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ショート・ショート「甘い話」

みなさんこんにちは。長南です。

突然ですが、数年前に書いてそのまま存在すら忘れかけていた掌篇をあろうことか掘り返してしまいまいた。いまさら感も否めないのですが、恥知らずな感じで掲載したいと思います。

記事自体は有料記事(100円)と設定しますが、最後まで読むことができるようにいたします。実験的に、執筆するに至った当時の経緯や裏話・オマケを有料部分に書いてみたいと思います。

うまく書けたかどうかは全く自信がないのですが、もし気にいってくださったら記事にコメントしていただいたり Twitter などで感想をいただけると嬉しいです。もしかしたら調子に乗って別のお話やもっと長いお話を書くきっかけになるかもしれません。もちろんこの記事を購入していただくのもとっても励みになります。

それでは、お楽しみください。

甘い話

「なあ、ちょっと聞いてくれよ」
高校への通学途中、醸夢人(かむと)は眠い目をこすりながら歩夢(あゆむ)にからんでいた。
「何よ、その眠そうな目、あーあ、あくびまでしちゃって! いつまでも寝ているからよ」

醸夢人と歩夢は近所の幼馴染で、不思議なことに幼稚園のころから高校まで同じ学校、同じクラスだった。
「最近不思議な夢を見るんだ。いつも夢の中に歩夢が出てきて、夢の中で一緒に暮らしているんだ。おとといはなぜか同じ幼稚園児として、昨日は結婚間近の恋人同士として。それでいつも朝食を食べるところや、家を出たあたりで夢からさめるんだ」
「何その夢、醸夢人はそんな気持ちで私を見ていたの? 気持ち悪い!」
「なんだよ、夢なんだからしょうがないだろ!」
「冗談よ、実は私も同じような夢を見ているの。醸夢人の話す内容があまりにも私が見た夢に似ているからやっぱりきもち悪いわね」
「でも幼馴染と仲がよいまま結婚できるなんでロマンチックね。確か新婚旅行でヨーロッパのお城回りしようって相談してたじゃない」
うっとりした眼差しで夢の内容を思い出す歩夢。「う、そこも同じ内容だったのか... どれだけお金がかかるかわからないや。」

歩夢の家は神主の家系で、女性は霊媒体質だったり幽霊が見えたり極端に病弱だったりするらしいのだが、他人と同じ夢をみるというのは二人とも聞いたことがなかった。
「ずっとおなじ夢を見るというのも不気味だし、今日帰ったらお母さんとおばあちゃんに相談するね」
「是非そうしてくれ。できればこっちにまでトバッチリこないように頼んでほしい」
「ひどーい」

その夜、醸夢人は朝歩夢と話したことなんてさっぱり忘れていつも通り寝床についた。
そして、ここ数日のなかで一番鮮明な夢を見た。

夢の中では醸夢人と歩夢は婚約していて、結婚式間近で準備に追われていた。挙式の段取り披露宴の招待状、両親や親戚との顔合わせなどさまざまなイベントをこなしていった。

夢の中で結婚式前日の夕方に、歩夢が突如苦しみ出した。
「ご、ごめんなさい... あまりに醸夢人さんと...
いっしょになるのがうれしくて... 掟をやぶって...
お昼を超えるまで... 業(わざ)を使って... 」
なにもない空間に向かって、その場にいない誰かに、苦しみもがきながら謝っている。
「 やっぱり... 私の命で... つぐなうしか... ないのですね... わかりました... 」

歩夢は、傍らで醸夢人に抱きかかえられながら、その目を見て
「... 醸夢さん... いままで... 楽しい... 思い出を... ありがとう...」
その言葉を残し歩夢は事切れてしまった...

「なんだ、この夢。ひどい内容だったな。歩夢があんなことになるなんて信じられないな。でも現実ではなく夢でよかった...」

大量にかいた寝汗をシャワーでながした醸夢人だったが、自分の部屋にもどってきても夢の感触をぬぐいきれずにいた。

その日から1週間、歩夢はずっと学校を休み、さすがの醸夢人も心配になった。日曜日の朝に歩夢の家に行ってみると、慌ただしそうな歩夢の母親が話してくれた。
「あら、醸夢人くん? ごめんなさいね。歩夢なんだけど病気の具合が良くなくてしばらくの間療養することになったの。神社の仕事はおじいちゃんとおばあちゃんが残ってこなすけれども、私と歩夢はこれから療養先に引っ越しするの。歩夢は
先に先方の病院に入院してて、醸夢人くんに話できないのを残念がっていたわ。」

それから数年経った。醸夢人は東京の大学に進学しそのまま東京で就職した。学生生活の間ははもちろん、社会人になっても周囲の環境にあわせて生活していくのが精一杯だった。

日々の生活に追われ、余計なことを考える余裕もなかったのだが、幸い職場はブラック企業とは対極的な環境で、給料も悪くはなかった。

そんな社会人2年目の正月、醸夢人の部署に新しい社員が増えること、しばらくは醸夢人が新入社員に仕事を教えてほしいと上司から頼まれた。聞くと第二新卒扱いで女性とのこと。

初出社となったのは2月10日だった。上司が新入社員をつれてあいさつ回りをしていたのだが、そこにいるのはどうみても歩夢そっくり、いや歩夢本人ではないか。醸夢人は狼狽する心を必死に隠してなんとか形ばかりのあいさつをしたのだが、歩夢はすべて計画通りだといわんばかりの自信が
あふれているように見えた。

「はじめまして、醸夢人さん。じゃなくて『おひさしぶり』と言ったほうがいいかしら?」
唖然とする僕を尻目にすっかり大人びた歩夢は続けた。
「すこしは君に近づけたかな? それとこれはバレンタインデーのチョコレート。これからもよろしくね。」(了)

コメンタリー

この作品は、都内各所で不定期に開催されていたカフェバー「哲学者の薔薇園」でのイベントにむけて 2018年に書かれたものです。

この作品を書くきっかきになったイベントというのは「『甘い話』をもちよってみんなで回し読みしたり朗読する」というものでした。当時の私は浮ついた甘い話なんて全く縁がない暮らしをしていたので、とても困ったものです(もっとも、今なお甘い話には縁遠い生活をしていますが…)。甘い話がないというのはどうしようもないので、しかたないから創作でデッチ上げようとしいことで書かれたのがこの作品です。

(以下有料部分には、この作品を書くことになったいきさつやおまけコンテンツを載せています。本編を読んで面白いと感じ、購入支援された方へのささやかなお礼です)

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1,527字 / 1ファイル

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