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花嫁の体は夜になると燃えさかる

結婚を期に住むことになった、お気に入りのアパート。引っ越しの日が、いよいよ迫ってきた。

どうしよう。

夜眠れない。何をしていても集中できない。緊張?ちがう。マリッジブルー?ちがう。

かゆい。

かゆいかゆいかゆいかゆいかゆい!

かゆすぎるのだ、からだが。


悪夢のはじまりは約一週間前。生理がおわる頃からなんとなーくあったかゆみが、強くなってきたのだ。はじめは、生理用品でかぶれたのかな?くらいにおもっていた。しかし、日に日に増すかゆみは、ついにわたしを発狂させた。

「おまたかゆいいい!」

……ごめんなさい、包み隠さなくて。わたし、自分で言うのもなんですが、何でもオープンに大声で言いすぎるのです。潰瘍性大腸炎で入院をしたときに恥じらいは消えました。自分のからだがつらければ叫びたくなりますとも。がまんができないのですとも。

家でも彼の前でも何度も叫んだ。「おまたかゆいいい!」かゆくてかゆくて何も手に付かない。婦人科で診てもらうと、「腟カンジダ再発」。やっぱり。何年か前に一度なったんだよ。ステロイドを飲んでいてレミケードの点滴もしているわたし。免疫力落ちているところに、やってきたカンジダちゃん。

素直すぎる自分のからだに、乾杯(完敗)。


カンジダの診断後、すぐに次の異変。

かゆいのだ。今度は別のところがかゆいのだ。

「乳首かゆいいい!」

……ごめんなさい。でもほんと、叫ばないとやってられない、かゆさと不安。デリケートゾーンがこうも次々にやられると、生きた心地がしないのですとも。

服が擦れるたびにかゆくて、痛みも出てきて、よく見るとジクジクかさぶたみたいになっている。皮膚科に行き診てもらうと、この症状で来られる方は珍しくないですよ、と。先生の言葉と塗り薬で、気持ちが落ち着いた。乳首が取れるかとおもって、すごくこわかったんだもん。もんもん。


だがその日の夜、お風呂上がり。また異変が起こった。

かゆいのだ。まだおまたもかゆいし乳首もかゆいのに、かゆいのだ。

「全身かゆいいい!」

お風呂上がりに鏡にうつった体を見て絶叫した。首も、お腹も、背中も、足の付け根も脇の下も。小さなブツブツがたくさんできている。そして、猛烈なかゆみ。

もう、かゆくてかゆくて、切なくて、つらくて、服も着られず、裸で泣いた。

再び行った皮膚科では、ヒートテックなど衣類の重ね着による締め付けや汗、ムレが原因と言われた。もう、からだ全部かゆいし、花粉症で目もかゆいし、かゆいよ。かゆいって言い過ぎてわけわからん。かゆい。

いま、わたしは、おまたに錠剤を入れて薬を塗って、乳首にも薬を塗って、全身にも薬を塗って、なんとか正気を保っている。体が温まるとかゆみが増すので、湯船に浸かれないし、一番つらいのは夜だ。布団の中でほかほか温まったからだは、かゆみが最高潮に達し、とても朝まで眠ってはいられない。おまたが燃えている!と目を覚まし、夜中何度もトイレに行き涙目でビデをする……ああ、今夜も眠るのがこわい。

こんな大事なときになんで、とおもう。引っ越しの支度も手続きの準備も終わらない。でも、こんな大事なときだからなんだよな、きっと。それくらいわたし、いま色々考えてたり、いま頑張りたかったり、いま幸せだったり、するんだよな。だから、大事なところ、かゆくなった……

素直すぎる、自分のからだに、乾杯。叫びを聞いてくれる、大事な人達に、乾杯。自分のからだが辛ければ叫びたくなりますとも。でもそれは、受け止めてくれる場所があるからできるのだと、感謝の雨。


雨よ、燃えさかる花嫁を、鎮火してくれ。










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