見出し画像

#96 お風呂でオナラをすると、お湯は大腸菌に汚染されるのか?

毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

本日お届けするのは、腸内細菌相談室のリスナーの方から頂いた「お風呂でオナラをすると、お湯は大腸菌に汚染されるのか?」という疑問に対する回答です。質問ありがとうございます!

お風呂でオナラをすることについては、リスナーの方はinstagramにて記述を発見されたそうで、気になったとのことでした。室長も改めて探してみると、知恵袋など様々なところでこの疑問についての回答がみられました。では、本当のところはどうなのでしょうか?エビデンスを元にお話をしていきます。

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

問を分解して考える

まずは、問題を小さな問題に分解して考えます。今回の場合は、①オナラには細菌が含まれるのか、②お風呂には細菌が含まれるのか、③お風呂に細菌が拡散することは、汚染と見なせるのか、ということです。まずは、①オナラには腸内細菌が含まれるのかという問に答えていきます。

オナラには細菌が含まれるのか

まず取り組むのは、オナラに細菌が含まれるのかという素朴な問に対する答えを探すことです。結論を申し上げると、答えはイエスと言えそうです。

室長は、国内外の研究に、「オナラに細菌が含まれるのか」という問を調査する論文を調べました。しかし、残念ながら、この問題に真剣に取り組む研究を、室長の手では発見出来ませんでした(サーベイ不足の可能性もありますが…)。確かに、この研究に対して研究費を捻出するのは大変そうです。

しかし、ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(以下BMJと略称)という歴史のある論文誌に掲載されているコラムを発見しました。2022年11月現在におけるBMJのインパクト・ファクターは39.89と非常に高いです。インパクト・ファクターは、1年あたりの論文の平均引用回数についての指標=論文の著名度で、これは先日紹介したLancetの姉妹誌と同等です。多くの研究者が注目する論文誌にあるコラムなので、一定の信頼をおけると考えました (多くの研究者の目に晒される=変な記述は淘汰される)。

ここには、次のような試みが記載されています。

  • ズボンを履いたまま5 cm離れたところからシャーレにオナラをする。

  • ズボンを下ろして5 cm離れたところからシャーレにオナラをする。

単純明快な実験です。結果は、ズボンを下ろした上でオナラをしたシャーレには、腸内および皮膚に存在する細菌のコロニーが生じたということです。一方、ズボンを履いたままだと、コロニーは生じなかったのです。

この結果に対して実験者は、「シャーレの腸内細菌はオナラによるもの、腸内細菌の周りにあるのはオナラの風によって皮膚細菌が飛ばされたもの」であるとしています。その上で、どちらの細菌も有害なものではなく、これらの細菌はヨーグルトに含まれる「友好的な」細菌に似ているとしています。

まず、第一の問への答えとしては、オナラには細菌が含まれるということです。ここから、大腸菌が含まれる可能性はあるといえます。

参考文献

Hot air? BMJ. 2001 Dec 22;323(7327):1449. PMCID: PMC1121900.

お風呂には細菌が含まれるのか

続いて取り組むのは、お風呂には細菌が含まれるのかということです。この点については、森永乳業が発表している面白い研究があります。研究の概要は、家族内で共有される腸内の乳酸菌はお風呂を媒介して行われるのか、ということを調べた研究です。この研究は、Odamakiらによって、Impact of a bathing tradition on shared gut microbe among Japanese familiesという論文に報告されています。

研究の方法はシンプルです。浴槽のお湯からサンプリングをして細菌を調べる、家族の腸内細菌を調べる、細菌を比較するというものです。ここで、お風呂、家族の腸内細菌に同一の乳酸菌が検出されるかを調査していきます。お風呂のお水と糞便由来の腸内細菌叢解析の結果、乳酸菌の一種であるBifidobacterium longumの株が共有されていました。このことから、著者らは腸内細菌がお風呂を介して他人間で共有されうることが示されたとしています。

この研究がもたらす重要な示唆は、腸内細菌がお風呂に拡散しているということです。お風呂に入る事自体が腸内細菌をお風呂に拡散することにつながるのです。

結論としては、お風呂に入れば腸内細菌はお湯に拡散します。この研究ではお風呂でのオナラの回数を計測しているわけではないので、オナラによる腸内細菌の共有なのか、あるいはお風呂に入る事自体が腸内細菌の共有に繋がるのかは定かではありません。室長の個人的な見解としては、オナラの有無に関わらず、肛門の周囲に付着した微量な細菌がお風呂には拡散すると考えており、オナラによってのみお風呂に細菌が拡散するものではないと考えています。

参考文献

Odamaki T, Bottacini F, Mitsuyama E, Yoshida K, Kato K, Xiao JZ, van Sinderen D. Impact of a bathing tradition on shared gut microbe among Japanese families. Sci Rep. 2019 Mar 13;9(1):4380. doi: 10.1038/s41598-019-40938-3. Erratum in: Sci Rep. 2020 Feb 5;10(1):2280. PMID: 30867524; PMCID: PMC6416414.

お風呂に細菌が拡散することは、汚染と見なせるのか

ここまでに、オナラには細菌が含まれる事、お風呂に入る事で腸内細菌が共有される研究についてお話をしてきました。

ここからは、お風呂に細菌が拡散することが汚染とみなせるのか、お話していきます。というのも、私たちを取り巻く世界全てから細菌を含めた微生物を取り除くことは不可能です。浄水場での塩素処理や凝集処理を通して、ある程度の殺菌はされていますが、依然として滅菌は難しいです。

ましてや、私たちは皮膚常在菌、口腔常在菌、腸内細菌と多くの細菌を飼っている宿主です。私たちの代謝は細菌の存在によっても支えられている点、すべての細菌を排除するのはナンセンスです。

そんな菌の塊である私たちがお風呂に入れば、オナラをする以前にお風呂の水へ細菌は拡散されていきます。

では、お風呂のお湯の汚染はどのように定義すれば良いのでしょうか。一個体でも細菌がお風呂に入ったら汚染と呼ぶのでしょうか?それでは厳しすぎるのだとしたら、何を汚染とするのでしょうか?

個人としては、短期的、中長期的な時間スケールで、曝露によって健康被害を被るような水質になれば、それは汚染とみなせると考えています。オナラによってお風呂のお湯が汚染され、短期的な健康被害を被ることはなさそうです。多分、こんな状況になればニュースになってることでしょう。stop お風呂でオナラのような標語が今頃飛び交っているはずです。

では、中長期的な影響はどうでしょうか。この点を検証するには、お風呂に入るグループと入らないグループの比較が必要です。しかし、お風呂に入ることによって生じる体温の上昇や保湿など別の側面への影響もあるため、厳密な検証は難しそうです。

個人としては、かなり高い水準で清潔な日本の浄水を用いたお風呂であれば、仮に大腸菌がお湯に放出されたとしても問題ないと考えています。ここで、O157の食中毒に感染した方など、感染症を罹患した方とお風呂を共有することは無いと想定しています。このケースは日常には見られない条件だからです。感染症を患った人とは一定の距離を保つのが普通です。お湯替えを行っていないなど、浄水処理からある程度時間が経つと細菌が繁殖するのは、オナラをしたお湯に限らないので問題外です。

まとめ

ここまでに、3つの問いに答えてきました。最後に整理していきます。

オナラには大腸菌を含めた腸内細菌が含まれます。また、お風呂に入ることで細菌は湯船に拡散します。したがって、オナラによって大腸菌がお風呂に拡散することは可能性として存在します。しかし、この程度の菌の拡散であれば、汚染とは見做せない、というのが腸内細菌相談室の見解です。

以上、リスナーさんからの、お風呂でオナラをすると、お湯は大腸菌に汚染されるのか?という質問に対する回答でした!

この度、第4回 JAPAN PODCAST AWARDSのリスナー投票が始まりました!もし面白いと思って頂けたら、投票していただけるととってもウレシイです…!🧬🧑‍🔬🦠皆様と一緒に、腸内細菌、腸内環境の知識を常識にしていきたいです。投票フォームは、以下のリンクから! 投票の名前は、「腸内細菌相談室」でお願いします!ご協力お願いします…!

腸内細菌相談室は、腸内細菌について分からないことがある、あなたのために存在します!わからないこと、難しいこと、紹介してほしいことがあれば、メッセージお待ちしております。論文の紹介から、基礎知識の解説まで、腸内細菌相談室を使い倒して下さい!あなたのリクエストが番組になります。

こちらがTwitterです!

インスタグラムはこちらです!

https://www.instagram.com/chonai_saikin

本日も一日、お疲れさまでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?