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上出長右衛門窯の道行

現在進行中の新作開発の紆余曲折するストーリーを、テキスト、写真でお伝えしています。旅は道連れ世は情け。これまで秘密にしていた新作とそのアイディア、プロセスを上出長右衛門窯六代目・… もっと読む
月に2〜3本くらいが更新目標(絶対に1本は書きます)。現在公開している全てのマガジンがここで読めま… もっと詳しく
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記事一覧

【あるお皿】の道行#2「喉元過ぎれば」

こんにちは。上出惠悟です。 まだ発表していない上出長右衛門窯の新商品の開発プロセスをお届けしているnote「上出長右衛門窯の道行」。未発表品ですので、つまりリアルタイムに近い形でその道行の行方を綴っています(基本的には、、)。発表された商品の開発秘話は世の中に沢山あると思いますが、どう着地するか分からない商品の動向をお伝えすることは普通あまりないことかと思います。 ですので、このnoteを読めば上出長右衛門窯が今何を考え、何を作ろうとしているのかが真っ先に、そして具体的に

【あるお皿】の道行#1「食べること」

こんにちは。上出惠悟です。 いよいよ上出長右衛門窯の新しい製品の開発が始まります。このnoteではその開発プロセスを巡るストーリーを旅に喩え「道行(みちゆき)」と題して皆様にお届けしているものです。一人の作家ではなく、九谷焼の窯元である私達がどのようにして製品づくりをしているのか、これを読んで頂ければその閃きや苦心、伝統や工夫などが深く理解できるのではないかと思います。これまでずっと購読して下さっている皆様、そして最近購読して下さった(もしくはこれから読んでみようかという)

【窯まつり・絵付】の道行#13「試される意志」

こんにちは。上出惠悟です。 大変辛い一年の幕開けとなってしまった2024年、今年はどんな一年になるのでしょうか。いつも翌年の干支のデザインを考える際には、良い年になるようにと祈りをこめて描くのですが、そんなことは本当にちっぽけなことなのだと思い知らされます。と書くとお前にどんな力があると思っているのかと突っ込まれそうですが、祈ることは決して意味のないことではないと思っています。 干支の製品に限らず、それを作っている職人たちの仕事にも作り手ならではの思いがこもっています。今

【窯まつり・絵付】の道行#12「新しい未知」

さてさて、こんにちは。上出惠悟です。 年の瀬に東京へ向かう新幹線の中で書いています。ようやく【窯まつり・絵付】の道行も終着地点です。思うように執筆に時間が割けず、連載が長期に亘ってしまいました。本来は窯まつりのある5月頃には終わらせる予定だったのですが、どうやら年を跨いでしまいそうです、、。 これまでの内容について、もうお忘れになっている部分もあるかと思いますので、先ずはこれまでのトピックを以下に簡単に纏めました。 絵について 上出長右衛門窯の問題点 窯まつり限定品の

【干支水滴 辰】の道行#3「前例を参照せよ」

こんにちは。上出惠悟です。 1年以上続いていた原因不明の咳がどういう訳か治ったので、ずっとやりたいと思っていた朗読会をこのクリスマスに開催することにしました。年末でお忙しいことと思いますが、宜しければいらしてくださいね。皆様にお会いできますのを楽しみにしております。 さて、まさかの全3話となってしまった「干支水滴 辰」完結編です。ではどうぞ。

【干支水滴 辰】の道行#2「バイオリンの先端部分」

こんにちは。上出惠悟です。 犬を散歩させながらTシャツで運動場を駆ける子供達を見ていたのは昨日のこと。もう12月になるというのに暖かく、来年の干支に纏わる商品をご紹介しておきながらも暦とのギャップに驚いている2023年11月末日です。皆様は如何お過ごしでしょうか。 現在来年の干支である辰年の水滴の道行(開発ストーリー)をお届けしています。もう既に販売しておりますので、是非お手にとって頂ければと嬉しく思います。

【干支水滴 辰】の道行#1「真っ直ぐ進む道」

こんにちは。上出惠悟です。 【窯まつり・絵付】の道行の完結を未だお見せ出来ていませんが、この道行を始める際の問いであった「なぜ私たちは手で作るのか」という大きなテーマがまだ纏められていませんので、今回は発売目前の【干支水滴 辰】の道行をお届けしたいと思います。 寅年、卯年と2年続けて「干支水滴」の道行を書いて来ました。ですので、新しい年の水滴も楽しみにされていた方も多いのではないかと思うのですが、今回は書かないだろうと【窯まつり・絵付】の道行を綴りながら思っていました。何

【窯まつり・絵付】の道行#11「歴史とつながる」

こんにちは。上出惠悟です。 今年2月に始まった今回の道行もそろそろ終盤です。これまで絵付場で活躍する3人の女性を紹介して参りましたが如何でしたでしょうか。上出長右衛門窯で働いている私達がどんな人間で、どうしてここで働いているのか、少しでも身近に感じて頂けていたら嬉しいです。 ここで初めて読んでいる方に少しだけご説明すると、このnote「上出長右衛門窯の道行」は、私達がこれから発表しようとする新製品の製作過程を、あえて隠さずにリアルタイムで皆様に公開しようという試みです。紆

【窯まつり・絵付】の道行#10「もっと練習を」

こんにちは。上出惠悟です。 いよいよ第2回目の轆轤(ろくろ)まつりが始まります。今回からはコロナ前と同じフリー入場制になるので、是非多くの方にお越しいただきたいです。16回を数える窯まつりに比べればまだまだ手探り状態ですが、轆轤師を中心に職人たちは張り切って準備をしています。轆轤まつりはこれまで華やかな絵付の影に隠れている轆轤に光を当てようと企画されました。改めて考えてみれば、回転する台の上に乗せられた粘土が、人の手によってあらゆる形に変化する轆轤という技術は非常に面白いも

【窯まつり・絵付】の道行#9「奥出のサンプル」

こんにちは。上出惠悟です。 突然ですが、皆様は墨の匂いはお好きですか? 多くの大人にとって墨や硯はもうあまり触れることのないものかも知れませんが、私やその他の九谷焼作家にとっては、墨はかなり身近なものと言えると思います。墨は焼くときれいに燃えてなくなるので絵付の際に下描きに使いますし、木箱への箱書きや熨斗書きなどかなり頻繁に活躍します。 それに加え、私は最近になって水墨画を始めました。水墨画は言うまでもなく墨の濃淡だけで描く古典絵画で、日本では雪舟や等伯や狩野派が有名で

【窯まつり・絵付】の道行#8「犬も恐れる20代」

こんにちは。上出惠悟です。 現代の「働く」という感覚からは随分ズレているかもしれませんが、職人の仕事は生きることの延長線にあって欲しいと私は考えています。それを教えてくれたのは昨年亡くなった轆轤(ろくろ)師の河田の姿です。河田は何十年も長右衛門窯の敷地内で畑を耕して野菜を育てていました。轆轤仕事を終えれば暗くなるまで畑仕事をし、休日も窯に来てはよく土を触っていました。腕に技術を持っている職人という生き方は、全てがその人の営為の中にあるようで、それはとても理想的で誇り高く見え

【窯まつり・絵付】の道行#7「一手間+一手間」

こんにちは。上出惠悟です。 突然ですが、皆様はこれまで悲しみをどう堪えて乗り越えて来られたでしょうか。 ニュースを見ていると度々悲しい事故や事件が報道されます。特にこの季節は夏休み中の子供達が犠牲になることが多く、親御さんの想いを考えると居た堪れない気持ちになります。それでも私達は深く傷付いたその方の心に、自分の心を重ね合わせる事しか出来ません。私達の心はそして身体も、誰かと成り代わることは出来ない、それもまたこの世の無情だと最近感じています。 「デンデンムシノ カナシ

【窯まつり・絵付】の道行#6「基本と応用」

こんにちは。上出惠悟です。 私の住む石川県は日本で最も多く雷が発生する地域だそうです。雷の研究者にとっては非常に良い環境だというような事を以前に耳にしたことがあります。しかし雷を嫌う犬にとっては最悪な環境だと言えるかもしれません。私が飼っている二匹の小さな犬達も異常に雷を怖がっていつもぶるぶると震えて可哀想です。特に兄のかめちよは雷が鳴ると恐れおののき、我を失ったかのように高いところへ登りたがるので、四国のブリーダーさんから引き取って石川に連れて来たことを何だか気の毒に感じ

【窯まつり・絵付】の道行#5「普通ができない」

こんにちは。上出惠悟です。 実は窯まつり限定品としてこれまでお客様からの要望が最も多かったのは丼鉢でした。うどんやラーメン、天丼、親子丼などを食べるためのものです。窯まつりで売り場に立っていると「丼ってないの?」というお声を何度も聞きます。そんな声を頂いていたにも関わらず、これまで作って来なかったのは上出長右衛門窯が割烹食器を作ってきた窯元だからです。ご存知の通り、今では「割烹」という料理人に向けた食器だけに留まらず様々なご提案を積極的に行なっていますが、そのルーツは窯のア