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#216 細菌研究の最前線。細菌学会総会のエピソードまとめ。

毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今週は、先日室長が参加してきた第96回細菌学会総会にて出会った興味深い研究についてお話してきました!中には、腸内環境や腸内細菌から離れるテーマもありましたが、紹介した研究の根底には細菌学という腸内細菌を考える上で土台となる学問を共有しています。ですから、少し興味関心の対象を広げることで、今後の腸内細菌相談室の発信内容に対する理解の深みが出たり、発信する室長としてもまた学びが大きいと思ったので取り上げさせていただきました。

今回取り上げた研究の共通点としては、いずれも細菌の病原性に関係している点になります。前半はF. nucleatumについて、後半は実験進化や病原性を低下させる吸着剤、細菌による腸管組織の線維化について取り上げました。このエピソードで、今週の振り返りを行っていきましょう!

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Fusobacterium nucleatumの驚きの機能

Fusobacterium nucleatum (ヌクレアタム菌)は口腔内常在菌であり、大腸がんや歯周炎関連菌として様々な研究成果が報告されています。ヌクレアタム菌は、細胞表面に接着タンパク質を備えており、宿主や細菌間の接着を行うことが知られています。

ヌクレアタム菌は、接着に関連するタンパク質によりバイオフィルムを形成することが報告されています。バイオフィルムは、細菌および細菌の分泌する代謝産物により形成された微生物コミュニティであり、高密度に細菌が存在する他、外界とは異なる環境を形成することが知られています。バイオフィルムの形成は、細菌感染や病原性の発現に重要であることから、バイオフィルムの形成プロセスや形成能力について知ることは重要です。

ヌクレアタム菌には亜種として、nucleatum animalis, fusiforme, nucleatum, polymorphum, vincentiiが確認されています。これらヌクレアタム菌亜種間のバイオフィルム形成能力の違いについて理解を深めるために行われたのが、"Fusobacterium nucleatum Subspecies Differ in Biofilm Forming Ability in vitro"という研究となります。

研究の結果、ヌクレアタム菌polymorphumについてはバイオフィルム形成能力が他の亜種と比べて低く、接着タンパク質に関連する遺伝子の相同性も低いことが解析から明らかとなりました。したがって、ヌクレアタム菌のどの亜種が優勢なのか考えることは、ヌクレアタム菌の病原性を考える上で重要であると考えられます。

また、ヌクレアタム菌はバイオフィルム形成以外にも、より直接的にヒトの疾患に関係することが報告されています。2020年9月23日発表の"Fusobacterium nucleatum Accelerates the Progression of Colitis-Associated Colorectal Cancer by Promoting EMT"では、ヌクレアタム菌が大腸がん細胞の上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor: EGFR)経路を活性化させることで、上皮間葉転換(EMT)を引き起こすことが明らかとなっています。EMTによって、大腸がん細胞間の密着結合が弱まり、がんの移動性とそれに伴う転移能が増加することが考えられるので、ヌクレアタム菌は大腸がんの進行に関与することが考えられます。

このように、2013年に大腸がんとヌクレアタム菌の関連性が指摘されてから、ヌクレアタム菌の驚くべき機能が次々と明らかとなっています。

実験進化と病原性の獲得

次に紹介した研究のテーマは、実験進化と病原性の獲得です。近年、人工呼吸器を介した細菌感染とそれに伴う肺炎である人工呼吸器関連性肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)が問題となっています。そこで、"人工呼吸器関連性肺炎を模し実験進化させた Acinetobacter
baumannii の病原性解析"では、人工呼吸器で使用される気管挿入チューブに定着しやすい細菌が、病原性を発現することを仮説として実験を行いました。

実験では、VAP起炎菌であるA. baumannii菌(バウマニ菌)と気管挿入チューブを共培養することで、気管挿入チューブに定着しやすいバウマニ菌株を樹立します。この細菌を免疫不全モデルマウスに対して投与した結果、肺炎を発症した後に全身性播種と敗血症を引き起こし、全てのマウスの死亡が観察されました。ここから、気管挿入チューブという一般的な医療器具の表面でも、病原性細菌の選択と進化が起こり、細菌感染症に関与していることが考えられました。

炭素材料で毒素を吸着

感染症に罹患した場合の化学療法としては、医薬品の服用が一般的です。例えば、抗菌剤の服用による細菌の死滅などが考えられます。しかし、近年は多剤耐性菌の出現などから、抗菌剤の服用が必ずしも良い選択にはならないことが考えられます。

そこで、"A Macroporous Magnesium Oxide-Templated Carbon Adsorbs Shiga Toxins and Type III Secretory Proteins in Enterohemorrhagic Escherichia coli, Which Attenuates Virulence."では、多孔質炭素材料の吸着性能に着目して、細菌の産生する志賀毒素やIII型分泌型EspA/EspBタンパク質などの吸着により病原性の緩和を目指しました。結果、多孔質炭素材料の投与によって、病原性のあるCitrobacter rodentiumに感染したマウスの生存期間が延長することが明らかとなりました。また、この炭素材料は抗菌剤によって吸着性が変化することから、抗菌剤との併用によってより効果が高まることも考えられました。

接着侵入性大腸菌が腸管の線維化を促進

最後にご紹介したのは、クローン病と接着侵入性大腸菌に関する研究です。クローン病患者では、約4割の患者が回腸末端に狭窄を生じることが確認されています。狭窄により腸管閉塞を引き起こす他、手術によって取り除いても再発率が高いことが問題となっています。そこで、炎症性腸疾患関連菌である接着侵入性大腸菌と狭窄の関係を調べていきます。

狭窄が生じている組織では、組織が線維化していることが示されています。そこで、デキストラン硫酸ナトリウムあるいはサルモネラ菌により炎症を起こしたマウスに対して接着侵入性大腸菌を定着させた上で、組織における遺伝子発現量を調べた結果、腸管組織におけるサイトカインや線維化関連因子であるCol2a2、Tgfb1の発現量が増加することが確認されました。また、粘膜下層におけるコラーゲンの沈着も確認されたことから、実験的に接着侵入性大腸菌がクローン病患者腸内の線維化を引き起こすことが示されました。

腸内細菌と病原性

今回ご紹介したFusobacterium nucleatum、接着侵入性大腸菌などは、病原性細菌として注目されており、腸内環境でも検出されることがあります。

したがって、腸内細菌がもつ健康への負の側面についても理解をすることで、腸内環境や腸内細菌に対して偏りのない認識をできるようになります。来週は、病原性と腸内細菌についてお話をしていきます!

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今週も、お疲れさまでした。また次回、お会いしましょう!

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