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「色気」について考える 其ノ四 結髪にこめられた想い

みなさん、こんにちは。 銀座 蔦屋書店で日本文化の担当をしている佐藤昇一です。

このnoteは、20年近く歌舞伎の舞台に立っていた、変わった経歴の本屋さんが書いています。めずらしいものをみつけたと思って、お付き合いいただけるとうれしいです。

お店にて松本幸四郎さんたちが新しい歌舞伎化粧に挑む「Kesho」写真展が始まりました。その準備のドタバタでなかなか新しい投稿ができませんでした。ごめんなさい。ぜひ、お店にもいらしてくださいね。投稿の感想をお聞かせ下さるとうれしいです!

前回までのまとめ

今回のお話は、「色気」について考える 其ノ三 ハレの日の色気 の続きにあたります。 歌舞伎の世界から足を洗って少し経った頃(本屋さんになるもっと前)、美容師さん向けの媒体「cocoa paper」で「色気について」というお題で連載をはじめることに。

それから「cocoa paper」が休刊するまで1年間数か月、5回にわたって「色気」について考え続けました。その第4回目の記事を掲載します。お題は「結髪にこめられた想い」です。さて、どのような「色気」について語っているのでしょうか?

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其ノ四 結髪にこめられた想い

この文章を執筆している現在、ある講演に向けた準備が佳境を迎えています。テーマは「女性の結髪」について、お客様はなんと美容師の皆様。あくまでも文化的側面からお話をするのですが、プロの方々がお相手ということで、いつにも増して内容の入念な作リこみとチェックをしているというわけです。

「結髪」の不思議

歌舞伎俳優の修行を始めたばかリの頃、主に立役(男役)を演じていた自分にとって、「女性の結髪」は縁遠いものでした。

「なぜ長く伸ばした髪をぐるぐるに巻くのだろう?」

こんな素朴な疑問を漠然と抱きつつ、たまに女形を演じてもかつらの重さに文句を言うくらいで、あまリ興味も湧かぬまま。しかし後年、「歌舞伎のかつら」を理解するために「結髪」についての文献を読みあさっていたとき、不意にその答えに出会い、一気に「結髪」という文化に魅入られたのです。

「垂髪」から「結髪」へ

江戸時代まで女性の正式な髪形は「垂髪」(ポニーテールみたいなもの)でした。しかし家事をするには邪魔になるため、まとめる必要がある。かと言って、急な来客などに備え、元に戻せるようにしておかなくてはならない。その結果、髪をぐるぐる巻いて棒を挿して留めるという、「結髪」の元となるスタイルが生まれたのです。そして、次第にその結い上げた髪形が日常生活のスタンダードとなりました。

洗練されていくスタイル

「結髪」が当たリ前となり、髪を下ろす必要がなくなったとき、女性たちは様々な工夫を凝らしはじめました。髪をまとめ形作るための「髪油」、髪の量を補う「足し毛」「櫛」「莽」といったアクセサリー類まで、その多彩なアイディアには驚かされます。そして、「島田」「勝山」「兵庫」といった「結髪」の豊かなバリエーションが生まれました。

日々の暮らしから芽吹いた「結髪」というスタイル。それをはぐくんだのは、現代と何ら変わることのない女性の「おしゃれを愛する心」でした。江戸の世に咲き誇った「結髪」という大輪の花。その成熟の歴史をたどるとき、そこに残り香のようにただよう、あまたの女性たちの「色気」に思いを馳せずにはいられません。

*タイトル画像の髪型は、十能勝山という名称です。十能とは、炭火を運ぶ道具で、細い勝山髭がその柄の姿に似ていることから、その名がつきました。(著者画)

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