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東京都指定旧跡「将門塚」改修工事についての私見

みなさまこんにちは。長南と申します。

令和2年もあと一月余りとなった2020年の11月に、某方面の方々にとっては大きな衝撃をもたらす画像がツイートされました。

首塚が消滅した?

東京大手町にある東京都旧跡「将門塚(首塚)」が改修工事のために閉鎖され、中では灯籠や石碑などが撤去、更地になりつつある状況を伝えたのですが、さらし首になっても体を求めて空を飛びこの地に落ち、壊そうとするものに「祟り」をふりまき、映画「帝都物語」で大きく題材化された将門塚についての伝説を知る人にとっては、この状況は衝撃的なものになっています(詳しくは Wikipedia「将門塚」や、内輪ネタで恐縮なのですが、黒猫魔術店の密猫さんをお連れしたときのレポートをご覧ください)。

事実の確認(工事の主体)

将門塚については私も個人的に何度か訪れたことがあるので、どうなっているのかということでその日の夜に現地を確認したのがこのツイートです。

最初の画像のツイート投稿でも言及されていますが、この状況は「史跡将門塚保存会」が行う改修工事によるもので令和2年11月〜令和3年4月までを予定しているとのことです。保存会の改修工事の案内ページによると

これまでも周辺環境の変化や時代の節目において、改修工事がなされてきましたが、今回の改修工事は関係各所の皆さまの総意として、敷地内の安全性と管理性の向上を目指すと共に、これからの時代にふさわしい新しい将門塚として皆様に愛されることを目指し実施されるものです。

と記載され、改修工事は1961年以降何度か行われていると説明されています。しかし、「歴史的変遷」を説明したPDF資料を見てみると、今回のように敷地を更地(もしくはそれに近い)形にするような大規模な改修は過去に例がないようです。

再開発ビル「Otemachi One(大手町ワン)」

将門塚近辺ではここ数年、三井不動産による再開発ビル「Otemachi One(大手町ワン)」の工事が進められていました。今回の件ではこの再開発計画によって将門塚が割を食ったように見えがちですが、実は逆で大手町ワンは将門塚に対して大きな配慮を行って計画を進めています。

2016年のプレスリリースでの周辺緑地設計のパースでは将門塚の奥行きに合わせた設計をするとともに

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皇居に面した敷地の西側には、皇居の緑や将門塚とも連なる約6,000m2の緑豊かな広場空間を整備します。地域固有の在来種を用いた森や水辺空間を形成し、憩いと潤いの場を創出します。また、多様な屋外イベントが開催できる広場空間となる予定です。

と謳っています(図はプレスリリース記事より引用)。計画図においても将門塚の存在を阻害しないような動線設計などがなされています。大手町ワンが竣工した後もうまく調和させるような設計になっているように感じます(下の写真は大手町ワン公式サイトより引用)。

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大手町ワンについては設計だけでなく、工事の際にも配慮を見せており、Wikipediaに掲載されている写真には「周辺工事のため背後の五輪塔は強化ガラス製の防護ケースに覆われている」とキャプションがつけられています。この「周辺工事」というのはいうまでもなく大手町ワンの工事です(手前のケースに覆われていない碑は日輪寺によるもの。時宗の真教上人の伝承があります)。

将門の首塚2019年5月

先にかかげた黒猫魔術店のレポート記事でも、将門塚全体を鉄骨で囲い、落下物防止のネットで囲い、工事の中で資材などが落下する事故が起きたとしても将門塚を破壊しないようにする精一杯の配慮・忖度がなされていました(画像は「黒猫魔術店」ブログ記事より引用)。

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すくなくとも大手町ワンの関係者は崇敬の念を持って工事し、できうる限りの配慮を目に見える形で行い、工事を進めてきたことを伺い知ることができます。

保存会の改修計画の透明性

このように近隣の再開発事業に最大限の配慮を行わせる存在の将門塚ですが、保存会による今回の改修工事で明らかにしているのは工事期間のみで、どのような改修を行うのかは「敷地内の安全性と管理性の向上を目指すと共に、これからの時代にふさわしい新しい将門塚として皆様に愛されることを目指し」とのみ記され、詳細は明らかにされていません。

将門塚が霊所としての特殊性がなく、個人の邸宅であれば改修(邸宅ならばリフォームといったところでしょうか)の計画を公開する必要はないといえるでしょう。しかし平将門は祟り神という枠組みにとらわれず、東京だけでなく全国各地に様々な伝説を持つ存在です。キザな言い方をするのであれば将門は多くの日本人の心の中に今なお生き続けているのです。

将門塚は保存会のものではなく、多くの将門信仰を持つ人のものであると言っても過言ではない状態なので、改修計画の立案や実行に際しては多くの方の「心の中の将門」に届くだけの告知をすべきだったのではないでしょうか(遷霊の儀式などを手厚く行う必要があるのは言うまでもないのですが、さすがにそこを手抜きしているわけではないと思います。どれだけ実効性があるのかは別として)。

将門の祟りは起きるのか?

ここまでファクトベースに語ってきたのですが、この記事を読んでいる方が心配しているのは「実際に将門の祟りは起きるのか?」ということだと思います。何をもって「祟り」とするのか、そして起きるとしたらどんな内容なのかというのは予想するのも因果を認めるのも難しく、客観的に証明できる類のものではありません。また具体的に何かが起きると主張するのはそれこそ「予言デマ」を広げるようなことなので私は「祟りが起きる」と主張することはいたしません。

しかし、間違いなく「改修工事前のような将門塚は失われてしまった」ということはできるでしょう。夜間の工事の写真を見ても敷地内の木などは切り倒されてしまっており、こういったものが再び根付くまでにはどんなに趣向を凝らした改修工事を行っても10年単位の時間がかかると予想をしています。新しい将門塚ができたとしてもそれは「2020年までの将門塚」とは何かしら異なったものになるでしょう。

「祟り」についても非常にやるせない状況になったと考えています。「祟り」が起きて大災害が起きたならば「やっぱり将門は祟り神だ」ということでネガティブイメージが強くなる一方、「祟り」が起きなかったとしたならば「やっぱり将門伝説は嘘っぱちだ」ということになり、どちらにしても将門のブランド力は落ちてしまうでしょう。

自分とは違う何か絶対的(神とか仏だけでなくアニメのキャラクターやアイドルなんかもそうですね)なものに畏怖するという感情は日本人のもつ特徴的な心理ですが、そういった要素が一つ朽ち果てる可能性があるというのは残念なことだと思います。

私がここで何か書いたから方針が変わるわけでもないのですが、保存会の皆様においては「自分達が顕彰するのは一体どんな存在で、何を保存すべきなのか」ということを今一度振り返っていただきたいと思っています。

そして将門ファンの皆さんには、これまでの将門塚・首塚のイメージ(大手町のものに限る必要はないのですが)を強く持ち、常に共にあるという信念を持っていただくことが大事なのではないかと思います。そうすることが一番喜ばれることなのではないでしょうか。

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