マガジンのカバー画像

上出長右衛門窯の道行

現在進行中の新作開発の紆余曲折するストーリーを、テキスト、写真でお伝えしています。旅は道連れ世は情け。これまで秘密にしていた新作とそのアイディア、プロセスを上出長右衛門窯六代目・… もっと読む
月に2〜3本くらいが更新目標(絶対に1本は書きます)。現在公開している全てのマガジンがここで読めま… もっと詳しく
¥500 / 月 初月無料
運営しているクリエイター

#上出長右衛門窯の道行

【あるお皿】の道行#3「寝かせましょう」

こんにちは。上出惠悟です。 夕方から降り始めた小雨の中で4月が終わろうとしています。あと2日も経てばいよいよ窯まつり開幕です。何せコロナ禍を挟んで5年ぶりのフリー入場制となる今年ですので、一体どれだけの人が窯まつりに足を運んでくださるのか非常に緊張しています。「誰も来なかったらどうしよう」、脳裏を過ぎるこの不安も久しぶりです(予約制だと事前に人数が見えますから)。とは言えしかし、有り難いことに今までそれは杞憂に終わって来ました。この5年以内に上出長右衛門窯と出会った方は、窯

【あるお皿】の道行#1「食べること」

こんにちは。上出惠悟です。 いよいよ上出長右衛門窯の新しい製品の開発が始まります。このnoteではその開発プロセスを巡るストーリーを旅に喩え「道行(みちゆき)」と題して皆様にお届けしているものです。一人の作家ではなく、九谷焼の窯元である私達がどのようにして製品づくりをしているのか、これを読んで頂ければその閃きや苦心、伝統や工夫などが深く理解できるのではないかと思います。これまでずっと購読して下さっている皆様、そして最近購読して下さった(もしくはこれから読んでみようかという)

【窯まつり・絵付】の道行#13「試される意志」

こんにちは。上出惠悟です。 大変辛い一年の幕開けとなってしまった2024年、今年はどんな一年になるのでしょうか。いつも翌年の干支のデザインを考える際には、良い年になるようにと祈りをこめて描くのですが、そんなことは本当にちっぽけなことなのだと思い知らされます。と書くとお前にどんな力があると思っているのかと突っ込まれそうですが、祈ることは決して意味のないことではないと思っています。 干支の製品に限らず、それを作っている職人たちの仕事にも作り手ならではの思いがこもっています。今

【窯まつり・絵付】の道行#12「新しい未知」

さてさて、こんにちは。上出惠悟です。 年の瀬に東京へ向かう新幹線の中で書いています。ようやく【窯まつり・絵付】の道行も終着地点です。思うように執筆に時間が割けず、連載が長期に亘ってしまいました。本来は窯まつりのある5月頃には終わらせる予定だったのですが、どうやら年を跨いでしまいそうです、、。 これまでの内容について、もうお忘れになっている部分もあるかと思いますので、先ずはこれまでのトピックを以下に簡単に纏めました。 絵について 上出長右衛門窯の問題点 窯まつり限定品の

【干支水滴 辰】の道行#3「前例を参照せよ」

こんにちは。上出惠悟です。 1年以上続いていた原因不明の咳がどういう訳か治ったので、ずっとやりたいと思っていた朗読会をこのクリスマスに開催することにしました。年末でお忙しいことと思いますが、宜しければいらしてくださいね。皆様にお会いできますのを楽しみにしております。 さて、まさかの全3話となってしまった「干支水滴 辰」完結編です。ではどうぞ。

【干支水滴 辰】の道行#2「バイオリンの先端部分」

こんにちは。上出惠悟です。 犬を散歩させながらTシャツで運動場を駆ける子供達を見ていたのは昨日のこと。もう12月になるというのに暖かく、来年の干支に纏わる商品をご紹介しておきながらも暦とのギャップに驚いている2023年11月末日です。皆様は如何お過ごしでしょうか。 現在来年の干支である辰年の水滴の道行(開発ストーリー)をお届けしています。もう既に販売しておりますので、是非お手にとって頂ければと嬉しく思います。

【六寸刻文皿】の道行#5「Time Lapse→」

こんにちは。上出惠悟です。 先日仲の良い友人がニューヨークへ旅立ちました。予備校で出会い、大学卒業まで多くの時間を共に過ごした友人です。卒業後は立場も環境も変わり、私たちは違う場所で社会の波にたくさん揉まれました。片時、お互いの姿が見えなくなっても、波が去って気がつけばまた傍にいて、ゆらゆらと揺られているような、彼とはそんな不思議な縁を感じます。40歳という年齢になっても、新しい世界に身を投じようとする彼を尊敬しますし、純粋に羨ましいと思っています。窯元を継いだ私にとって外

【六寸刻文皿】の道行#4「九谷と絵付/先人の道行②」

こんにちは。上出惠悟です。 「九谷焼は絵付を離れて存在せず」という言葉を生んだ先人たちの道行を、前回に続けてお届けします。皆様がきっと知らないであろう九谷焼と絵付についての歩み、今回は近現代編です。 基本的にお皿の絵付には、装飾という美的な価値の他に機能はありません。そしてこの装飾、美しさこそが九谷焼の真髄なのです。絵で埋め尽くされた古九谷がゴッホなどの西洋画に喩えられるのは、古九谷の余白を活かさない美があるのかも知れません(※古九谷の全てが絵で埋め尽くされている訳ではあ

【六寸刻文皿】の道行#3「九谷と絵付/先人の道行①」

こんにちは。上出惠悟です。 「九谷焼は絵付を離れて存在せず」という言葉がこの産地にはあります。なぜこのような言葉が生まれたのか、今回は少し立ち止まって考えてみたいと思います。九谷焼と絵付の歴史について書いているので、少し退屈に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、ちょっとだけ我慢してお付き合いいただけますと幸いです。 九谷焼の源流となるのは、今からおよそ360年前につくられた「古九谷」という色絵磁器です。古九谷は現在の石川県加賀市にある雪深い山間の村で、大聖寺藩の藩営と