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誓いの休暇

ソ連映画、グレゴーリ・チュフライ監督『誓いの休暇』。

1973年小6の時、淀川長治さんの日曜映画劇場を家族で見ました。子供の頃にみた映画の中では一番印象に残っています。ロシア人にとっても60歳以上の人であれば今でもベスト3の映画に入るほどの作品だそうです。ウクライナ戦争で思い出し、DVDをヤフオクで買って再び観ることができました。

『誓いの休暇』は、1959年ソ連時代の映画で、フルシチョフが独裁者スターリンを批判した時代、いっときの自由な空気感が名作を生んだと言われています。

19歳の通信兵アリョーシャは戦地での勲功で6日間の休暇を貰いました。母親に会いに故郷へ帰る途中、列車の中で少女シューラに出会い、淡い恋心を抱きます。人のよいアリョーシャは戦友からの頼まれごとや傷病兵の世話のために時間をとられ、母親に面会する時間が無くなっていくというロードムービーです。

当時のウクライナはソ連の一部で、映像に出てくる一面麦畑の景色の中で、ウクライナが今、ロシアと戦っていることを思うと切なくなります。

シューラと別れ、母親とわずか10数分の再開の後、戦地に戻ったアリョーシャは二度と故郷に戻ることはありませんでした。

シューラと別れを告げ列車に乗り込む間際に住所を交換しようとするも、騒音でかき消され、その切ないシーンは何度みても泣けてきます。

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スピッツの『甘い手』という曲の間奏に『誓いの休暇』のふたりの会話がサンプリングされて流れています。

映画の字幕を見ると「お別れね・・・僕を忘れないで・・・怒らないでね ウソをついてたの・・・どんな・・・婚約者なんていないの・・・でも怒らないで バカね?・・・でもどうして・・・怖かったの・・・今は?・・・発車よ アリューシャ 急いで・・・シューラ・・・住所を書きとめて・・・ゲオルギエフスキーの・・・サスノフカ村・・・聞こえないよ・・・シューラ・・・」といった会話が流れていたようですがロシア語なのでわかりません。

ソフィア・ローレン主演『ひまわり』(1970)にも似たストーリー展開があるので、この映画に感化されていたのかもしれません。ひまわり畑はウクライナのヘルソンがロケ地です。

2022年の本屋大賞は逢坂冬馬作『同志少女よ敵を撃て』が受賞。その直後にロシアのウクライナ侵攻が始まりました。大変な部数が売れているようですが、リアルな戦争を想像しながら胸を撃たれるシーンが連続です。さすが本屋大賞で、私のような普通の読者の胸を見事に射止めました。

目の前でドイツ兵に母親を射殺され、村人は皆殺し。一人ぼっちになってしまった少女セラフィマをソ連赤軍の女性兵士イリーナが救い出してその復讐心を利用して狙撃兵として厳しい訓練を課し戦場に送り出します。同じ境遇で訓練された少女たちと一個小隊を率いる女性狙撃兵隊の活躍と惨劇が続きます。勲章をもらう功績をあげ、退役後の平穏な生活を想像しながら、ベルリン陥落で終戦を迎えますが衝撃の結末を迎えます。

この小説には元になる本があります。ノーベル文学賞作家のスヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ著『戦争は女の顔をしていない』です。女性兵士をひとりひとりインタビューしてそれを書き綴ったドキュメンタリーです。女性の目から見た戦争を、1978年から500人を超える女性兵士たちから聞き取り調査を行っています。

興味深いのは、死体の山に囲まれた凄惨な経験を重ねているにもかかわらず、随所にかっこよかった兵隊さんの話とか、恋愛の話とか、貴重なチョコレートケーキを食べた話とか、死ぬのは怖くないけど顔だけはきれいなまま死なせてとか、支給される男物の軍服が嫌でしょうがなかったとか、戦地での感性が男性と根本的に違っている事や観察の解像度が高いことです。


『同志少女よ敵を撃て』は、大木毅著『独ソ戦』も参考にされ独ソ戦の事実を調べて小説になっていますので、小説とはいってもリアリティがあります。

独ソ戦(大祖国戦争)では、ソ連側が、戦死者1140万人と民間人犠牲者1500万人以上、合計2700万人(当時の人口は1億8879万人)、ドイツ軍は1075万人の戦死者が出ました。

スターリンは人間不信の妄想と合理的戦略能力が欠けていたとも言われ、上級将校の粛清で戦力を大幅に低下させました。富農を粛清し、農業協同組合への強制加入でウクライナの穀倉地帯を中心に数百万人の餓死者を出して国力を失っています。

犠牲者の数字を並べられると、文字通り桁違いの人類史上最悪の絶滅戦争であったことがわかります。

最大の激戦地スターリングラード攻防戦では、ヒトラーが全市民の絶滅を命令し、第二次世界大戦の全局面における決定的な転換点のひとつとなったとも言われる史上最大の市街戦となりました。ソ連側と枢軸国側(ドイツ=ハンガリー=ルーマニア=イタリア)双方合わせて200万人の犠牲者が出ています。

ナチス軍は捉えた捕虜は全て殺害することを命令され、その報復でソ連軍も捕虜を殺害するという双方で国際法は守られませんでした。

ナチスの人種的イデオロギーが、ホロコーストへと発展していくわけですが、(持たざる国家の)領土拡大による資源確保と相手国を植民地化してスラブ民族を奴隷化し、食料や工業の生産を行わせてゲルマン民族を富ませるための政策がドイツ国民に受け入れられてナチス党が力をつけていきました。

ユダヤ政策は、当初は国外追放の政策であったが、若くて優秀なユダヤ人だけが海外に逃亡し、残されたユダヤ人は足手まといとなり、ユダヤ民族の絶滅の政策に転換し、いかに効率よく絶滅させるかの方法を編み出していったと書かれています。

戦時の国民は余裕がなくなると権力者の語る物語に洗脳され、同調圧力と密告により人間性を失っていくことが分かります。

今日のグローバル社会においても、独裁者は巧みに外部からの情報を遮断し、愛国心をあおり、歴史を修正して独裁者が創作した歴史観を国民に植え付け正当化します。これは専制国家では多く見られることで、私たちはその気配を感じるセンサーを研ぎ澄ませないとならないと思います。

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