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秋の終わりは美しかった

こんばんは。をりです。

少し早いですがおせちのおかずを少しずつ作り始めています。
と言っても、お重に詰められるくらいの品数を作るほどでもなく、好きなおかずを数種類用意する程度。

あとは買って済ませます。こぢんまりとしたお正月です。

今日は田作りを作りました。美味しそ〜!
上手に作れたので個人的には大満足しています。



さてさて、表題ですが。


私の住んでいる地域で映画『November』が公開されたので観に行ってきたんですよ。この映画、最初何を観て知ったんだっけ……。確か、11月に『ヴィーガンズ・ハム』を観に行った時予告で流れてきたんだったかな。モノクロ映像が美しく、ダークでゴスな世界観に魅了され、「これは観なければ!」という天啓を得たのがきっかけでしたね。

ちなみに『ヴィーガンズ・ハム』は、古今東西の「ひと癖あって面白いぜ!」というようなスリラー映画ばかりを集めた映画祭で上映された作品です。スリラー映画と聞くととりあえず観とかないとな、みたいな所がありますね。
世界はそれを性癖と呼ぶんだぜ。

この作品はざっくり言うと「ひょんなことから過激派ヴィーガンを殺してしまった肉屋の夫婦(離婚寸前)が、ヴィーガンのお肉=ヴィーガンズ・ハムでひと山当てたぜ!」というブラックで風刺がマシマシに効いたストーリーでした。思想が強い! 
「制作国がフランス・人肉が出てくる・ブラックコメディ」という事で、本編は『デリカテッセン』みたいな雰囲気を予想していましたが、思いの外ブラックユーモア色が強かったです。気になった方は是非。


話が大幅にずれてしまった。まあオタクの語りなんてのは脱線してからが本番みたいな所があるし、『電車でD』も複線ドリフトとか意味わかんないことをやっていたので良しとします。オタクの話は路線を跨ってナンボですよ。


……で!『November』!ですが!


ま〜〜〜〜〜〜〜〜〜美しかった。美しかったです。何がって、画面作りが圧倒的に美しかった。

一応、あらすじを載せておきます。

月の雫の霜が降り始める雪待月の11月、「死者の日」を迎えるエストニアの寒村。戻ってきた死者は家族を訪ね、一緒に食事をしサウナに入る。
精霊、人狼、疫病神が徘徊する中、貧しい村人たちは「使い魔クラット」を使役させ隣人から物を盗みながら、極寒の暗い冬をどう乗り切るか思い思いの行動をとる。
農夫の娘リーナは村の青年ハンスに想いを寄せている。ハンスは領主のドイツ人男爵の娘に恋い焦がれる余り、森の中の十字路で悪魔と契約を結ぶ──。
Filmarksの作品概要より


ダークな世界観・土着信仰・おとぎ話・ゴシック・ラブストーリー。作品の雰囲気をざっとまとめるとこんな感じでしょうか。


先に申し上げますが、この記事、割と長いです。
書いている人の「この映画のここがすごかった!」を延々と述べる早口オタク長文記事となっています。お気をつけ下さい。
あと最後ちょっとネタバレがあります。重ねてお気をつけ下さい。


さて、この美しくも悲しいお話はまず雪深い森のシーンから始まります。この時点で私はもう「これは確実に”刺さる”映画だ……」と、この映画が自分の好みに合う事を確信していました。

雪深い森のシーンから始まる映画はいい映画になる運命しかないんだ。なぜなら『ミッドサマー』も『楢山節考』もそうだったから。どちらも私のとても好きな映画です。土着信仰モノ・フォークロア・ホラーはいいぞ。『ウィッカーマン』とか。


そして、この映画も両作品のエッセンスが散りばめられているかのように、実にさまざまな所でエストニアの土着信仰というのが見え隠れしているんですね。

そもそも「死者の日」って何?という話なんですけど、購入したパンフレットに概要が載っていたので引用します。

10月31日のハロウィン(Hallloween)から連続して、11月1日のAll Souls’Dayは今まで亡くなった先祖を思い出し追憶する日である。「万霊節」訳される。日本でこれに該当する日は「お盆」である。
『November』パンフレットより


お盆。
急に聞き馴染んだ単語が出てきました。不気味で怖い印象の映画が一気に身近に感じたんじゃないでしょうか。

ところでこの映画、「なんか日本に似てるな〜」と感じる部分が多々ありまして。

まず、エストニアは日本と同じ「アニミズム」の精神が人々の信仰の基盤にあるんですね。
日本もアニミズムの国で有名ですよね。八百万の神。そして、雪深い寒村。日本はエストニアと違って島国ですが、国土の大部分は森林です。エストニアも同様、国の大半が森で覆われた国です。だから、雪の質感とか、かろうじて崩壊していない程度の廃屋みたいな家とか、陰湿で閉鎖的な人間関係とか、日本の田舎にすっっっっっっごい似てる。そう思いました。

あと、この物語の人達は森の中の十字路で悪魔を召喚するんですが、日本にも「四辻」という概念がありますよね。道と道が交差する場所は四界=死界に繋がっている。って、ばっちゃが言ってた。その辺も既視感があるな、と思いました。



お話を戻しまして。

この物語には「使い魔」なる存在が非常に重要になってきます。これは日本にあまり馴染みのない概念です。
この「使い魔」のクラット、作り方は簡単です。自分に家の家財道具などを使い、悪魔に血を3滴与え契約することで魂をゲット。これだけです。しかし貧しい村の人々はこの地の数滴すら惜しむような極貧の生活を強いられているので、怖い悪魔すら騙して色が似ているカシスの実で契約とかしちゃうんです。悪ぅ〜。

『November』においてのクラットは人間に大変にコキ使われています。
コキ使われているっていうか、他人の家の牛を盗むとか、人間の犯した罪を「よ・う・か・い・の〜せいなのねそうなのねっ♪」と言わんばかりに濡れ衣を着せられたり、とにかく人間にとって都合のよくない事全てが「クラットのせい」にされます。かわいそうだよ。
人間も人間で、「クラットのせいだ!」と言われると「そうか、クラットのせいか」とコロッと納得しちゃうんですね。そうすれば誰も責めなくていいし、自分が罰されることもありませんから。人間はなんて汚ぇんだ。これじゃあんまりだよ。

でもこのクラット、可愛いところもあるというか、この子もこの子でどこか人間臭い所があって、使い魔なんで基本的に仕事を欲しがっているんですけど、自分の主人に「パンでハシゴでも作っておけ」とかいう無理難題を押し付けられ、ウンウン悩んだ末に自身に火がついてしまい文字通り燃え尽きてしまったり、昔色恋的ななにかがあった男女が込み入った話を始めると、「あ、お邪魔ですね……」とスッ……と家を出て行ったり。どこかお茶目で可愛いんです。


特に、村の青年ハンスのクラットはすごいです。
ハンスのクラットはお手製の雪だるま。この可愛らしい雪だるまは、領主の娘に片思いをしているハンスにおとぎ話のような話を聞かせます。そして、「愛する人には詩を贈ると良い」と恋愛指南までしてくれるんです。アンテナの広い女子か?
そうして、今日明日の空腹を凌ぐことが人生の全てだったハンスに、人を愛するという事を教えてくれるんですねぇ……。


生きることが人生の全てのような世界においては、愛や慈悲という「目に見えないけど大切なもの」に対する価値が極端に低く、舞台となっている寒村に住む人々も、他人の家の宝物や高価な衣服など、「今日明日の物理的な糧になるもの」にしか興味がありません。なので、キリスト教の教えなど誰も聞く耳を持たず、教会で配られる聖餅は吐き出され、銃弾に変えられてしまいます。

アニミズムという万物を信仰する土着の概念がありながら、実際は都合のいいように利用し、搾取する。この村は、そういう村です。こういうような、人間の、悪い意味で人間らしい部分をリアルに描き出す。それがこの映画の魅力の一つだと思います。

だからこそ、主人公のリーナがハンスに抱く恋心や、領主の娘に焦がれるハンスの想いが一際特別に映るんですよね。それも、超美しい画面構成で。両者別の人物に片思いで、誰も幸せになれない悲しい恋物語が描かれるわけです。最高だ……。


この映画はモノクロで撮影されていますが、白⇄黒のグラデーションが非常に細かく、二時間弱ある上映時間でも全く飽きが来ないです。白ですら非常に多色的に見えて、これにはアンミカさんもきっとびっくりすることでしょう。

この辺の色使いについては監督が意識して撮っておられるそうで、お金持ちや死者は清廉・高貴・人ならざる存在を意識した白っぽい配色、反対に登場人物の大半や悪魔、森の中などは醜さ・愚かしさ・自然の厳しさを表すように黒色を際立たせています。この対照的な色味が奇跡的な化学反応を起こし、美しい画面構成を作り出している。たった二色で構成された世界にも関わらず、登場人物の内面すら完璧に描き出す鮮やかなモノクロ。圧巻です。


あんまりネタばらししちゃうと面白くないので、なるべくお話の重要な部分には触れないようにしたいなと思っているんですが、私の心が一気に持っていかれたシーンを紹介させて下さい。あんまりネタバレしないように書き方には気をつけます。


それは、主人公リーナがとある事をして、ハンスと一晩見つめ合い、愛を確かめ合うシーン。ハンスは領主の娘に恋をしているので、ハンスの目線の先にリーナはいません。それでも、リーナはハンスから自分に向けてではない愛の言葉を囁かれ、静かに涙するのです。自分へ向けての言葉だと思い込みながら。

悲しすぎると思いませんか?
こんな悲しくて辛い恋があっていいのか。悲しい。けれど、美しい……

このシーン、美しいにも程があるのでぜひ本編で確かめていただきたい。

『November』、どうかよろしくお願いします(?)。



思えば、私は不穏な映画ばかり見ているせいで恋愛映画にはめっぽう疎いですが、「いいなあ……」と思う映画は全て悲恋モノです。悲しくて苦しい恋が好きなようです。


大学時代、サークルにいた映画に詳しい先輩に「おすすめの映画はありますか?」と聞いたところ、「『ブルーバレンタイン』」と即答されたことがあります。
この作品はその会話をした数年越しに観ることになるのですが、鑑賞後、「あの人特に深い関係でもない後輩相手になんて作品をぶっ込んでくるんだ……」とあんぐりした思い出があります。めっちゃくちゃ刺さりましたけどね。
先輩、その節はありがとうございました。


こうして人は新たな癖(へき)を植え付けられていくのだ……。


まあ、こんな感じで、今年の映画鑑賞はこの『November』で打ち止めかな、という感じです。


明日は今年の振り返りもしつつ、予告していたこの一年で見た映画の感想とか書けたらいいな。



は〜書いた書いた。だいぶスッキリしました。
感想と刀は熱いうちに打てってね。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


それでは。


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