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不穏な会話

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[登場人物]

・私 (都会で夫と二人暮らし)
・夫
・お義母さん(夫の母・2023年秋から同居開始、要介護3)

・お義父さん(夫の父・地方でお義母さん、弟と3人暮らしだったが2023年夏前に他界)
・弟(夫の弟・お義父さんの死後、長年の無職を経て介護施設に勤務を始める・実家暮らし)

・叔父さん(3人兄弟のお義父さんの弟・妻と同地方で2人暮らし・子供なし)
・叔父さんの妻(叔母さんが2人出てくるので叔父さんの妻とする)

・叔母さん(3人兄弟のお義父さんの妹・嫁いで同地方で夫と2人暮らし)

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駅から車椅子が乗れるタクシーを手配し、スムーズにお義母さん、夫と3人で自宅へ戻った。

家に着くや否や夫は叔父さん夫婦に電話をかけた。
介護タクシーに無視されてしまったために、
送ってくれたのは叔父さんだったから、きちんと無事辿り着いたことを連絡しないといけなかった。
夫は電話する時は必ずテレビ通話かスピーカー通話にして話す。
これは私は毎回嫌だと思っているが、夫は便利なものをいつ何時でも活用したがる性格なので仕方がない。今回はテレビ通話だった。

電話のスピーカーから叔父さんの声が聞こえた。
私はキッチンに立って晩御飯をせっせと作っていた。
というか、忙しくしているという事にして電話には出たくなかったからだ。

「無事ついたか、そうかそうか。
お義母さんも顔色が良さそうで安心した。よかった。」
「お義母さんはどんな部屋に寝るんだ?ちょっと見せて欲しい」
「こんな立派な部屋にしてもらって、よかったな」

やけににこやかな話し声に、心の中で苛立つ。
今まで散々な事を言ってきて、一番の厄介者であったお義母さんがいなくなった途端、優しげに話すのか。

叔父さんの妻の声も聞こえた。
「〇〇(私)さんはいないの?」 夫に横に首を振って目配せする。
夫「今ご飯作ってるから」
「ご馳走なんだろうね。今晩は何かしら?」
何をうれしそうに。あなたはお義母さんに対してこき使われていると言ったのに。よっぽど自分がお世話をする事がなくなったのがうれしかったんだろう。

夫「今日は何?」私は渋々、声だけで一言メニューを答えると、
わぁおいしそうとまた賑やかな声を出していた。
お義母さんも叔父さん夫婦に挨拶し、電話は終わった。

やけになかよしこよしな会話だった。
お義父さんが亡くなってから言われてきたいろんな事が、
また私の頭の中で沸々と蘇り、イライラしながら晩御飯を作った。
夫も後に、あの話し方はやけに優しくて変だった。
何かたくらんでいるのかもしれない。と私に言った。
私は「厄介に思っていたものが排除できてうれしかったんじゃない?」と
呆れながら返事をしたが、
この夫のカンは数週間後に見事に当たってしまうのだ…

お義母さんはというと、
私が作って大皿で出した食事を、かなりの量たいらげた。
私は数日分の作り置きのつもりで、多めのおかずを3種類ほど作ったのだが、どれも翌日分までくらいしかなくなってしまった。

「お義母さん、今までお昼とか、〇〇(弟)さんがいない時は叔父さんがお昼ご飯持ってきてくれてたんですよね?」

「いつもじゃない、たまに。叔父さん達も忙しいだろう?」

こき使われていると怒っておきながら、毎日お昼の準備をしていたわけではなかったことにまた少しイラッとしながらも、

「じゃぁお昼持ってきてもらえてない日は何食べてたの?」

「菓子パン」

弟が仕事前に菓子パン一個を置いて仕事に出ていくと言う。
そんなんで何が介護の仕事がしたいだ、とまた苛立ってしまった。

久しぶりにたくさん食事をしたお義母さんは、
「野菜が美味しい」と喜んでくれた。
自分のやったことが報われた事が自分の想像していたイメージどおりで、
私も安心できた。このままこの調子であまり無理をしすぎないように、
在宅介護ができるかなと思っていたが、
それはとんでもなく甘い考えだった事に初日の夜からあっけなく気付かされた。
やったことがない事が、そんなにうまくいくわけない。
私はお義母さんを引き取った事を、そう思う自分を情けないと思いながらも、後悔し始めた。

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