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「カールほどの臆病者はめったにいないだろう。」

久しぶりに古本屋をのんびりと梯子していたときに、児童書コーナーの隅にしゃがみこんで、熱心に本を読んでいる小学生低学年くらいの女の子がいました。
童心をくすぐられて、わたしも児童書のコーナーに目をはしらせると、たまたま、この本が目に飛び込んできました。

ラルフ・イーザウ著、酒寄進一訳 『ファンタージエン 秘密の図書館』(ソフトバンクパブリッシング、2005)

古本屋で、ちいさな熱心な読者の側でこの本を見つけるというのは、なんというか運命的なものを感じさせます。
そしてわたしの脳裏には、ずいぶん前に仕入れていた情報が蘇りました。

エンデの生誕だか没後何十周年を記念して、何人かの作家がエンデへのトリビュートとしてファンタージエンにまつわる物語を書く、という企画です。
ファンタージエンは『はてしない物語』に出てくる異世界のこと。
そしてラルフ・イーザウは、たしかその筆頭だったように思います。

ラルフ・イーザウというドイツの作家は、エンデ賞も受賞した作家で、わたしは勝手に「エンデの正統派後継者」と思っています。
そう言えるほど、エンデの作品を読み込んでいる訳ではないのですが……
イーザウの代表作に、『ネシャン・サーガ』という三部作があって、これは高校の時でしょうか、何度も繰り返し読み、友達と語り合いました。
これは児童書のくくりでしたが、次第に児童書の枠から外れたファンタジーやサスペンスも書くようになって、何作かを読みました。
そんな彼が、エンデの作品に戻ってくるというのは、妙な感慨を覚えます。

さて、『はてしない物語』を1回しか読んでいない、しかも小学生の時なのでほとんど記憶も薄れている身ながら、この『ファンタージエン』という直球のタイトルが付けられた本を開きました。

実はあまり知られていないことですが、児童文学のファンタジーは必ずしも子どもが主人公というわけではありません。
この『ファンタージエン』の主人公カール、のちに『はてしない物語』で古本屋の店主となっているカールは、このとき27歳。
うだつの上がらない青年です。

大人でもファンタジーの主人公になれるのは、主人公が知らない世界に飛び込んでいくことができて、そこで成長する余地があるからです。
知らない世界に飛び込まない理性と常識のある大人は、ファンタジーの主人公にはれません。

さて、作品自体の話をすると、わたしたとても楽しんで読みました。
おそらく『はてしない物語』の愛読者はもっと細かい描写や設定を楽しめたことでしょう。

これを皮切りにほかの作品を読んでみよう、とはならなかったのですが(そもそも『はてしない』愛がそれほどないので)、久しぶりに浴びる良質な異世界の空気は、とても気持ちのいいものでした。

こういう最高な異世界の空気を浴びたいのですが、どの世界に行けばいいですかね?

放っておいても好きなものを紹介しますが、サポートしていただけるともっと喜んで好きなものを推させていただきます。 ぜひわたしのことも推してください!