見出し画像

『鏡のマジョリティア』はカードゲームに対する強烈な風刺が効いたユニークな作品だ

ネタバレを含む。


クリアした。Boothでダウンロードできるフリーのゲーム。未知のカードゲームの用語やルールを解読しながら、事象を読み解いていくゲーム。

このゲームは100点満点では決してない。それはフリーゲームが故の粗さかもしれないし、作者のギャグのセンスが2000年代のニコニコ動画的な何かで止まっているのが苦しいからかもしれないが、しかし、このゲームには、確かに魅力がある。

まず、着眼点が素晴らしい。専門用語が多くなりがちなカードゲームというジャンルにおいて、専門用語が多くなりがちであるというそのこと自体を、ゲームにしてしまおうという発想が楽しい。言語解読系のゲームは『7day to end with you』や『Tunic』、『Chants of Sennaar』等、よく作られたものが多いし、カードゲームを使ったパズルゲームも別段珍しいものではないかもしれないが、『鏡のマジョリティア』はその着眼点が圧倒的に良く、やってみたくなるキャッチーさがある。

カードゲーマーほど、カードゲームの専門用語にはいくつも思い出がある。新しくゲームが出るたびに起こる「テンポ」の概念の議論については嫌と言うほど見てきたし、新しいゲームの用語をわざわざMTGの俗称に置き換えて気持ち悪がられるおじさんも嫌というほど見てきている。なんでもかんでもアドバンテージに変換するその態度も、ゲームごとに新たに生まれる新しい言葉も、カードゲーマーにとっては見慣れた光景だ。そのこと自体がゲームになっていることは風刺であり、それは確かに面白さである。

知る由もないゲームのルールミスを指摘されて、それがペナルティになるというのもなんだか風刺的で面白い。紙のカードゲームの大会や、ゲーム配信で知らない人間にルールミスやプレイミスを指摘されるあの厄介さを端的にゲームの表現に落とし込めている。これはつまり「お前達にとって当たり前になってしまったこのことは、外の人間からこういう風に見えているのだ」という現実を、何より自分の好きなカードゲームを通して突き付けられる。なんて愉快な表現なんだ、と感動した。

圧巻は、なんの抵抗もなく、積み込み行為を前提としたゲームプレイに早い段階でなることである。このことはすごく興味深い。いきなりなんのためらいもなく勝利のために積み込み行為という不法な手段に手を染める主人公が面白いというのもそうだが、これはカードゲームの演出表現として、一番盛り上がるのはデッキの一番上から逆転のカードを引き込むことである、ということを端的に表現している。

このことはカードゲームの競技シーンがずっと悩まされていたことだ。カードゲームは運と実力のゲームだが、造詣が深くない視聴者にとって、実力の多寡はわかりづらく、運の部分がわかりやすく盛り上がれるポイントである。カードゲームにおける実力とは、簡単に言えば選択肢の発見と期待値計算に基づく適切な判断であって、これは一見して「起きもしないことを警戒しているバカ」や「適切なプレイをしたのに勝てないクソゲーム」のようにも見えてしまう。いつだってカードゲームの観戦で一番盛り上がる瞬間というのは、デッキトップに都合のいいカードが埋まっていた時であり、『鏡のマジョリティア』的に言えば、『ゴッドドロー』した時なのだ。

少年バトル漫画風のストーリーにこうした演出を盛り込んでいるのは極めて本質的だと思った。かの有名な『遊☆戯☆王のアニメや漫画があれほど受け入れられたのは、あれが本来のカードゲームのプレイ体験から大きく乖離していたからだ。ルールを無視した意味不明の効果が大活躍し、でもなんだかんだ最後には運命のドローで敵を倒すという、およそ本来のカードゲーム体験とは遠い何かだったからこそ、あれほどまでに受け入れられたし、話として面白かった。

しかし現実には運命のドローはそうそう起こらない。いや、正確に言えば実力のあるカードゲーマーほど「勝ち目のある状況を残し続ける選択を取る」ので強い人ほど運命のドロー率は上がるのだが……これはカードゲームのオタクが話をややこしくしているだけなので無視しよう。

何が言いたいかと言えば、カードゲームにおける積み込み行為というのは、実際のカードゲームの文脈としてはあってはならない不正行為だが、カードゲームを使ったストーリーテリングとしては、すごく正しい行為なのだ。そのことが、ゲームの序盤から積み込み可能になるシステムにしっかりと現れていて、素晴らしいと思った。

作者の笑いのセンスが自分の感覚だとかなり厳しく、正直に言って面白くないを通り越して不快に思うシーンすらあり、プレイの続行が辛くなる瞬間が何度かあった点から、他人にはあまりおすすめしない。しかしゲームの発想と着眼点が本当に良かったので、記憶に残るゲームではあった。気になる人はその点覚悟したうえで、遊んでみてもいいのかもしれない。


ここから先は

0字
月10本以上の更新で運用していましたが、今月の7月をもって不定期更新に変更します。

ちょもマガ

¥500 / 月

人よりも少しだけゲームに触れる時間の長い人間が、ゲームやそれにまつわる話について書いています。昔プロゲーマーだったりしました。たまに無料で…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?