見出し画像

ルーシーインザスカイウィズダイヤモンズ 第五話

チョイスは今日も配信をした。明日も配信をするだろう。
誰のために? 何のために?
生活のためだろうか。収益は2ヶ月もゼロのままだ。
たまにコメントをしにくる視聴者のためだろうか。
二言ぐらいしゃべって去っていく、通行人みたいな奴らのために?

2日後、チョイスは配信をしなかった。
配信をしない理由はなかった。用事もなかった。
その逆もしかりで、配信する理由もなくなってしまっていた。
日がな一日、だらだらと動画サイトを眺め続け、ルーシーの帰りを待った。
なぜ、彼女を待つのだろうとチョイスは思った。
配信をしない自分を叱ってほしいのだろうか、優しく抱きしめてもらいたいのだろうか。
おそらく両方であるだろうが、彼は自分自身のその欲求に気づいていなかった。
夕方に訪れた宅配便業者の呼び鈴を、チョイスは無視した。

「この間勧めてくれた人、おもしろかったよ」
「あ、見てくれました?」
ルーシーはぼうっと人気のない通路を眺めていると、
赤髪の男に話しかけられた。
チョイスがおもしろいと言われたことに嬉しさよりも誇らしさが込み上げた。
「ああいうのがタイプなの?」
タイプという言葉はルーシーの心の表面を上滑りしていった。
チョイスは私の好みなのだろうか、と思考してみる。
私はなぜ彼が好きなのだろうか。
なぜ、なんて考えたことがなかった。
「まあ好みじゃなくてもなんか気になっちゃう人いるよね」
男はそれだけ告げると、客がカウンターの前でこちらを見ているのに気づいて走り去っていった。

ルーシーが帰ると、部屋は真っ暗だった。
チョイスはコンビニにでも行ってるのだろうかと思った。
2時間が経って、22時を過ぎた頃にチョイスは帰ってきた。
「どこ行ってたの?」
「・・・・・・ああ、ちょっと、配信のネタがないかなってブラブラしてた」
「そっか」
「今からさ、焼肉行かない? おごるよ」
「え?」
彼女は食事の用意をすべて済ませ、彼の帰りを待っていたので少し苛立ったが、
久しぶりの外食、しかも彼からの誘いにルーシーの胸は高鳴った。

「今日ね、この間チョイスを紹介した人が配信おもしろいって言ってたよ」
「そうかぁ」
「今日はなんの配信したの?」
「うーん、今日は調子悪いから休んじゃった」
「調子悪いの? 大丈夫?」
「いや、体調はいいんだけど、なんかこう、ノらなくて」
「そっかぁ」
「なんかさ、なんか、こう、企画をやりたいんだよね」
「どんな?」
「わかんないけど、ドカーンって、ここらで一発、毎回同じようなのじゃ飽きるしさ」
「いいね、一緒に考えよう」
ルーシーは彼にたくさんの提案をした。
時々チョイスは微笑んだが、彼の返答の多くはああとかううとか、タバコの煙を吐くついでに出てくるものでしかなかった。

ルーシーは帰り際、彼の財布の中を覗いた。
あんなにたくさんの万札をどこで手に入れたのだろうと考えたが、
深入りはしないよう、思考を封印した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?