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#28 口腔細菌が腸内へ?菌血症と大腸がん関連細菌。

現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

本日は、口腔細菌が腸内に転移することを実験的に確認した研究についてご紹介します。この研究の何が重要かというと、口腔内環境と腸内環境が密接に関係することを示唆している点にあります。具体的には、歯周炎などにより口腔細菌が血流に乗って、一時的な菌血症となり、結果として腸内に移動するというストーリーになります。

口腔ケアが腸活に繋がる。そんな研究のお話を始めましょう!

この内容はポッドキャストでもお楽しみ頂けます。

大腸がん関連細菌、Fusobacterium nucleatum

この研究では、ある細菌にターゲットを絞っています。その名も、Fusobacterium nucleatum (フソバクテリウム ヌクレアタム:以下ヌクレアタム菌と呼称)。ヌクレアタム菌について一般の方で知っていたら、腸内細菌についての通だと言えるかもしれません。

というのも、ビフィズス属菌や大腸菌と比べると認知度は低いですが、とある疾患において重要視されているのです。それは、大腸がんです。最新のデータによると、日本における大腸がんの罹患率はがん全体でトップ。大腸がん患者の多くから、ヌクレアタム菌が確認されているのです。実は私も、ヌクレアタム菌に関する研究を行っています。

ヌクレアタム菌が注目されるようになったのは、2013年のとある研究です(下記にリンク記載)。

もともと腸内細菌叢全体に占めるヌクレアタム菌の存在量はわずかです。ですから、旧来の技術ではその存在が分からなかった。しかし、ゲノム解析に関する技術が発達して、注目を集めるようになったのです。

あれ、ちょっと待てよ?今回は口腔細菌が関連するのでは?

そう思った方、鋭いです。実は、大腸がんに関連する細菌である他、ヌクレアタム菌は歯周炎などの炎症にも関連するとされているのです。では、今回の研究について、実験方法から見ていきます。

唾液と大腸がんサンプルの入手

この研究では、7名から大腸がんサンプルを100-1000 mm3、唾液サンプルを1-2mL採取しています。得られたサンプルを嫌気性条件、37℃の環境に移して培養します。ここでは、すべての唾液サンプルからヌクレアタム菌を分離することができていました。しかし、これに対応する大腸がんサンプルでは、1つのサンプルからしか生きたヌクレアタム菌を単離することはできませんでした。

これではサンプルが少ないので、更に多くの被験者からヌクレアタム菌の単離を検討します。しかし、23名のサンプルからヌクレアタム菌を培養することはできませんでした。この理由は抗生物質であると考え、臨床的に大腸がんとして疑われるが抗生物質を投与していない患者からヌクレアタム菌の採取を行いました。結果、大腸生検体と唾液からヌクレアタム菌を得ることができました。

また、大腸がんのモデルマウスのために、オスマウスに対して大腸がん細胞を粘膜および粘膜下層に注射します。モデルマウスに対して、複数回に渡ってヌクレアタム菌の経口摂取を行います。また、静脈注射により血管内にも摂取しています。一定時間経過後に、大腸サンプルを採取してヌクレアタム菌の検出を行います。

細菌の定量には、qPCR(定量PCR)法を用いて行っています。その他、免疫蛍光法や血液凝集検査、比較ゲノム解析を行っています。

大腸がんのヌクレアタム菌は口腔に由来

前節において説明した、唾液と大腸がんサンプルとしてペアになっており、かつヌクレアタム菌が検出された例についてのゲノムを比較していきます。結果、それぞれのペアについて非常に高い相同性、つまり同一の菌らしいことが確認されました。

具体的には、 100.00 ± 0.03%、99.98 ± 0.38%、100.00 ± 0.04%の相同性でした。このことは、それぞれの細菌が共通の祖先を持っている、人間でいうと家族のような関係にあることが分かりました。

では、ヌクレアタム菌はどのように我々のカラダを巡っているのでしょうか。ここで、ヌクレアタム菌は口腔常在菌であることから、口→大腸の経路が考えられそうです。この経路からヌクレアタム菌が移動することを検証します。

モデルマウスの試験結果から、ヌクレアタム菌の経口摂取よりも静脈内注射の方が、大腸腫瘍サンプルからのコロニー形成が効率的に行われていました。また、経口摂取群および静脈内注射群のほとんどから大腸腫瘍サンプルからのヌクレアタム菌培養に成功しました。

また、経口摂取群は、静脈内注射群と比較して、大腸がん頻度が少ないことが確認されました。

しかし、この実験ではヌクレアタム菌を、通常の菌血症と比較してかなり高密度に接種しています。そこで、実際の菌体密度を模して同様の実験を行いました。結果、やはり大腸腫瘍にヌクレアタム菌が検出されました。

著者らは、このような現象は、"口腔から発生する一過性の生理的菌血症で起こる可能性が高い"としています。菌血症の原因としては、歯磨きやフロス、食べ物の咀嚼といった日常生活でも起こるとしています。

血流に乗ることのヌクレアタム菌におけるメリットとしては、胃酸や胆汁酸の曝露を受けずに腸内に到達でき、また腸内細菌の定着抵抗性にさらされること無く大腸に到達できることにあります。

この研究の限界点としては、血中にてどのようにヌクレアタム菌と免疫系が関与しているか解明できていない点にあります。

いかがでしたか?歯をゴシゴシ磨きすぎたり、歯茎を傷つけると菌血症の原因になります。血流に乗った口腔細菌が腸内に定着することも十分に考えられることが、今回の研究にて示されました。口腔ケアが腸活に重要であるということを示していますね。口の中も大切にしましょう。

わからないこと、難しいこと、紹介してほしいことがあれば、TwitterやInstagram、Noteコメント欄にてメッセージお待ちしております。

それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

Abed Jawad, Maalouf Naseem, Manson Abigail L., Earl Ashlee M., Parhi Lishay, Emgård Johanna E. M., Klutstein Michael, Tayeb Shay, Almogy Gideon, Atlan Karine A., Chaushu Stella, Israeli Eran, Mandelboim Ofer, Garrett Wendy S., Bachrach Gilad(2020), Colon Cancer-Associated Fusobacterium nucleatum May Originate From the Oral Cavity and Reach Colon Tumors via the Circulatory System, Frontiers in Cellular and Infection Microbiology, 10, DOI=10.3389/fcimb.2020.00400.

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