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#46 腸内環境における免疫応答と樹状細胞 Part3: 抗原提示と主要組織適合遺伝子複合体

現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

腸内環境と免疫系の関係を深堀りする本シリーズ。今回は、前回の最後にT細胞への抗原提示を行う細胞として登場した樹状細胞に関するお話です。樹状細胞はプロフェッショナル抗原提示細胞として知られており、そこには重要な糖タンパク質の存在が関係しています。

この内容はPodcastでもお楽しみ頂けます。

樹状細胞の由来と構造

分化の復習

まずは、樹状細胞の由来から復習します。樹状細胞は、造血幹細胞が由来です。造血幹細胞が分化し、単球になります。単球は、未熟樹状細胞、成熟樹状細胞となります。骨髄から末梢血(つまり血管中を流れる血液)に移動してきた単球が未熟樹状細胞となり、未熟樹状細胞は消化器などに移動します。

ここでは、腸管における未熟樹状細胞の動きを考えます。未熟樹状細胞は、腸管上皮に存在するM(Microfold)細胞からの抗原などを受け取り、細胞内に取り込まれます。抗原は分解され、分解された抗原ペプチドは成熟樹状細胞の細胞表面に提示されます。これを、抗原を他の細胞に知らしめるという意味で、抗原提示といいます。

では、少しさかのぼってT細胞の分化を考えましょう。T細胞は、リンパ系前駆細胞からナイーブT細胞という分化をたどります。そして、ナイーブT細胞がヘルパーT細胞などに分化するためには、樹状細胞の抗原提示が必要なのでした。

では、ナイーブT細胞はどのようにして、樹状細胞による抗原提示を受けるのでしょうか。この鍵になるのが、主要組織適合遺伝子複合体です。

主要組織適合遺伝子複合体

主要組織適合遺伝子複合体。英語でMajor Histocompatibility Complex。厳つい名前です。でも、そんなに難しいものではありません。ここではMHCと略称します。

MHCは、細胞表面の糖タンパク質です。以前は、特定の糖タンパク質をコードする遺伝子に対してMHCという呼称がされてきましたが、現在は糖タンパク質に対する略称となっています。

では、MHCは抗原提示のどのような点で重要なのか。それは、樹状細胞がMHCと取り込んだ抗原のペプチド複合体を形成することで、抗原提示を行っていることが重要です。つまり、抗原ペプチドの提示を実質的に行っている糖タンパク質こそがMHCなのです。

抗原提示を行う細胞は、MHCによる仕組みを利用しており、そこには樹状細胞を始め、マクロファージやB細胞が含まれています。

もう少し詳細にMHCについての説明をします。MHCは2種類存在することが知られており、MHCクラスIとMHCクラスIIが存在します。

MHCクラスI

MHCクラスIは脊椎動物の細胞表面全てに存在する点で、ベーシックな糖タンパク質です。MHCクラスIの役割としては、細胞で分解されることで生じたペプチドを抗原提示することです。つまり、腫瘍抗原やウイルス感染による抗原を提示します。

前回、ナイーブT細胞の中でもαβ型糖タンパク質をもつものはCD4+ナイーブT細胞とCD8+ナイーブT細胞に分類できるというお話をしました。MHCクラスIは、CD8+ナイーブT細胞に対しての抗原提示を行うことができます。CD8+ナイーブT細胞に対しての抗原提示が起こることで、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)に分化します。

MHCクラスII

続いて、MHCクラスIIです。このタイプの糖タンパク質は、樹状細胞、マクロファージ、B細胞が発現しています。つまり、樹状細胞、マクロファージ、B細胞はMHCクラスIとクラスIIを持っているのです。

MHCクラスIIは、外来の病原性細菌やウイルス由来タンパク質について、抗原提示能を示します。MHCクラスIIは、CD4+ナイーブT細胞に対しての抗原提示を行うことができるのです。このように、MHCクラスIのみならずMHCクラスIIをもつ樹状細胞、マクロファージ、B細胞は、プロフェッショナル抗原提示細胞と呼ばれています。

MHCクラスIIを介して抗原提示を受けたCD4+ナイーブT細胞は、制御性T細胞やヘルパーT細胞に分化していきます。

おわりに

ここまでに、MHCによる抗原提示によってナイーブT細胞の分化が誘導されることを示してきました。登場人物が多すぎて、超複雑ですよね。でも、安心して下さい。この内容を読んだ前とくらべたら、確実に免疫系に対する理解の解像度が高くなっていることと思います。分からなくなってきたら、この記事に戻って復習していただければと思います。

ここで、難しさに追い打ちをかけるような知らせです。実は今回注目したMHCによるT細胞の分化誘導の説明では不完全です。MHCだけでなく、別の分子によるT細胞へのシグナル伝達も重要になってきます。次回はこの点についてお話していきます。

免疫系は複雑。だからこそ、〇〇だから××であると断言することが難しい分野でもあります。世間にあふれる言い切った文章には、十分注意して向き合っていただければと思います。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

免疫系の理解において、参考になる文献です。

小井戸 薫雄, 伊藤 善翔, 闞 鑫, 尾藤 通世, 堀内 三吉, 内山 幹, 大草 敏史, 腸内細菌と樹状細胞, 腸内細菌学雑誌, 2022, 36 巻, 3 号, p. 135-141.

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