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「「あなた ー ひょっとして魔道士ではありませんか?」」

電子書籍を解禁したおかげで、やーーーっとこれに手をつけることができました。
よかったよかった。

世の中には「厨二病」なる病がありますが、その言葉が存在する前からその症例はあちこちでみられており、そして「脱・厨二」を志すのもまた、厨二病の亜種であると考えられています。
「自分はもう厨二じゃない。」と思い込もうとし、そのために行動を起こすこと自体が「厨二的」症状であって、数年経って気がつくのです。

厨二とは、脱却することも、卒業することもできない病だということに。

そして、それを受け入れた者は徐々に厨二ではなく、その人自身になっていきます。

なんてね。
まあこれも、若気の至りで「もうこれは卒業!読まない!」と古本屋に投げ売りした結果、再度集め直すハメになったものの思いであります。
一度はまったものはね、卒業することはないんだよ。
熱が冷めたかに見えても、なくなったのではなく熾になっただけであって、きっかけさえあればいつでも再燃する。
それが現代語で言うところの、沼であります。

前置きが長くなりました。
今回の本はこちら。

神坂一著『スレイヤーズすぺしゃる1 白魔術都市の王子』(富士見書房、1991)

これは「スレイヤーズ」シリーズの短編集で、本編以前の時間軸、つまりリナがガウリイに会うまでの軸で描かれています。
シリーズは30巻にも及んだので、ドラえもん現象というかコナン現象というか、とにかく何度季節が巡ろうと、リナの年齢は(おそらく)ほとんど変わっていません。
たぶん1年か2年くらいじゃないかな。
そうじゃないと、流石に旅に出て名を上げるまでが若すぎる。

さて、スレイヤーズといえば、キレッキレの文章と適切なボケとツッコミ、そして短編ではとにかくコミカルさが重視されています。
「リナの諸国漫遊記」の形を取っていますが、実のところ「リナによる諸国変人観察記」でもあります。
主にリナがツッコミ。
毎回のゲストキャラがボケというか、とにかく常識はずれ。

はじめのうちはともかく、これだけの奇人変人を思いつける神坂先生、改めてすごい。

表題作となっている「白魔術都市<セイルーン>の王子」は、リナがたまたまお忍びの旅に出ている王子の護衛をする、というもの。
諸国に絶大な影響力をもつ、聖王国セイルーン。
この世界の神であるスィーフィード信仰が盛んで、白魔術の研究に力を尽くし、諸国の平定の平和を重視する国の、王子。
国王からも国民からも、絶大な信頼と期待を受ける第一王位継承者が、なにやら暗殺者に狙われているらしい、ということで、たまたま旅の途中のリナに、お付きのものからお声がかかります。

上記のような描写を見て、そしてこれが「剣と魔法の異世界ファンタジー」という大前提のもと、多くの人はこの「王子」がどんな人だと想像するでしょうか。

はい、想像タイム。







リナも乙女チックに、ハンサムな王子に出会ってハートをゲット、そして玉の輿!
という金目当ての実に女の子らしい妄想を逞しくしていますが。

現実はこちら。

髭面にがっしりした体格、ごついバスター・ソードを背負った四十がらみのおっさんである。もう少し背が低ければ大柄なドワーフと言っても違和感はないだろうし、このままならどこぞの野盗の親分で十分通用する。
……
野盗だ、こいつら絶対に野盗だ。

こういうところだよ、神坂先生。
「王子様」という言葉のイメージと現実のあまりの違いに、リナはショックを受けるだけで済んでいるあたり、まだ世慣れしているほうで。
本編4巻で「王子様」の妄想を逞しくしたシルフィールは現実にショックを受けて失神し、数日間寝込む。
リナも周囲の人間も、「王子」とは呼ばず「第一王位継承者」と呼ぶあたり、一般に見てこのセイルーンの王子ことフィリオネル殿下が「王子」離れしているのは、この世界でも事実なのよな。

そしてさらにあれなのがこのフィルさん、「平和主義者」を標榜し、確かに「まずは相互の理解と話し合い」「できるだけ穏当で波風の立たない手段で」の問題解決に臨むしその意志も実力もあるのですが。
「相互理解のための会話をしない」輩をひとまず大人しくさせるためには、「平和主義者クラッシュ」やら「人畜無害キック」などの物理的手段(物理攻撃がほぼ効かないはずの下級デーモンを粉砕する程度の攻撃)に訴えるので、まったく平和主義者じゃない。
いや、本人は「真摯な話し合い」「肉体のぶつかり合いでしか分かり合えないことがある」と思っているので、実に平和的なのですが。

こういうツッコミどころ満載なのがあまりにもスレイヤーズなので、大好きだよスレイヤーズ。
そして、事件自体は、「実はお付きかと思っていた人が第三王子で、兄の暗殺を企てていた」「その罪をリナに引っかけようとしていた」「目標は世界征服」というお粗末かつ実に血生臭い、本編ではどシリアスに扱われたお家騒動でした。
それがあんなにあっさりと、コミカルに書かれてしまうなんてなんて怖いんだスレイヤーズ。

ほかに収録の短編では、今後「自称、リナ=インバースの最大最後のライバル」こと実質金魚のうんちとなる白蛇(サーペント)のナーガとかいう、悪の女魔道士ルックの実力はあるけど脳みそがないキャラができたり、ほかにもちらりちらりと本編にうっっっすら関連のあるキャラが出てきたりと、短編集ながら目が離せないのも、スレイヤーズのお遊びならではです。

それにしても、短編集の「すぺしゃる」だけで30冊。
そのあとの「すまっしゅ」が5冊と、短編集長いんですよね。
そのうち本編関連キャラが出る割合は、(ナーガは1と換算して)、まとめて5冊分…… くらいかな?

本編4巻も、この短編1巻を読んでいるからおもしろい、というところもありますし、できれば本編も短編も、混ぜて出版順に読むのをお勧めします。
大変なことになるけど。

それにしても、世の中見た目どおり、印象通りといかないことが多いですね。
冒頭の声かけ、服装から判断してるけど、これでリナが魚屋かウェイトレスだったらどうするつもりだったんだろう。


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