合唱団響の演奏会に行き、コミュニティクワイアについて考える
こんにちは。少しのあいだ、一時帰国をしていました。さわやかな青い空に風、枝先に止まったトンボ、キンモクセイの香りに、秋を感じました。常夏のシンガポールも過ごしやすいけれど、気温も天気も日々繊細に移り変わる、季節のある日本もいいですね。今はもっと季節が進んで、冬を感じるころでしょうか。
合唱団 響 演奏会2022 〈C.H.に〉
日本に滞在しているあいだに、東京で活動する合唱団響の演奏会に行くことができました。
演奏会のタイトルは「合唱団 響 演奏会2022 〈C.H.に〉」。C.H.とは、ノルウェーの合唱指揮者、カウンターテノールのカール・ホグセット氏のこと。この合唱団はカール・ホグセット氏とのつながりが深く、今回の演奏会は、2021年6月に亡くなったカール・ホグセット氏への思いを底流に構成されています。
演奏会プログラムの冒頭には、合唱団響の音楽監督・指揮の栗山文昭氏のメッセージがありました。
これを読んで思い浮かんだのは、シンガポールのCommunity Choirのこと。
オーディション無し、未経験者歓迎のCommunity Choir
シンガポールでも、音楽経験に関係なく、歌いたい人を歓迎する合唱団があります。多くが、Community Choirと名前がついている合唱団です。未経験でも、歌いたい気持ちがあれば大丈夫。合唱の体験会を行なっている団もあります。
こちらは、最近見かけた、Community Choirの体験会のお知らせです。
音楽経験やレベルを問わない団員募集の告知を見たり、Community Choirの演奏を実際に聴いたりすると、なんとも言えないうれしい気持ちで胸がいっぱいになります。特に、多少粗があってもすばらしい演奏をしていて、演奏しているひとたちが合唱を楽しんでいることが伝わってくるとき。
未経験者に扉が開かれていて、合唱の楽しさを外に向かって共有しているような合唱団が好きです。こういう活動を通して、合唱をするひとの裾野が広がり、合唱の世界も、その地域も豊かになっていくんじゃないかなと、大げさだけど思います。
合唱団響の演奏
話は戻って、合唱団響の演奏会について。私が合唱団響が好きなのは、このCommunity Choirに似ているところだと気付きました。
合唱団響の演奏は、プロと比べたら粗があるけれど、むしろ、きれい過ぎなくていい。人間の体温や体臭が感じられる、心に響く演奏をするところが、もともと好きでした(自分の歌の技術を棚に上げて書いてます。ごめんなさい!)。
特に、今回の演奏会では、三善晃(1933-2013)曲/高田敏子(1914-1989)詩 混声合唱組曲「嫁ぐ娘に」(1962)がよかったです。この合唱団は、日本語の、こういう市井の人たちの生活や人生を表す曲の演奏が、すごくいいと思います。それは、曲の内容が、彼らの、そして聴いている私たちの人生や生活と地続きだからでしょうか。
人生のなかで訪れる悲しみや喜び、日々の生活のささやかな心の動きを、演奏を通して表現していて、しかも演奏者はすごく身近。一緒に合唱をしたいと思ったら、一歩踏み出せばそれは叶います。
合唱のすばらしさを分かち合おうとその地域に門戸を開く合唱団が、ノルウェー、東京、そしてシンガポールにある。そんなことを想って、合唱のおもしろさに改めて感じ入りました。
おまけ
今回委嘱・初演された信長貴富(1971-)曲/長田弘(1939-2015)詩 混声合唱・弦楽合奏・ピアノのための「詩想の森 -2つのバラッド-」が、とてもよかったです。曲が、詩がストレートに胸に響いて、演奏がはじまってすぐに涙が出ました。思わず詩集を買いました。詩集に付いているグスタフ・クリムトの森や花々の画は、思わず深呼吸したくなったり、日差しのまぶしさを感じたりするような、臨場感です。時折手にとって、ながめたくなります。
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