『JAM』THE YELLOW MONKEY

外国で飛行機が墜ちました ニュースキャスターは嬉しそうに
「乗客に日本人はいませんでした」
「いませんでした」「いませんでした」

楽曲がリリースされた1996年と2018年を生きる私との間に、時代の壁というものは必ず存在する。
しかし、その壁すら感じさせない曲と歌詞*1が私に与えたものは、なんと言い表せばいいのだろうか…

イエモンのJAMと言えば上記の歌詞が有名であろう
かくいう私も上の歌詞がきっかけ*2でこの曲を知った口である。
だが、聞けば聞くほどこの曲が私の心を離さなくなる。

私はその魅力が
「(無力な)僕と(不条理な)世界」「2人の愛と世界への不安」
といった小と大の対比にあるのではないか?と感じた。

まずイントロの壮大さ。
(おそらく)チャーチオルガン*3で奏でられるイントロは神秘的な讃美歌を彷彿とさせ、聞き手の心を和らげる。筆者は教会や神殿でお話を聞く経験はないのだが、恐らくその時の感情と同じ気持ちである。さもすればこの曲はとても高尚な内容を説く曲なのではないだろうか?世界平和、戦争撲滅、貧困救済、慈愛の心、隣人愛…このようなことを世界に訴えかける曲なのだろうか?
イントロは私の空想を大いに拡げ、
ほどなくして聞こえる最初の言葉、それが


暗い部屋で一人 テレビはつけたまま
僕は震えている 何か始めようと

暗い部屋で一人。先まで世界平和とか貧困救済とか、考えていたのに
暗い部屋で一人。しかもテレビはつけたまま
そこには厳格な神父はおらず、居るのは、なんなら震えている

このギャップ、対比に私の心が奪われたことは、もはや言うまでもないだろう。

JAMは20年の時を経て、30秒足らずで私の心をつかんだのである。

早くJAMが何を表してるのか知りたい。
僕が何を始めようとしているのか知りたい。
逸る気持ちとは裏腹に、新たな登場人物が現れる。

君は眠りの中 何の夢を見てる?

の登場である。聞き進めるとだんだんわかってくる。
この曲は僕が君を想う曲なのだ。

冷たい風が吹こうが、矛盾の雨が降ろうが、
この世界に真っ赤なジャムを塗って 食べようとする奴がいても
君と逢える明日を待つ歌なのだ。

愛する君*4に逢える明日を楽しみに待つ。そういった経験*5が私にもあった。

そして終盤、あの歌詞が流れる

外国で飛行機が墜ちました ニュースキャスターは嬉しそうに
「乗客に日本人はいませんでした」
「いませんでした」「いませんでした」

ここまで聞くと、この歌詞が
単なる世間への鋭い批判ではないことがわかる。
そしてこのように続く。

僕は何を思えばいいんだろう 僕は何て言えばいいんだろう
こんな夜は逢いたくて 逢いたくて 逢いたくて

歌詞の僕=私(筆者)になった瞬間である。必要なのは言葉じゃないのだ。
テレビをつければ、やれ不倫だ、やれパワハラだ、やれ不祥事だ、
コメンテーターが弁舌を持って世直しをしようとしている。
スマホをみれば、電車内での非行を五万の人が非難し、子育てについての夫の言動を五万の人が批判している。
暴力ではなく言葉で意見する時代*6は確かに進歩だとは思うが、
言葉の暴力、顔も知らない大衆による個人攻撃という悲劇を生んでいる。

このような世の中で僕は何をしたいのか?世間に一石を投じたいのか?

否、君に逢いたくて 君に逢いたくて また明日を待ってるのである。

衝撃的だった。待っていていいのだと感じた。
一歩を踏み出す楽曲よりも何倍も共感できるのは私だけなのだろうか。

イントロや一部の歌詞を聞いて思ったイメージと、
最終的に共感に至るプロセスのギャップが、言葉では表せない気持ちとなって私の心に生まれた。
今回JAMのレビューを行うことで、簡単に言語化できない魅力を少しだけだがひも解くことができた気がする。しかしまだまだ考察が足りないな。いつか文章表現を続けた暁には、またJAMのレビューに挑戦したい。

2018/9/16

JAM
作詞・作曲:吉井和哉
歌:THE YELLOW MONKEY

1996年2月29日に発売されたTHE YELLOW MONKEY 9枚目のシングル。発売元は日本コロムビア・トライアドレーベル。
[wikipediaより]

*脚注

*1 歌詞:本来ならレビューする楽曲の歌詞を全文引用したいところだが、著作権などの兼ね合いで控えることとする。是非CDをご購入の上確認して頂きたい。

*2 きっかけ:筆者がこの曲と出会ったきっかけは、とあるラジオの替え歌のコーナーから。くだらないコーナーだったが、重要なのはどこで出会ったかでは無いのである。

*3 チャーチオルガン:またの名をクラシックオルガン。教会で讃美歌等を歌うときに使用される。電子ピアノでも音色の種類の一つとしてポピュラーな楽器。

*4 君:作詞の吉井和哉は君=娘と考え作詞していたとのこと。本レビューでは君=娘ではなく、君=「僕」の愛する人物と捉え評価している。

*5 そういった経験:2016年5月31日まで続いていた筆者の恋愛経験のこと。

*6 時代:「残念だけど、この国にはまだこの歌が必要だ」「今晩JAM歌います 2016年ありがとうございました デビュー25周年にむけて THE YELLOW MONKEY」のメッセージを2016年12月31日朝日新聞に掲載。

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