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他人事なお義母さん

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[登場人物]

・私 (都会で夫と二人暮らし)
・夫

・お義父さん(夫の父・地方でお義母さん、弟と3人暮らし)
・お義母さん(夫の母)
・弟(夫の弟・無職・実家暮らし)

・叔父さん(3人兄弟のお義父さんの弟・妻と同地方で2人暮らし・子供なし)
・叔父さんの妻(叔母さんが2人出てくるので叔父さんの妻とする)

・叔母さん(3人兄弟のお義父さんの妹・嫁いで同地方で夫と2人暮らし)

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弟との話を終え、今度はお義母さんに今の気持ちを聞いた。

「お義母さん、これからどうしたいか考えてくれた?」

お義母さんは、忙しいのにわざわざ来てくれてすまんなぁと言った後に

「○○(夫)と〇〇(私)さんには、この家をたてなおして欲しい。それだけが願い」

と言った。
この家、というのは自分自身と弟との生活のことを指している。
もちろんそんなことは当然で、ほったらかしにするつもりはない。
そのために色々と動いているのだから。

弟が介護の仕事をしたいと言っているから、
だからお義母さん自身も前向きに、頑張ってもらいたいと伝えた。

弟が仕事をするのならお義母さんは家に一人になってしまう時間も多くなるだろうし、
(本音を言えばもう食事の準備と紙おむつの交換以外、お義母さんの健康や清潔にすることをあまりしない弟にこのまま任せるのも不安だったため)
〇〇(私達の住む都会)に行く形で話は進めていい?

夫が聞くと、家を離れることに不安そうな顔を浮かべながらも、

「この家ももう古いからなぁ」
「もう体もこんなんで動けんからなぁ」

と、引っ越しを了承してくれた。
お義母さんに私達は、介護認定を受けるための手続きを行なったこと、
認定のための調査員が来るから、正直に聞かれたことは答えることを伝えた。
そして今後介護認定までにかかる期間(およそ1ヶ月)はこの生活のまま、弟にお任せすること、
介護認定が降りたらすぐに介護サービスを受けられるよう手配をして進めていく。
そしてその間にこちらでお義母さんの受け入れ先を探す段取りを説明した。

理解できているのかできていないのか、リアクションは薄かった。
弟にも、しばらくはこのままお任せすることになるので、
すみませんがお願いしますと言ってから、
調査の日程がわかったら連絡すること。
介護の調査員が来たら正直にできることとできないことを話すこと。
話が終わったら、夫も調査員と話がしたいから必ず電話をかけてくることをお願いした。

一連の説明が終わったあと、
早速と、私達はお義母さんのいる部屋の掃除にとりかかった。
まず弟にお義母さんを仏間まで移動してもらった。

夫は帰省に合わせてamazonで
ぺったんこになって腰に悪い敷布団の代わりに肉厚のマットレス、
クーラーのない部屋に危機感を感じたがクーラーが取り付けられないためせめてもの冷風器、
何かあったときのために様子が伺えるように、ビデオ通話ができる据え置き型のタブレット端末を購入し、実家に郵送していた。
そして出先でも何かあったらすぐに連絡がつくように、
夫は弟に携帯電話を購入し持たせた。もちろん支払いは夫だ。
弟は携帯を手にすると、それ以降ずっと携帯の操作や使い方に集中してしまい、
私達のことには見向きもせず違う部屋へ行ってしまった。

私達は夫の買っておいたものをセッティングするためにまずゴミと埃をとろうとした。
天井からもう何年も吊り下げられっぱなしのハエ取り紙。もちろん虫はたっぷりついている。
積み上げられた古新聞。
使われていないラジカセやオーディオ機器は弟に別の部屋に移動してもらった。
ビニール袋に入ったまま放置されたカビの生えた雑巾。
天井にはたっぷりの蜘蛛の巣に埃が付着している。
真っ白に近い状態まで誇りが積もった黒いテレビ台。
コンセントに積もった埃。
照明器具の傘に溜まった埃。
扉やあらゆる隙間に積もった埃。
100円ショップで買い込んだ掃除グッズと雑巾を持って来ていた私だったが、
これでは埒が明かないと悟った。

「掃除機貸してくれますか?」と弟に聞いたら、
どこかの部屋の奥から夫が大昔に買った掃除機を持ってきた。
掃除機にはゴミと埃がたっぷりつまっていた。
「もう…」
夫は呆れていた。

昔からこの家の人は、「手入れ」をしないのだという。
家電を買って与えても、しばらくは使うが何かエラーが出たり、故障するとそのまま直さずに使わなくなるのだそうだ。
修理するということを一切しない。
それはお義父さんもお義母さんも、弟も全員だったという。
現に実家には動かなくなった家電もたくさんあった。
カーペットのコロコロでさえ、プラスチック部分が割れていたが、
ガムテープを貼るなどの修復はされていなかった。

夫と、何年掃除しないとこんなになるんだろうねと話しながら掃除をしたが、おばあさん(お義母さんの姑)がとっても働き者で、
おばあさんが亡くなってから掃除していないんじゃない?と夫は予想していた。
お義母さんは掃除しないの?
疑問に思って聞くと、おばあさんが全ての家事をしていたそうで、
夫もお義母さんのご飯は家ではほとんど食べたことがない、学校へもっていくお弁当くらいかなと言った。

嫁いでも家事を任せてもらえなかったお義母さんを私は想像してしまった。
そもそもお義母さんがどんな性格なのかはわからないが、
自分が家事をしなくてもまわる家で居るうちに、
何もしない、から、何もできない、になってしまったのかな。
掃除をしながら色々考えを巡らせた。

完璧にはできないし、普段使っているものは動かせないので、
できるだけ綺麗に掃除をしてから、
新しいマットレスを引いて、
タブレット端末を設置。
仏間にいるお義母さんに取り急ぎ使ってもらっていた冷風器も
マットレスのそばに移動させた。

弟を呼んでタブレット端末の使い方や冷風器の水の入れ方などを説明する夫。
介護の事から携帯のこと、家電のことと色々と説明されて理解できていないように思える。
しかし私達もひとつひとつ、紙に書いて渡す時間もなく。話すしかない。

最後の時間でお義母さんにマットレスに座ってもらって、
お義母さんの体を拭いて、髪を整える作業を始めた。

弟に「体拭いてくれてる?」と聞くと

「からだは…拭いてない」

お義母さんは

「去年の冬にあったかっくなってきたらお風呂入れてくれる言うてくれたけどなぁ」
と言うが、

「じゃぁ今年の春ごろにお風呂には入ってるの?」と私が聞くと

「いや…入ってない」

いくら食事の支度や紙おむつを交換してくれていたとはいえ、
なぜ、お義母さんを放置してしまったのと思ってしまった。
なんで。なんでそうなったの。
そんなに外にSOSをだせなかったの。
お風呂に1年以上入ってないのが、なぜ普通じゃないと思えてないの。
呆れと怒り。
弟にはこれまで感謝の気持ちも半分あったが、私の中にはもうそんな気持ちはほとんどなくなってしまった。

落ち込みながら私は、お義母さんの足を拭くためにタオルをもってきて欲しいと弟にお願いした。

「いつもこれで拭いてるからこれで。」

渡されたのは、紙オムツを交換する時に使っているであろう、介護用のウェットシートだった。

呆れるように少し笑ってしまった。
「あのね。これで体拭いてもお義母さん気持ち良くないからね。普通のタオルをもってきてほしい。」

あぁ、と弟が持ってきたのはどこかの粗品のタオル。
使い古して所々黄ばんだ、お世辞にも綺麗なタオルとは言えなかった。

何も言葉が出てこなかった…
清潔なタオルひとつ、この家にはない。
仕方なく、そのタオルで弟に電子レンジを使ってホットタオルを作るよう説明した。
できたホットタオルでお義母さんの背中や足を拭く。
それを見続ける弟。

「あの。もう一つタオル持ってきて一緒にやって欲しいんだけど。」
つい口調が強くなってしまった。

あぁ、と同じようなタオルを持ってきたので、ホットタオルにして足を拭かせた。
タオルには剥がれた皮膚がボロボロとくっつき、それをまた綺麗にしてホットタオルを作りなおす。その繰り返しだった。

私は髪を綺麗にしてあげようと、手入れし始めたが、
こちらもまたフケが減らず、埒が明かない。

「お義母さん、髪、切ろっか」

お義母さんはもう長く髪を切っていないこと、
ここ何年かはお義父さんがお義母さんの髪を切っていたことを
教えてくれた。
美容院にも行っていなかったんだ…

お義母さんは髪が切れることを喜んで受け入れてくれた。
もちろん私は美容の免許なんか持ってない。
変にならないようにするけど、プロじゃないからゆるしてね、と言って、
私は肩甲骨あたりまで伸びたお義母さんの髪を、
顎のラインまで切った。

「綺麗なったなぁ」と喜んでくれた。
絡まった毛は切ってなくなったので、多少はスッキリした。
あとは頭皮を水のいらないシャンプーでできるだけ綺麗にしてブラシでといてあげた。

もうふらふらだった。
掃除からのお義母さんのケアで体力がかなりなくなってしまった。
さらにクーラーのない部屋での作業に、湿気がすごくて私はすこしめまいを起こしていた。
夫はうまく作動しないタブレット端末と延々と格闘していたが、
最後に前回お義母さんに巻いた足の包帯を取り替えた。
もちろん、これも弟に毎日取り替えるようお願いしていたが、
あの時、夫が巻いたままだった。

話があると言われていた叔父さんの場所にもいかないといけない。
時間は、帰りの電車の時間の1時間前。
実家を出て同じ敷地内の叔父さんの仕事場へ向かうことにした。

「お義母さん、そしたらまた来ますから、
お義母さんもしっかり食べて、水分補給もしっかり忘れずにすること、
動ける日はできるだけ廊下だけでも歩いて、運動してくださいね」

「〇〇(私)さん、家のこと頼みましたよ、お願いします」

帰りがけの最後の会話はあまり噛み合っていなかった。
私はお義母さんが自分も頑張ります、という言葉が聞けると期待してしまっていたが、
おばあさんが家事を全てしてきたように、
今度は私が全てお義母さんのことをやってしまっているように思ってしまった。

弟とお義母さん、二人に色々やってみても
私自身「やってあげてる」という満足感が増えるだけで、
二人は前向きに生きていくつもりがあるのか、
不安ばかりが残る。
二人の気持ちが、わからない。

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