バックトゥザフューチャーのように #1
その案件は日頃良くしてもらってる代理店から、とある町がプロモーション映像制作のコンペをやってるから企画書を書いて欲しいという依頼からはじまった。
半年前の話である。
いわゆる町をこうアピールしてほしいという仕様書を読んだものの何を伝えたいのかさっぱりわからず、嫌な予感がし、断ろうと思ったが、日頃お世話になっている代理店の顔を立てようと、引き受ける事にした。
まぁコンペで負ければいいんだし。
でも私は真面目だ。
私はその町を足が棒になる程歩き倒し、その町の輝いている所を見つけて企画書をこしらえた。
プレゼンを行い、その感触は良くなかったが何故か5社のコンペを勝ち抜き受注する事になった。
5社のコンペを勝ち抜くとはなかなかの事らしく代理店は非常に喜んだ。
その喜びと共に、町の小役人と1回目の打ち合わせが行われた。
役所に入ると小役人らに案内され
町長と面会となった。
町長は町ができて100周年の記念すべき動画制作にただならぬ意欲があるというからである。
町長は我々に何度も
「第一者目線で作って欲しい」
と言った。
一瞬訳が分からず、当事者目線の事ではないのかなと思い、町長の周りの小役人を見たら、町長の言葉にいちいち頷き、こちらを笑顔で見ている。
小役人の老婆は私の顔を見て
「貴方は反町隆史の様だ」と言った。
あれは本当に怖かった。
そして町長は
「私の町は田舎ですからー」
と意味ありげに言った。
ちなみにその町は決して田舎ではない。
何か変な宗教の儀式の様で不気味さに怖くなり
頼りない返事で「はぁ〜」と返した。
町長との面会を後にして打ち合わせが始まった。
ここでコンペで提出した企画を磨いていくものと思っていた。
しかし
小役人からの要望は
「役者を使うな」
「エッセンスが欲しい」
というものであった。
本来の企画書はいつの間にか潰されたようだ。
何故ならコンペで勝ち抜いた企画書は役者を使うものであったからである。
そしてそれは難題である。
役者が使えなくなるという事はスケジュールをはじめ色んなコントロールが効かなくなる。
だって町の人に出演してもらうって事は、その方にスケジュールを合わせて撮影するって事、ということは撮影日数が増えるって事、予算を超えるで!というデメリットを伝えた。
するとその小役人は
「じゃあ貴方達は何がやりたいんだ!」
というので
「コンペでお伝えした企画です」
と伝えたら場が凍りついき、その後押し問答が続いた。
エッセンスが欲しいは、いわゆるYouTubeでバズりメディアに取り上げられるようなハイセンスなものだというのはわかった。
まぁイイものを作りたいのは分かるのでそれは頑張ろうと思った。
結局、はじめの企画書は潰されて役者は使わずハイセンスなモノという方向性が決まった。
役所から出て代理店に
「しんどかったら言ってくださいね」
と言われて。
「こうゆう時は、もう一度町を歩くんですよ」
と格好をつけてしまった。
結局企画は白紙に。
電車に揺られながら
何故コンペで選ばれたんだ?
あいつら何も分かってないアホかも知れない。
いや、我々が良いものを提供できていないかもしれない、いや、見るからにあの小役人はダサい、当初の嫌な予感が頭を支配する。
私は泥舟に乗った気持ちになりながらも
その次の日からその町へその町の魅力を再発見しようと何度も通うのである。
私はなんて真面目なんだろう。
(続く)
この物語はフィクションです。
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