「地の時代から風の時代へ」というキャッチフレーズの傲慢さ
みなさんこんにちは。昨年末に書いた「2020年運勢展望」の記事の有料部分に書いていたことが、昨今のコロナ禍のような形で表面化するとは考えていませんでした。まさかこんなことになるとはと我ながらボヤいている日々です。
これまでの価値観や風潮が大きく変わり、これまでの悪業が表に出てしまうホロスコープで、緊張度の高い瞬間ということになります。そして、表面化した悪いことはきわめて大きい影響をもたらしそうです。
そんな状況では根拠もないデマや流言が広まりやすく、特に占いを行う私達は言動を慎み、気をつかう必要があるのですが、一部の「デリカシーや能力に欠けた方々」がデマなどを振りまいています。このnoteの過去記事にも取り上げたマヤ暦ねたはなかなかヒドい事例に思いました。そして最近目にするのは「地の時代から風の時代へ」というフレーズです。
「地の時代から風の時代へ」というゆるふわスピ系キャッチフレーズ
なかなか大それた大風呂敷をひろげています。「地」「風」は4元素と呼ばれるもので、この世の中のものは「地水火風」で構成されているという思想のうちの「地」と「風」のことです。最近ではRPGの魔法の属性などでよくつかわれているので、おなじみかもしれません。東洋の場合は「木火土金水」の五行で考えるところですね。
このフレーズを見た時に違和感を感じたのは「今って本当に『地』の時代なのか」ということです。一応まがりなりにも英国占星術協会の会員である私にはまったく実感の持てない話です。そもそも4元素のうちの1つをピックアップして時代を語ることはしないし、むしろ各元素のバランスをとることを気にしています。あまりに何のことを言っているのが分からなくて調べてみたらこういうことのようです。
・ 2020年12月22日に木星と土星のコンジャンクション(合)イベントが生じる
・ 木星と土星のコンジャンクションが発生するのが今回から風の星座(今回は水瓶座)に約200年ぶりに変わる
事象の分析
確かに今年の12月には木星と土星のコンジャンクションがありますし、今回は水瓶座で発生するのも分かります。しかし、木星は公転周期12年で1年もすれば次の星座に移動するし、土星も時期が来れば次の星座に移動するので大上段に「地の時代」とか「風の時代」というのは流石に行き過ぎに思えます。
木星と土星のコンジャンクションはざっくり20年に1度程度発生するので、木星と土星のコンジャンクションは太陽からみて約120度ズレたところで発生する(20年の間に木星は1周と3分の2だけ進行する)傾向がある一方、4星座120度ごとに同じ元素が配当されていることから、同じ元素が配当された星座で発生しやすいけれども、次第にズレが生じて前回は地星座の牡牛座で起きたものが今回は風星座の水瓶座で発生する。それを「グレートミューテーション」と呼んでいるようです。
率直に言って200年もすれば世の中の状況は変わってしかるべきだし、10年一昔という言葉があったり、干支が12個だったりするので時代が変化するのは必然ではあるし、太陽と地球の位置関係もあるし、そもそも単純に考えられる話でもないはずなんだけどなーということで、調べてみました。
西暦1500〜2500年に起こるグレートコンジャンクション一覧
ということで、西暦1500〜2500年に発生するグレートコンジャンクションをまとめたのが以下の一覧です。時刻は日本時間で、暦はグレゴリオ暦、Astrolog の出力です。末尾に発生した星座(サイン)の元素を補っています(見やすいように地水火風ごとに位置をずらして記載しました)。
(Sat) 5/25/1504 2:36pm Jupiter (Can) Con (Can) Saturn - 水
(Sun) 1/31/1524 3:15pm Jupiter (Pis) Con (Pis) Saturn - 水
(Thu) 9/18/1544 11:40am Jupiter (Sco) Con (Sco) Saturn - 水
(Thu) 8/26/1563 2:55am Jupiter (Can) Con (Can) Saturn - 水
(Tue) 5/ 3/1583 9:35am Jupiter (Pis) Con (Pis) Saturn - 水
(Thu) 12/18/1603 3:54pm Jupiter (Sag) Con (Sag) Saturn - 火
(Mon) 7/17/1623 7:42am Jupiter (Leo) Con (Leo) Saturn - 火
(Wed) 2/25/1643 8:13am Jupiter (Pis) Con (Pis) Saturn - 水
(Wed) 10/17/1663 8:48am Jupiter (Sag) Con (Sag) Saturn - 火
(Sat) 10/24/1682 4:42pm Jupiter (Leo) Con (Leo) Saturn - 火
(Tue) 2/ 9/1683 10:16am Jupiter [Leo] Con [Leo] Saturn - 火
(Tue) 5/18/1683 2:46pm Jupiter (Leo) Con (Leo) Saturn - 火
(Mon) 5/22/1702 5:58am Jupiter (Ari) Con (Ari) Saturn - 火
(Wed) 1/ 6/1723 12:15am Jupiter (Sag) Con (Sag) Saturn - 火
(Fri) 8/31/1742 5:52am Jupiter (Leo) Con (Leo) Saturn - 火
(Fri) 3/19/1762 1:41am Jupiter (Ari) Con (Ari) Saturn - 火
(Tue) 11/ 5/1782 6:25pm Jupiter (Sag) Con (Sag) Saturn - 火
(Sun) 7/18/1802 7:47am Jupiter (Vir) Con (Vir) Saturn - 地
(Wed) 6/20/1821 2:14am Jupiter (Ari) Con (Ari) Saturn - 火
(Wed) 1/26/1842 3:12pm Jupiter (Cap) Con (Cap) Saturn - 地
(Mon) 10/21/1861 9:26pm Jupiter (Vir) Con (Vir) Saturn - 地
(Mon) 4/18/1881 10:38pm Jupiter (Tau) Con (Tau) Saturn - 地
(Fri) 11/29/1901 1:28am Jupiter (Cap) Con (Cap) Saturn - 地
(Sat) 9/10/1921 1:13pm Jupiter (Vir) Con (Vir) Saturn - 地
(Thu) 8/ 8/1940 10:27am Jupiter (Tau) Con (Tau) Saturn - 地
(Sun) 10/20/1940 1:34pm Jupiter [Tau] Con [Tau] Saturn - 地
(Sat) 2/15/1941 3:35pm Jupiter (Tau) Con (Tau) Saturn - 地
(Sun) 2/19/1961 9:02am Jupiter (Cap) Con (Cap) Saturn - 地
(Thu) 1/ 1/1981 6:26am Jupiter (Lib) Con (Lib) Saturn - 風
(Thu) 3/ 5/1981 4:04am Jupiter [Lib] Con [Lib] Saturn - 風
(Fri) 7/24/1981 1:13pm Jupiter (Lib) Con (Lib) Saturn - 風
(Mon) 5/29/2000 1:03am Jupiter (Tau) Con (Tau) Saturn - 地
(Tue) 12/22/2020 3:20am Jupiter (Aqu) Con (Aqu) Saturn - 風
(Wed) 10/31/2040 8:46pm Jupiter (Lib) Con (Lib) Saturn - 風
(Thu) 4/ 8/2060 7:29am Jupiter (Gem) Con (Gem) Saturn - 風
(Fri) 3/15/2080 10:31am Jupiter (Aqu) Con (Aqu) Saturn - 風
(Sun) 9/19/2100 7:31am Jupiter (Lib) Con (Lib) Saturn - 風
(Sun) 7/16/2119 8:25am Jupiter (Gem) Con (Gem) Saturn - 風
(Fri) 1/15/2140 1:03am Jupiter (Aqu) Con (Aqu) Saturn - 風
(Fri) 12/21/2159 12:06pm Jupiter (Sco) Con (Sco) Saturn - 水
(Fri) 5/28/2179 12:14pm Jupiter (Gem) Con (Gem) Saturn - 風
(Mon) 4/ 8/2199 7:35am Jupiter (Aqu) Con (Aqu) Saturn - 風
(Mon) 11/ 1/2219 8:03am Jupiter (Sco) Con (Sco) Saturn - 水
(Sat) 9/ 8/2238 1:38am Jupiter (Can) Con (Can) Saturn - 水
(Sun) 1/13/2239 7:55pm Jupiter [Can] Con [Can] Saturn - 水
(Sat) 3/23/2239 5:02am Jupiter (Can) Con (Can) Saturn - 水
(Thu) 2/ 3/2259 11:52am Jupiter (Pis) Con (Pis) Saturn - 水
(Fri) 2/ 7/2279 2:28am Jupiter (Sco) Con (Sco) Saturn - 水
(Wed) 5/ 7/2279 2:37pm Jupiter [Sco] Con [Sco] Saturn - 水
(Sun) 8/31/2279 11:22pm Jupiter (Sco) Con (Sco) Saturn - 水
(Wed) 7/13/2298 3:56am Jupiter (Can) Con (Can) Saturn - 水
(Sat) 4/27/2318 3:33pm Jupiter (Pis) Con (Pis) Saturn - 水
(Fri) 12/ 2/2338 3:16pm Jupiter (Sag) Con (Sag) Saturn - 火
(Fri) 5/23/2358 1:36pm Jupiter (Can) Con (Can) Saturn - 水
(Sun) 2/19/2378 7:55am Jupiter (Pis) Con (Pis) Saturn - 水
(Sat) 10/ 3/2398 6:32am Jupiter (Sag) Con (Sag) Saturn - 火
(Fri) 8/25/2417 1:07am Jupiter (Leo) Con (Leo) Saturn - 火
(Mon) 5/11/2437 6:13pm Jupiter (Pis) Con (Pis) Saturn - 水
(Mon) 12/24/2457 10:23pm Jupiter (Sag) Con (Sag) Saturn - 火
(Wed) 7/ 7/2477 4:47am Jupiter (Leo) Con (Leo) Saturn - 火
(Mon) 3/ 4/2497 10:15pm Jupiter (Ari) Con (Ari) Saturn - 火
これを見て今年2020年が「地の時代から風の時代への転換期」だと思える人はどれだけいるのでしょうか。確かに前回2000年は「地のグレートコンジャンクション」ですがその前の1981年は「風のグレートコンジャンクション」です。しかも1981年は逆行がらみで3回もグレートコンジャンクションが発生しています。
一方で「風のグレートコンジャクション」も200年ずっと続くわけでもなく、2159年には「水のグレートコンジャクション」が発生します。今年(2020年)が転換期とか言っても140年後には次の時代が顔をのぞかせます。「グレートミューテーション」といっても切り替わりの時代には何回か往復するわけですから、2020年が木星土星周期の切り替わりだというのは無理がありすぎます。あえて挙げるのであれば逆行しながら3回こなした1981年であるとみるのが妥当でしょう。
結論(ゆるふわスピが抱える無知と傲慢)
こうしてみると、「地の時代から風の時代へ」とか叫んでいる方々は厳しい言い方かもしれませんが、
・ 人の話を鵜呑みにしがちで、占星術の知識や能力に欠けている。持っていたとしても自分で調べようとする意識がない
・ 「地の時代から風の時代へ」の時代転換があると仮定したとしても、1981年の話としてとらえるべきであり、時代から40年取り残されている
・ 占星術的に確証を持たないのに断定口調で何でも知っているかのように振る舞う傲慢さを持っている
ということができると思います。「風」というところに「情報技術」ということを当てはめてみると1981年は、私達が毎日使っているPCの原型の IBM Personal Computer model 5150 が登場した年ですし、UNIX系OSでの時刻の基準点が1970年1月1日なので、こじつけができないこともないところです。2020年ということになると、「いやいや、すでにみんなコンピュータ使ってるし、インターネットにも接続しているし」ということになるように思います。
ということで、もしあなたの身の回りに真剣な眼差しで「地の時代から風の時代へ」と力説する人がいたとしたら、そっと距離をとるのが良いかもしれません。
私の個人的な感想としては「どうしてこんな占星術的にオカシイことを得意げに話すことができるのだろう。言ってて恥ずかしくないのだろうか」といったところです。
追記
この記事が多くの方に読まれているようです。ありがとうございます。その後、梅花心易の鎗田宗准氏がこのことについて書いたblog記事をもとに所感を別記事に書きましたので、よろしければそちらもどうぞ(2020年12月17日 追記)。
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