沿海州の亡霊・第六章~転生したら膝枕だった件

10.刃

ヒザーラはヒサコから受け取った箱を抱えて自室に戻ってきた。テーブルの上に箱を置き、恐る恐る開けてみる。中を覗くとヒザーラは満面の笑みを浮かべて「枕!」と叫んだ

ヒザーラ「あぁ、これこそ亡き母上の膝ではないか!この肌の色、柔らかさ・・・まさしく母上そのものだ!」

・・・いえ、俺ですけど・・・

ヒザーラ「はやくこの膝に頭を預けたい!だが・・・あまりに焦りすぎると母上になんと言われるか・・・落ち着け、落ち着け俺・・・まずは、この膝の感触を手のひらで・・・

ああっ!もう我慢できないッ!」

どーにかしてくれこのマザコン王子!というか、そのマザコン野郎の手が俺の膝に擦り寄ってくるッ!きもちわりぃぃぃ!鳥肌がゾワゾワーーーっと這い寄ってくるぅぅぅぅ!

ヒザーラ「あぁ!この肌触り・・・確かに母上のひざだぁぁ!ありがとうヒサコ!ありがとう妃殿下!兄と妹の絆は・・・最高だぁぁぁぁ!」

兄妹まとめて葬り去ってやりたい!

そして遂にヒザーラは頭を俺の膝に預けてきた

ヒザーラ「母上・・・ヒザーラは務めを果たせましたか?・・・?」

ヒザーラ「どうした?なにも反応がないのか?膝をにじって反応するんじゃないのか?それとも私の王子としての勤めが足りないのか?

だめだ・・・やはりまだ私は何かが足りない!王子としての器が足りないのかァッ!」

なーんか、1年前くらいにこんな事があったような気がするんだが・・・またやらんといかんのか?だが、こいつの場合は膝を動かすくらいじゃ大した効果は期待できそうにないよなぁ・・・俺の頭の中に(王子を揶揄ってやろう)という不適切な考えが湧いてきた。

確か式神を使って話ができるはずだからヒザーラに向かって・・・

俺「大変、良くできましたよ」

適当にオカンぽい声で話しかけてみたわけだが

ヒザーラ「母上・・・母上の声だぁぁぁ!」

マジかよ?式神半端ねぇなぁ!それともヒザーラがチョロすぎるのかあっさり騙されすぎだろ!

ヒザーラ「母上ぇぇぇ!私は頑張りました。沿海州に跋扈する海賊どもを討伐して意気揚々と凱旋いたしました。父上も喜ばれ、私の王位継承も近いとおっしゃってくださいました。」

お?いい流れかこれは?沿海州の真相はよっ!俺は話を先に進めるようにと膝を動かした。

ヒザーラ「沿海州の港から南方の荒海へ船を漕ぎ出すこと2日目、我が軍は海賊どもと戦になりました。海は荒れ、大きく揺れる甲板での戦いに不慣れな我が軍は始めこそ海賊どもに遅れをとっておりましたが・・・その時、私は聞いたのです!剣を掲げよと!すると、私が掲げた剣から光が伸びて・・・雲を破り、やがて嵐も収まり、劣勢だった我が軍は海賊船を押し戻しあっという間に海賊どもを倒すことができたのです!」

・・・いや、ちょっと待て。あっさりまとまりすぎてないか?肝心なところがねーじゃねーかよ!

俺「剣を掲げよと言ったのは?あなたに剣を掲げよと言ったのは誰ですか?」

単刀直入過ぎたがもう俺の勢いは止められない!ヒザーラ「私に言ったのは・・・」俺「言ったのは・・・?」

ヒザーラ「亡霊を統べる王・・・」

亡霊?王?なんだそいつは?それがラスボスか?

俺「亡霊を統べる王とは?正体は何なのですか?」

ヒザーラ「王の名は・・・!」

・・・オアソビハソコマデダ!

俺でもヒザーラでもない別の声がしたかと思った次の瞬間ヒザーラの背後から黒い影が現れ、短剣を手に持った彼は俺に向かって切り掛かってきた。

膝枕の姿の俺は真っ二つに切り裂かれ

そして、俺は・・・死んだ

<第五章 第七章>

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