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「あたしは追われていた。」

この書き出しで「あ!」と思ったひと、気が合いますね。お友達になりましょう。

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神坂一『スレイヤーズ』(角川書店、2008年)
わたしが現在持っているのはこちらの「全15巻で1枚の絵になっちゃうよ」版の表紙ですが、当然のように懐かしの刊行当時(初版は1990年)の表紙も、その後1巻だけリニューアルされたレアな表紙のも持っていました。
それをさ、十代後半特有の「わたしもそろそろ、こういうの卒業かな……」みたいなあれで一旦手放したんですよ。
普通に卒業できませんでしたけどね。
あ、卒業できないんだ。
という事実を呑み込むことで、ひとはまた一歩大人の階段を上がるのです。

「人生を狂わせる本との出会い」は本当に唐突にやってくるもので、スレイヤーズとの出会いはアニメからでした。小学生のころ、たまたまつけていた夕方のゴールデンタイムのテレビで、
「暴れるモンスターあれば、とことんぶちのめし!」
とOPのイントロが流れてきたのが出会いでした。
衝撃的でした。
しかも運のいいことに、第1話でした。本当に強運の持ち主だね、わたし。
(別の運のいい出会いは『高慢と偏見』です。)

現在では「ライトノベルの元祖」と言われたりするこの「スレイヤーズ」シリーズ、わたしが読みはじめた当時は「ラノベ」という概念もなくて、「ファンタジア文庫系」という括りでした。
アニメから入って原作小説の存在を知ったわたしは、当時本編が9巻くらい、短編が12巻くらい出ていたのを、次々と読んでいったのでした。
2022年現在、一旦15巻で完結した本編が再開して17巻まで出ていて、短編は30巻+5巻です。
全シリーズとおして「この巻が好き」とかはあるんですが、今日は1巻についてのみ語ります。


美少女天才魔道士(自称)リナ=インバースがひょんなことから手に入れたお宝は、実は伝説の魔力増幅アイテムだった!窮地でもなんでもなかったリナを助けてくれた凄腕の剣士と共に、お宝を狙う謎の集団から逃げたり、捕まったり、敵の幹部が裏切ったり。
そして敵のボスがお宝を手に入れたとき、そこに魔王が出現した……

王道要素てんこ盛り、ようこそ剣と魔法の世界へ!
という、最強のエンタメ小説です。
1巻で魔王を倒しちゃってどうしようかな、とは作者談ですが、1巻で魔王倒しちゃったせいで、このあと15巻まで(そして第3部でも)、魔族との因縁が発生してしまうというシリーズの導入としてもうまい設定です。

今でこそ「主人公が最初からLv.99」という作品は珍しくもなんともないですが、たぶんこれを読んだ当時の、小学生のわたしには衝撃的だっただろうな…… と改めて思います。
一応わたしは純粋な読書少女でしたし、岩波少年文庫と青い鳥文庫で育ってきたんですよ。
児童文学の基本は、「力のない子どもが、知恵と勇気と好奇心で難局を乗り切る」冒険ものか、「純真無垢な主人公の存在が、まわりの大人たちを照らす」日常ものか、「間抜けな主人公が何かおかしなことをしでかして、またやっちゃった、となる」ほのぼの系か、と相場が決まっているのです。
スレイヤーズを読んだころだと、「赤毛のアン」とか「ミス・ビアンカ」シリーズを読んでいたはずです。愛読書は「クマのプーさん」と「クレヨン王国」と「やかまし村」ですよ。
マンガやアニメにしたって、あの頃の「魔法少女もの」といえばセーラームーンとか姫ちゃんのリボンとかで、「フツーの女の子が変身して戦う」とか「日常のあれこれを魔法で乗り切る」とかいった設定でしたもの。

それがさ、「悪人に人権はない!」と言いきって盗賊団をまとめて吹っ飛ばしてお宝をせしめる美少女が主人公とか、たぶんあの頃のわたしには刺激が強すぎたんだよなぁ……

そんな衝撃的な出会いを果たしたスレイヤーズですが、多くの人が指摘しているとおり、アニメ版のリナに比べて小説版のリナは理性的というか、絵的な「わかりやすい大暴れ」が不要である分、けっこう淡々と状況把握をして戦局を見極めるタイプです。
1巻はまだキャラ立ちに偏っていて傍若無人な側面が際立ってはいますし、第2部(9巻以降)に比べると戦闘も力こそパワーみたいな感じではあります。
が、リナの落ち着きというか、冷静な状況把握と覚悟を決めるときの思い切りの良さは、1巻から見えるんですよね。
相打ちの美学に浸る男どもに、「戦うときは勝つつもりで戦う」と啖呵を切るかっこよさはたまりません。それが13巻に繋がるのもさ、ほんといいよね。

というか、この1巻の内容をのちのちまるっと回収しきる神坂先生すごすぎない?
だってこれファンタジア文庫の新人賞か何かの応募作品よ?シリーズ化するかどころの話じゃないのに。それが入賞して、シリーズ化して、商業的にも大成功して、それであの15巻のラストにきっちり繋げてっくるっていう…… 作家としての力量がすごすぎる。
神坂先生、どうか長生きして第3部書き切ってくださいね。


それはさておき、たまにスレイヤーズは懐かしくなって読み返すんですが、1〜3巻はどうにも小っ恥ずかしくて、薄目でささーっと読んでしまうんですよね。まだキャラがそれほどこなれていないというか、昭和の風が吹きまくっているというか。
好きなんですけど、でも痒くなるというか。
そういうところも含めてスレイヤーズですよね、わかります。

冊数は多いですけど、サクサク読めるし電子書籍で割とよくセールしてるし、まだ読んだことない人にはぜひとも読んでほしい作品です。
元気になれますよ。


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