な食事」に連れて行ってくれる事になった。

連れて行かれたのは「てんや」だった。
「おまえら好きなものを食え!」
先輩が豪快な笑い声を発しながらメニューをこちらによこしてきた。

好きなものと言われても天丼しかなかったので、みんなで天丼を頬張った。
食事中、その先輩が「おい、ギャルがいるぞ」と言ってきた。
「東京にはギャルがいても珍しくないからな」と声を低くして少し離れたテーブル席を指差した。

ぜんぜんギャルじゃなかった。ギャル要素をあげるとしたら茶髪という所だろう。しかし、茶髪といっても大学生になりたての若者がとりあえず髪の毛を染めてみましたっていう感じの「控えめ茶髪」だった。

その瞬間、先輩が「こっち側」の人間だと分かった。
派手な遊びや食事を知らないから、後輩たちを自慢げに「てんや」に連れて行くし、女の子とあまり遊んだことがないから茶髪なだけでギャル認定してしまうのだろう。

ただ、そんな先輩を見て私は、変にカッコつけずに自分自身のダサさとかカッコ悪さを受け入れている先輩みたいな人の方が私は好きなんだと理解した。

そんな先輩に妙に親近感が湧いて、その食事は盛り上がった。
そしてその先輩が案の定、童貞だということも発覚した。

大学生活を通してその先輩はとても良くしてくれた。
先輩のアパートにも幾度となく通ったし、先輩の失恋話を100回くらい聞いた。

時は流れ先日、その先輩に子どもが生まれたという。
あぁ久々に先輩にあって、お互い社会人に、そして父親になった近況を語り合いたい。

場所はもちろん、あの時の「てんや」で。


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