PASI-TALE

あらすじ
 
とある荒廃したような世界。鍵の形をした尻尾を持った化け物、パジテールと、その天敵、ルーカスが住んでいる。両種族は先祖の時代から因縁の関係にあり、一触即発の状態である。
 パジテールの好青年、ギルスは、他のパジテールよりも賢く、原始的な暮らしをする仲間たちに生きる知恵を与える。いつか安心できる村を作り、そこで仲間と平和に暮らす未来を目指して、両種族間の様々な問題に立ち向かう。

補足
・この世界は実は我々が住む表世界(鍵の世界)の裏に位置する世界(錠の世界)である。そのため、この世界は様々なことが表世界とは正反対になる。世界の形も球体ではなく平面、色を持ったものは色を無くし真っ白になる、等。
・鍵穴を境界線に両世界は区切られている。

M・・・モノローグ
()・・・心の声、もしくは補足情報

第2話 前線基地より
https://note.com/chommin/n/nac570c8fc182

第3話 進軍
https://note.com/chommin/n/nb179a5458c53

第1話 パジテールの村

 黒紫色の荒野が広がる。地面や山を作る岩石が黒紫色であるためだ。空は青色で黒い雲が浮かんでいる。植物はまばらにしか生息しておらず、健康なのか腐っているのか分からない黒色である。ただの岩や少ない植物しかない荒野が物寂しく見えないのは、岩の隙間を埋めるように大小様々な箱が転がっているためである。箱にはどれも深い闇のような鍵穴が空いている。
 強く吹き続ける風の音以外は閑散としたその荒野に、どこからか群れのけたたましい足音が聞こえてくる。足音の方を見ると動物か化物か分からない集団の影がどんどん近づいてくる。
 砂煙を切るようにして現れた集団は、全身が黒く、動物と動物をかけ合わせたような見た目をした、「パジテール」と呼ばれる化物である。その形に統一性はなく、共通点は黒い体色と、体のどこかしらから生えている特異な尻尾である。
「ここが一番詰まってるはず!ばらけよう!」
 先頭を走る二足歩行の化物、ギルス(ヒト+クラゲ)が声をかける。すると他の4体がばらけ、地面に転がっている箱に辿り着き、箱を振って中身があるか確認する。ミチトラ(オオミチバシリ+トラ)が振った箱から音がする。
「あたり!」
 ミチトラは尻尾をひゅるりと動かすと、尾の先を鍵穴に突っ込む。彼らの尾の先は鍵の形になっており、鍵穴をがちゃり、と開けられる。箱の中には何かの木の実が沢山入っている。それを確認すると蓋を閉じ、手に抱えてまた別の箱を開けに行く。
 彼らパジテールの尻尾の先は鍵の形になっている。その尻尾を使って荒野に散らばっている箱を開け、中に入っている食料や資材を持ち帰り生活に使っているのだ。
 5体の化物、どんどん箱を開けて中身を抜き取っていく。
カアラ(カエル+コアラ。以降、カ):おいおい、あたりばっかじゃねえか!
ヒツネ(キツネ+ヒョウ。以降、ヒ):この調子じゃ5人でも運びきれないんじゃない?!
ギルス(以降、ギ):ここら辺を偵察しているのを見かけてね!持ってかれる前に来なきゃって思ったんだ!
ミチトラ(以降、ミ):へへ、こんな潤ったのはいつ振りだ
イリチ(キリン+イタチ。以降、イ):おい!俺空ばっかなんだけど!
ギ:あ、そっちは前に取ったろ?もっとこっちだよ!
イ:おい!やつらが!
 遠くからこちらに向かって走る集団を見つける。
ギ:まずい!急いで帰るぞ!
 5体素早く走っていく。
 時間が経ち、目一杯の食料、衣服、資材等を腕や尻尾を使って抱えた5体が、村の付近をゆっくり歩いている。
カ:ひや~、大漁大漁!
ギ:イリチ、来てるか?
イ:うん?(首を高く伸ばし遠くを見る)…大丈夫、いないね
ヒ:念のためちょっと急ぐ?
 夜、一同、村に帰還する。皆が迎える。
 ここは岩山の隙間に作られたパジ―テルの巣。岩を削ったり、地面を掘ったりして洞穴を作り、その中に寝床を持つ。家という概念はなく、寝るとき以外は基本皆洞穴の外で活動している。岩で出来た村といった感じ。500体余りの人口で、基本皆ごろごろしたり、勝負事をしたり、取ってきた資材をいじったりする日常である。
ヒ:今日はいっぱい食べれるよ!
ミ:これ、倉庫に入れてくれ
 子供がギルスに風車を持って駆け寄る。
子1:ねーみてみて!この前ギルスに教えてもらった通りにやったら出来た!(ふーっと息を吹いて回して見せるが、回転が変である)
ギ:おお!凄いじゃないか。(取れかかっている部分を指して)でもここの補強がまだ足りないね。(噛み合わせを変えてその部分を直す)ほら、これで完璧だ(ふーっと吹く、カラカラと気持ちよく回る)
ヒ:ギルス!早く運んで
ギ:あーわるいわるい!
住民1:ね~ギルスちゃん、しっぽがまたカサカサなんだけど…
ギ:ごめんもういかなきゃなんだ!それフュブラおばさんにまた塗ってもらったら?
住民1:ありがとうー
ギ:おばさんが俺に教えてくれたやつだろ?笑
 ギルス戻り、食料、置物、衣服、薬などなど、素材毎に分けて別の洞穴(倉庫)に運んでいく。
イ:ギルスが採取に加わってくれたおかげで、ずいぶん収穫が増えたよ!
ミ:今回も収まるかわかんねえな
イ:前は採取に行っても空箱ばかりで、ひもじい思いしてたよなー
カ:毎回なんで中身の詰まった箱の場所がわかるんだよ~
ギ:へへ、実はずっと前から観察してるんだ、やつらの行動を
イ:行動?
ギ:最初はたまたま見つけたんだ、やつらが箱を回収していく場面を。岩陰に隠れながらやつらをつけていくと、中身の詰まった箱をあえて回収せずに、わかるように目印だけつけて帰っていくとこを見た。結構時間が経った後に、それを回収して、また別の箱に目印をつけ帰る…それを利用させてもらったのさ。
イ:え!じゃあやつらのつばがついた箱に手を出してたってことか…?
ギ:…へへ
カ:(ギルスに抱き着き)おいおい見直したぜ、さすがはギルスだ!
ミ:これでやつらにも一泡吹かせられたな…!
カ:こいつって賢いよなー、イリチのやつもギルスが来るようになるまではくるみ割りをやらせてたが、首がなげえからってんで、ずっと背伸びさせてやつらが来てないか見させる係にしてから、突然やつらに襲われることもなくなったもんなー
イ:おかげで倉庫もパンパンだ、溢れた分は今夜ぱーっと宴に回すか!
ギ:はは、せっかくしばらく採取に行かなくて済みそうなのに、お前らに食わせてたまるかよ
ミ:俺は言ってねえ!
イ:涎垂らして言われちゃ世話ねえな
ミ:ジュルっ…?!うっせえその首噛みちぎってやろうか!
ギ:なんでも噛みちぎっていいから、これも持ってけよー?
ミ:なっ…!あいつ…
 ギルス達が運んでいると、住民に次々と声をかけられる。
モグマ(モグラ+クマムシ。以降、モ):ギルス!おかえり!作ってもらったやつまだ壊れてないよ!(何かをすりつぶすミールのようなもの)
ギ:おお!モグ!まだ使ってくれてたのか!__だいぶ刃が古くなってるな…(近くの地面を探して、いい岩を見つけて尻尾で割り取る)これで刃の部分を削ってみな。先っちょに向かってこう…
ショク(ヒト+ショクブツ。以降、ショ):ギルス!帰ってたの!!(抱きつく)
ギ:おっと、ああ(頭を撫でる)
ショ:遅いよー!まだ絵直してる途中だったのに
ギ:絵?…ああ、あれはショク、君が完成させるように作ったんだよ
ショ:え?
ギ:あれは壊れてるんじゃなくて、かけらの形が合うように繋げていくんだよ、説明したろ
ショ:あれ、そうだっけ笑
ギ:(下ろした荷物をまた持ち上げ)ちょっと今日は忙しいけど、明日一緒にやれたらいいな
ショ:うん!約束だよ?
 どこかから小石をぶつけられる。
ギ:いった…んん?
 遠くでタコザルス(タコ+恐竜・以降、タ)が岩陰から、木を組み合わせて作ったおもちゃの銃を打っていたようだ。
 ギルスに見つかると、きききと笑いながら逃げていく。
ギ:ったく…あんな強く作った覚えないんだけどな…
住民2:ギルス!ちょうどよかった!うちの洞穴がさ、あの天上の部分がツェスとダズデにまた壊されてよ、また新しい岩を探してきてほしいんだ…もし雨が降ったら、うちの母ちゃん、溶けちまう…
 彼ら親子はカタツムリと綿花をあわせたような見た目である。
ギ:ああー、またあいつらか。図体がでかいのをいいことに…わかった。後で見に行くから、待ってて!
住民2:(去り際)必ず来てくれよなー?
ギ:おう!…さて、いい加減終わらせないと
 ギルス、他より多く荷物を持ち、走ってそれぞれの倉庫へ運んでいく。運び終わると、倉庫の中身の確認を村の大人たちで行う。
 その後、住民2の家に行く。洞穴の前に大きな岩が割れて落ちている。洞穴の中で老いた母が会釈している。
住民2:あ、きた!これなんだけど…
ギ:…だいぶやられたな。ダズデ達は?
住民2:俺達のせいじゃないって…まともに取り合ってくれなかったよ
ギ:全く、あいつらときたら…ここにまた大きい岩を乗せるのは無理だよ、下の台ごと壊れてる
住民2:え?!本当かよ??じゃあもうだめ…?
ギ:ああ…だけど、ちょうどいい機会じゃねえか
住民2:え?
ギ:せっかくだし岩乗せるだけじゃなくて、しっかり地面に埋めちまえばいいんだ。
 辺りの大きい岩を尻尾で薄く切る
ギ:ちょっとお母さん、この岩一回片付けていいですか?
 母、ニコッとしたままうなずく。
 ギルス、壊れた住民2の洞穴の岩を複数の尻尾で払い除け、先程切った薄い岩を三方に深く埋め込み、天井に薄い岩を乗せて岩に打ち付け、屋根と壁を作る。
 激しい作業中、母は微動だにせずずっとにこにこしている。
ギ:下を土で押し固めれば…ほら、前より頑丈なのが出来たぞ!
住民2:おお!なんか分からねえけどすげえ!これで壊れにくくなったのか?
ギ:ああ、試そうと思ってこいつも連れてきた
 振り返るとミチトラが待っていた。
ギ:おーい!じゃあやってみてくれー!
 ミチトラ、助走を大きくつけて、素早い動きで出来立ての家に突進する。
住民2:え…ちょ、や、やめて!やめてええ!
ミ:おらぁ!
 尻尾をバネにして家に体当たりするが、頭にたんこぶを作って涙を流す。
ミ:…おいてめぇよ…まじで覚えてろよ…
住民2:…?!え、な、なんで?
ギ:はは、わりいなミチトラ、後でお前の洞穴の修理もしてやるから。ほら、全然崩れないだろう?これはただ岩を立てたんじゃなくて、互いに支え合う様に斜めに埋め込んでる。それで岩の根本を更に動かないようにしてやれば、相当な力でも、地面が受け流してくれるのさ
住民2:おお、すげえ!
ギ:あとはもうちょっと小さい支えを足してやれば踏み潰されても大丈夫なんだがな。小さくて頑丈なやつは中々時間がかかるからな
住民2:ありがとう!これだけでも充分だよ!あとは俺んちの前で喧嘩すんなって、あいつらに言っておかないとな!
ギ:はは、その通りだな…お母さん、おやすみの前にすみません。どうですか?狭すぎたりしませんか?
母:(体を震わせながら)あ~ん、どうもあぁ~りがと~ぅねぇ~。陽ざしは無くなったが、すずしぃ~くてええなぁ~
住民2:はは、母さんも喜んでる。ギルス、夕飯は食ったか?良かったら食べてけよ!
ギ:いやいいよ、ただでさえお母さん食わすのに大変だろう、それなら近所の子供に…
母:(手で布のようなものを折っている)まあまあ~、これ、受け取ってくんな…
 それは繊細な花の様な形をしている。ギルスは感嘆の声を上げる。
ギ:…お母さん、どうやって作ったんだよこれ
母:へへ…私が若い頃は、み~んなやっとったよぉ~?
ギ:…へえ、こんな綺麗なもの、ぱぱっと作っちまうんだね、昔の人は…そろそろ、お暇するよ。どこかおかしな部分が出てきたら、すぐ教えてくれよな。じゃ!
住民2:あ!ギルス!…ありがとよ~!
 ギルス、大きな岩壁を三つほど乗り越えると、より化物が集まっている場所に出る。
イ:よおギルス!ナメクジんとこの修理終わったか?俺らと一杯やろうぜ
ギ:なんだ酒が入ってたのか?一気に飲み切るんじゃねえぞ、作り足せるかも知れないから…(ツェスとザズデを見つける)
イ:わぁーってるよ、これ一杯だけ~
ツェス(ゴリラ+サギ。以降、ツェ):おいお前それもう3杯目だろ~!
ザズド(クマ+カブトムシ。以降、ザ):ぷはあ、てか、そいつが作っても、いまいちうまくねえよな…
ギ:…おいてめえら、よその寝床壊しといて、謝りもせずによく酒が飲めんな
ツェ:っかんけーあっかよ!あんなしょぼいやつらいなくなったって誰も文句言わねえよ!
ギ:なんだと?
ザ:てか、そいつの寝床の方こそ、邪魔な場所に作ってるくせにぐちぐちうるせえよな
ツェ:ったくだ!そんなにお母さんが大事なら、もっと高いところにでけえ岩に穴ほれっての~、ま、あんなひょろひょろじゃ岩削ろうとしても逆に体削られるか?!
二人:がははは!
ギ:てめえら、もう飲まねえ方がいいかもな…
イ:おいギルス、やめとけよ、大収穫の日なんだ。調子乗らせてやれ
ギ:おめえは監視役だろ、飲んでねえで仕事に戻れ(尻尾で他のやつらをどかして)
ツェ:ああ?!やろうってか?!
ギ:モラルはねえくせに察しは良いじゃねえか…置け、それ
 ツェスの怒りが絶頂に達する。
ツェ:ああ置いてやるよ!てめえの頭になあ!(ギルスに大きな杯を振り降ろす)
 ギルス、にっと笑い、その杯を受け止める。
ギ:てめえ…そんな乱暴にしたら、せっかく作った杯が、割れちまうだろうがよ!!
 ツェの手に回し蹴りを入れる、杯を手放す。
ツェ:ぐおお!ちいせえくせになんつーパワーだ!
 ギルス、大きな杯を端に置く。
ザ:おーい、なめたまねしてくれんじゃねえか…
ギ:(指で挑発し)やってみろよ、酔っ払い
 ツェス、ザズド対、ギルスの激しい攻防が繰り広げられる。
取り巻き:うおお~!ギルスとザズド達の喧嘩だー!あのツートップに喧嘩売るのか?!いいぞ!やったれ!ギルスー!
ツェ:前からしゃしゃってんなとは思ってたが、俺らに牙向けるほどとはなあ!
ギ:何がツートップだ…!てめえらはな、(住民2とその母の笑顔、貰った布の花を思い返し)てめえらは…ただのチンピラどもだあー!!
 ギルス、ザズドのパンチを躱し、頭に飛び蹴りをくらわせる、ザズドノックダウン。
ツェ:て、てめえ!
 ギルスをわし掴みにして潰そうとするも、ギルスの尻尾で腕を何度も切りつけ、痛みで手を離す。
ツェ:いてえ!てめえずりーぞ!尻尾がありなら…!
 ツェスも尻尾でギルスを切り潰そうとするが、ギルスはそれよりはるかに小さい尻尾であるにも関わらず受け止めたり、躱したりする。
ツェ:くそ、なんでだ!?
ギ:なんだあ?ふにゃふにゃだなてめえ!(ツェの尻尾を壁面に蹴り飛ばす)
ツェ:っ?!てめえ、もう本気だぞ!ぶち殺してやら-!
 ツェス、ギルスに思いっ切りストレートを繰り出す。湧く歓声、ギルスに当たったと思いきや
ギ:(腕と尻尾でツェスの拳を捕えている)…喧嘩する時はな、尻尾振る時も拳振る時も…!足腰ちゃんと、踏ん張っとけー!!
 ギルス、ツェスを一瞬空中に持ち上げ、ザズドの上に叩きつける。
取り巻き:勝った!あんな体格差があったのに…!ばけもんかあのギルスってやつは…!ギルス―!信じてたぞー!
ギ:け、どんなもんだい
カ:はは、おーいチャンピオン!祝杯なら上げてやるぜー
ギ:いらねえ、もう寝る
 翌朝、広場では皆が酔いつぶれて寝ている。
 広場に面した岩璧の、少し高い位置にある洞穴の中で寝ているギルス。
 一匹の鳥毛虫がギルスの洞穴に降り立つ。
鳥毛:ギルス!ギルス!大変だよ、大変だよ!
ギ:うーん…うるせえ…
鳥毛:変なの拾ったんだ!
ギ:何…(渡されたのは小さなブーメラン)
鳥毛:何に使えるかな、何に使えるかな?
ギ:うーん…こう使えばいいんじゃない?(洞穴の外へほっぽる)
鳥毛:あ!!ちょっと―!(ブーメランを追いかける)
ギ:ふわあー
 ギルス、洞穴から、住民と挨拶を交わしながら岩の段差を飛び移って降りていく。
タ:おい!今日は伸びる手の作り方教えてくれよ!
ギ:お前は要らねえだろ
ネレオン(猫+カメレオン):あ!ねえねえ、取っ手のはめ方忘れちゃった!
ギ:それはもう使えねーよ
 カミウシ(カミキリムシ+ウミウシ)がこそこそと作業をしている。
ギ:おはよう!
カミウシ(以降、カミ):?!(さっと隠す)
ギ:なにかいいもんでも作ってるのか?
カミ:お前には教えないよ、どうせバカにするだろ
ギ:おいおい、俺がバカにしたことなんかあるか?ますます気になるじゃねえか(さっと取る)
カミ:や、やめろ!
 見ると、笛のようなもの。
ギ:…?なんだこれ
カミ:ふん、それは俺だけが使える、お前には教えねーよ~
ギ:穴が開いてる…(口に咥え吹く)
カミ:ああ!やめ_
 すると、村中に響き渡るうるさい高音が鳴り響き、全員カミウシの洞穴を注目する。
 耳をやられる二人。
ギ:なっ、なんだこれ…始祖鳥の遠吠えか…
カミ:くっ…そんな思い切り吹いたらだめだろ!
ギ:こんなちいせえのから、どうやったらあんな音が…
カミ:…石を削ってたら発見した。何個も作ってったらどんどん大きな音が出るようになってな…ふん、説明しなくてもわかるってか_
ギ:…すげえよ
カミ:あん
ギ:こんなの作ったことねえよ…!まさかこんな石ころから…これがあれば、どんだけ遠くても聞こえるぜ!お前すげえよ!
カミ:(照れる)…な、ふん、まあな
ギ:これどうやって作るんだよ?!みんなにも教えようぜ!
 その後、大量の石笛を作り、広場に持って行く。
ギ:お前ら!カミウシがすげえもん作ってくれたぜ!これがあれば、より遠くまで採取にいける!
カ:なんだあ?
ヒ:なんなのそれ?
ギ:これは…
カミ:フエ!…だ
ギ:あ…フエ、って言うらしい!これスゲエ音が出るんだぜ!何個か違う音が出るのを作って、それで合図を決めれば、固まって動かなくても採取が出来ると思うんだ!
イ:おお!すげえ
ギ:これで採取の時やつらに怯えずに済む…!村の中でも、でかい音ですぐ危険を知らせられるしな!
 皆興味を示し、一つずつ取っていく。うるさい音が鳴り響く。
ギ:うお!!おいお前ら!それはいざって時だけに使おうぜ!いっぱい吹いて奴らのところまで聞こえたらどうするんだ?!
ザ:どんだけ遠いと思ってんだよ、こんなんいくら吹いても聞こえや_
 突然、甲高い笛の音がうるさく鳴らされる。イリチが慌てて吹いたようだ。
ギ:どうした!うるさいって言ってるだろ_
イ:やばい!やばいよー!やつらだ!奴らが来たー!!
 一同、すぐ静かになり、イリチが見る方向を注視する。
 荒野の向こう、砂煙の中に黒い影が。
ミ:あれは…
カ:…なんでここが分かった…?
ヒ:どうして…
 徐々に、黒い生物に乗って向かってくる全身真っ白な生物達が見えてくる。
ギ:来たか…「錠の戦士(ルーカス)」共だ
 先頭のフィロの目が光る。
フィロ(以降、フィ):かかれー!
 ルーカス達は近くのパジテールを捕まえようと分散する。
 パニックになり逃げ惑う住民たち。笛を咥えたまま走る者もいて不規則に笛の音が響き渡る。
イ:うわあああ!
ミ:くそ、なんでここが…ずっとついてきやがってたってことか!?
カ:んなばかな!
ギ:落ち着け!おい落ち着けみんな!
 皆洞穴の中に隠れたり、岩をよじ登ったりするが、ルーカス達の武器に攻撃されてしまう。放つと光のエネルギーが飛んでいく弓矢、特別パジテールの体に効果がある銃、デッドボルトが素早く飛び出る武器。
 ヒツネ、走っていくとルーカスにしっぽを掴まれ、武器をハメられそうなその瞬間にギルスがルーカスを吹っ飛ばす。
ヒ:ぐあ!ありがとう
ギ:気いつけろ!取り敢えず村長のところへ…
 後ろから走るパジテールに倒される。
ギ:!?おい、気をつけ_
 パニックになったパジテール達が、波のように押し寄せてくる。ギルス達圧倒される。
住民3:おい!俺のしっぽ踏んでんだよ!
住民4:んだと?!てめえが邪魔なとこにいるんじゃねえか!
 どんどん乱闘になっていく。殺し合う。
ギ:おいやめろ!味方同士でやりやってどうすんだ!!今は一つにまとまる時じゃ_
ヒ:まって!後ろ!
 ルーカス、興奮したパジテールを後ろから攻撃し、しっぽに武器をハメようとすると、強いパジテールに殴り返される。
ツェ:うらあー!よわっちい猿ども!やれるもんならやってみな?!
ルーカス(以降、ル)1:くっ…!
ル2:おい!こっちから周るぞ!もっと乗馬に向いた_
 ザズドがル2を掴み上げる。
ル2:うお!?
 村民たち、声援を上げる。
「いいぞー!」「握りつぶしてやれー!」
ザ:ふふふっ…
 ほくそ笑んでいると突然銃弾を浴びせられる。
ザ:うがああ!!(ル2を落とす)
ツェ:ザズド!
ル3:もっとだあ!まずでかい奴から潰すことを優先しろー!
 ルーカス達、四方から体格の大きなパジテールに銃を撃つ。
キ:ぎゃあ!いたいいたい!
 銃弾は小さなパジテールにも降りかかり、よりパジテール達が暴れまわる。
ギ:とりあえず洞穴に隠れ…!くっ…!この状況じゃ_
 銃を撃つルーカスの一人に小石が当たる。
ル4:いった!そこかあ!
 振り向いて撃つが何もいない。すると別の方向から笛の音が鳴る。
 ばっと振り向くとショクが笛を何度も吹く。
 ルーカス達が彼に一斉射撃するとその子は慌てて隠れる。
 そっぽ向いたルーカスの足をタコザルスがこっそり尻尾で掴み、一気に走り出す、転倒しひきずられるルーカス。
ル4:ぐおおお!
 他のルーカス達、その子に銃口を向けると別方向から小石を何発も当てられる。モグマである。
 タコザルスは大人の元にルーカスを差し出す。
 差し出されたルーカスは皆殺しにしようとするが銃を奪われぼこぼこにされる。
 子供三人衆が分担し、二人が小石を当てたり笛を吹いたりして気を引き、一人がさっと襲い掛かる。
 これを繰り返されるルーカス達はだんだん苛々し、狙いが定まらなくなる。
フィ:おい!子供たちになに振り回されている!雑魚は無視して_
 フィロ、石を当てられる。ミチトラが当てて周りと喜んでいる。
 フィロ、苛つく。
ギ:…あれだ!あの子たちを真似よう!
 住民、ギルスの指示を聞きながらその通りに動いてみる。
ギ:皆!今は協力し合う時だ!なるべく四方向に分かれて逃げろ!!笛を思いっきり吹きながら走るんだ!そうして大きな岩陰に隠れて、近くの石を持て!そして自分たちの方以外の方へ行くルーカスめがけて投げるんだ!
ル3:なんだ、こいつら...?
ル4:背中ががら空きだ!今の内殺せ!!
 ルーカス、笛を吹く者たちを追いかけ、銃を構えると、別方向から石ころを投げつけられる。
ル3:うお!
 石を当てたパジテール達、歓喜の声をあげる。
ル4:一か所ばっか狙ってどうすんだ!分かれろ!
 別方向に逃げる一群を追いかける。今度は彼らが騒がしく笛を吹く。
ル4:(くそ…パジ風情がなめやがって!)しにさら_
 別方向から大きな石を大量に投げつけられ、乗物から振り落とされる。どこからか聞こえる歓喜の声。
カ:おお!いいぞ!これなら…!
ギ:皆ー!その調子だ!順番に笛を吹けー、横とか後ろから石を当てるんだ!
 どんどんルーカス達は中央に追いやられ、彼らをパジテールが取り囲む形に。
ル3:隊長!
フィ:…この数の差ではこのまま岩に潰されるな
 フィロ、パジテールの壁の一角を薙ぎ払い、道を作る。
一同「うわあああ!!」
ギ:!?なに!
カ:なんだあいつ、馬鹿力だあ!
フィ:総員!これ以上の戦闘は無意味だ!撤退!
 フィロ、乗り物に鞭打ち走り出す。去り際にギルスを一瞥する。
ギ:(!あいつ…)
 ルーカス達、ぞろぞろと荒野の中へ引き返していく。
ザ:ふっ…なんだよ、腰抜けどもが…
セプト(以降、セ):…(甲羅の中から覗く)
ギ:…やったあ!やったぞみんなあ!やつらを追い返したあ!!
 逃げていくルーカスの方へ石を投げつけ、歓喜する住民たち。


#創作大賞2023 #漫画原作部門

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