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「カラオケの歌い方」は下手なのか?

刺激的なタイトルを付けてみました。じっくり議論していきたいと思います。
これを語るにあたっては

自己紹介

がマストなので少々お付き合いください。



まず私は「ボーカリスト」です。軽音サークルで歌ったり、オリジナル曲の歌をセルフレコーディングしたりしています。
それと同時に「カラオケスコアラー」でもあります。DAM, JOY両方で100点を出しており、某カラオケ大会での優勝経験があります。

ボーカリストとしてもカラオケスコアラーとしても、私が足元にも及ばない程上手い人は沢山います。
とはいえ、及ばない足元でも二足の草鞋を履いていて、左右のバランスを丁寧に整えている歌うたいとなった瞬間に数は激減します。
生歌とカラオケ採点の歌い方の切り替えは一般的に想像されるよりも100倍難しいです。

そんな立場の私だからこそ痛感する事を以って、万全にこの議論が出来るのではないかと思う訳です。
興味深いと感じた方はぜひ最後までお付き合いください。具体的に掘り下げていくので少々長くなります。

以下、「歌の上手さ」=「聴いている人がどれだけ直感的に歌が上手いと感じるか」という定義のもと話を進めていきます。


私(カラオケスコアラー)

議論のしやすさのため、まずはカラオケスコアラーの立場から書きます。
実はカラオケ採点でも機種によって100点を出す方法は全く異なっていて、
私はJOYSOUND(全機種共通)、DAM(DX-G)、DAM(Ai)の3種類の歌い方を持っています。

JOYSOUND
DAM DX-G.サムネイルのがDAM AIです

一般的なイメージとしてカラオケさで100点を取る歌い方というのは
「音程がほぼ完璧なうえで、赤(しゃくり)とか青(こぶし)とか緑(ビブラート)で音程バーがカラフルになっている」
こんなイメージでしょうか。

音程はもちろんですが、私が点数を取りに行く時には赤青緑をどこで入れるかも綿密に調整します。
つまり

自分で自分をプログラミングし、歌に自我がない状態


になります。
(採点項目としての"表現力"を上げるために自我を捨てるというのは皮肉ですが、、)
その結果カラオケらしい歌い方となり100点が出る訳です。

ここで言いたいのは、その自分自身のプログラミングは基礎練としての役割を果たせるという事。
曲を聴きこんで分析し、まずは音程を合わせる。その後しゃくりやこぶし、ビブラートを入れる箇所を定め、繰り返し歌って狙い通りに入れられるようになる。
このプロセスはめちゃくちゃ基礎練です。真面目なバンドマンも同じような練習をしているでしょう。

その意味では、カラオケ採点で「歌の上手さ」を向上"できる"側面はあります。

ただ難しい事に、

同じ100点であっても「歌の上手さ」はバラバラ?

という仮説を持っています。

本当に上手い、かつ歌い方がカラオケ採点と相性が良い人は自然なまま歌っても95-98点位が取れて、残った数点だけを機械に寄せて調整します。
逆に、100点だけど……… という歌も正直あって、それはごく一般的な点数からカラオケ採点のテクニックだけで100点まで積み上げている、と想像してもらえると良いかと思います。
機種の攻略さえ出来れば「歌の上手さ」は必須ではありません。

なのでまとめると、
カラオケ採点で「歌の上手さ」は向上できるが、そのためにはそれを意識した練習をすべき
となります。

その逆、「歌の上手さ」だけで100点が取れるか、というのも否です。
「歌の上手さ」を前面に出した歌い方をするなら、100点が取れる人であっても95点らへんに落ち着くと思います。少なくとも満点は出ません。
(それで満点が出るなら、カラオケ採点に寄せる必要も、このブログの存在意義もありません)

さらに、「歌が上手い」人であっても歌唱スタイルによって点が出る出ないは分かれてきます。
僕が出演しているカラオケ大会のチームには満場一致で一番「歌が上手い」メンバーがいるのですが、採点には苦労しています。
(生歌なら余裕の勝負ができるので、もはや高得点を目指さずそのままの歌い方でいて欲しい)

こちらもまとめると、
どれだけ「歌が上手」くても、100点を取るためには大なり小なり歌い方を変える必要がある
となります。


さて、このあたりでボーカリストの私に変身しましょう。

私(ボーカリスト)

カラオケでいう"表現力"がしゃくりやこぶしなのに対し、ボーカリストとしての表現力はもっと複合的なものです。
声質からグルーヴ、息遣い、敢えて少し外すピッチ、さらには母音・子音の発音やステージングパフォーマンス、メンタルコントロールまで… ボーカリストが捉えるべき歌の範疇は純粋な音楽だけに留まりません。

1つカラオケとの対比で興味深い学術用語を紹介します。

芸術的逸脱

です。

芸術的逸脱は、楽譜そのままに音を再現した状態からの差異、逸脱にこそ美しさ、芸術を感じ取るという事を指します。
詳しく知りたい方のために私が学んだ書籍『音楽心理学入門』を紹介しておきます。少々古いですが、音楽活動の上でも有益な知識をかなり広く学べる良書ですよ。

芸術的逸脱で考えるとカラオケの100点がいかに特殊であるかもお分かりでしょう。
つまり、加点していって100点にするという考えに囚われがちな中で
カラオケ機械製作陣が思う"当たり障りのない"100点満点から、芸術的逸脱によって減点をしていくほどに個性溢れる歌い方になる
という発想を推奨したい。

ただこの発想は、点数が出ない人の「歌の上手さ」を保証するものではありません。
自分は歌が上手いと思っている人が、どの曲をどんな歌い方で歌っても90点に乗らないばかりか、「カラオケ採点めんどいんだよな」なんて言い訳をしてたとしたら…?
100点を取れるようになれとは全く言いませんが、「歌が上手い」人がカラオケ採点に歌い方を寄せれば、少なくとも90点は超えます。

そして、最も知りたいというニーズがあるだろう議題
カラオケで100点を目指したら個性は失われるのか?
について、私自身の見解はこうです:

努力/理性派の人は失われないが、天性/感覚派の人は失われる可能性もある

もうお分かりの通り、100点を取るというのは機械に合わせた楽譜通り、芸術的逸脱なしで歌うようなもの。
「歌の上手さ」を追求するのに、曲を分析して意識的に上達させる人はカラオケでも同じ事をやれば良いだけですが、
逆に「本家を自分の中に下ろす」「無意識的に本家に寄せている」というような天才肌的感性を持った歌手なら、カラオケ100点という肩書きなんて放棄して、それ以上に記憶に残る歌を歌って欲しいですね…(私は完全に努力/理性の人間なので)


さて、今度はバンドとレコーディングのお話をしましょう。

まずバンドですが、そもそも

同じ曲を歌うにしてもカラオケよりバンドの方が1万倍難しい

です。

・自分の声が伴奏に埋もれて聞こえずピッチが取れない
・爆音の中無意識に声量を上げてしまい喉が枯れやすい
・練習してスタジオに入っても曲の進行が分からなくなる
等々…
とにかく、体験してみないと分からない難しさというのが数多くあります。
根本的に歌唱力を上げたいと思っている人は一度だけでも経験してみて欲しいところです。

レコーディングだともっと面白くて、Melodyne(ピッチ補正ソフト)を使えば

レコーディングでは音程なんていくら外れても良い

のです。
当然合っているに超した事はありませんが、ピッチやリズムの編集は実はめちゃくちゃ簡単です。

私の場合セルフレコーディングでは何テイクも録りますが、その中から採用するのは良い音色や空気感、雰囲気で録れているもの。
レコーディング時はピッチやリズムを後で編集できる事も踏まえ、それらを犠牲にしてでも魅力的に感じる歌い方をする事に注力します。
(注:これはセルフで編集やMIXまで行うからこそ出来る事かもしれません。例えばボーカリストがレコーディングエンジニアを雇って、「後で今のテイクのピッチ直しといてw」なんて言っても良いのかは経験がなく分かりません)

バンドにしてもレコーディングにしても、ボーカリストとしての歌がカラオケよりも複合的である事は理解頂けたかと思います。
ではそろそろまとめに入りましょう。


まとめ

①カラオケ採点とボーカルはかなり別モノだが両立は可能
②バンドやレコーディングの方が「歌の上手さ」は複合的
③カラオケの100点は必ずしも「歌の上手さ」の証明ではない
④点数と「歌の上手さ」を共存できる人もできない人もいる

まとまりきってはいませんが、歌は一人一人大きく差があって当然なものなのでカテゴリー分けするにも限界があると思っています。

この記事があなただけの歌を歌っていく一助となる事を祈って締めくくりといたします。
私の方でお手伝いできそうな事があればぜひ下記もご覧ください。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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