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「膝枕」七五調をいじってみた

最初に

私が加筆したからって悪ノリはしてないんだからね!
という訳で
原本の言葉は残しつつ私が読みやすそうな調子に整えてみました。
7と5にこだわると日本語的には「?」かもですが
言葉のパズルを解いている感じで面白い事に
時々同じ語句を並べるのも良きです
「x」は何かで調子を取ってください

原作の膝枕はこちら
今井雅子さんの七五調はこちら

原作・今井雅子「膝枕」、今井雅子「七五調膝枕」より『七五調膝枕をいじってみた』

xx
休日の 朝もひとりよ ただひとり
男はいまだ 夢の中
恋人もなし 趣味もなし 
その日の予定も 特になし
鳴るわ呼び鈴 二度三度
x
扉開けると 配達員
手にかかえるは 段ボール
電子レンジが 入ってそうな
箱を抱えて 立っていた
箱に貼られた 伝票の 
漢字一文字 見た途端
うちふるえるわ 歓喜の叫び
x
「まくら!」
x
配達員は 待たされて
堪え切れずに 吐き出した 

「そろそろ受け取ってもらっていいっすかねぇ」
x
扱い注意の 赤ラベル
貼られた箱を 抱きかかえ
姫様だっこで 室内へ
そっと下ろした 畳の上に

はやる気持ちを 抑えつつ
爪ではがした ガムテープ
カッターで 傷つけるなど 言語道断
x
箱を開けると 現れた
届いた荷物は 膝枕
正座姿の 腰から下は

ピッチピッチの パンツから
顔を出してる 膝頭
カタログよりも 色白だ
x
正座両足 内に向け 
もじもじと 恥じらう姿 膝枕
手触りや 肌の色まで
生身の膝に いきうつし
感情あらわに できるよに
プログラムまで 組んである

幅広い ニーズに応える 膝枕
ラインナップは なんとも豊富
xx
やみつきになる 約束された 沈み込み
体脂肪 4割超えの
「かなりぽっちゃり膝枕」
x
母親に 耳かきされた
遠い思い出 蘇る
「おふくろさんの膝枕」
x
小枝のような か弱い脚で
けなげにあなた 支えます
「守ってあげたい膝枕」
x
汗も匂いも ワイルドな 
すね毛ほほ撫で 癒される
「親父のアグラ膝枕」
x
隅から隅まで カタログを
眺め渡して 読み込んで
熟慮に熟慮を 重ねては 
痛い妄想 繰り広げ
男が選んだ 膝枕 
誰もまだ 触れたことない 
ヴァージンスノーの 膝自慢
x
嘘偽りも ありはせぬ
これぞまことの 「箱入り娘」
恥じらい方に 品がある
正座の足を もじもじと
動かすさまが 初々しい
x
一人暮らしの 男部屋
初めて足を 踏み入れた
うれし恥ずかし 奥ゆかし
乙女のキモチ 伝わった

「よく来てくれたね ありがとう
 自分の家だと思ってリラックスしてよ」
x
ギュッと閉じてた 膝ふたつ
力が抜けた 様にも見えた

待ちに待ったわ この膝に
身を委ねたい 今すぐに

ぐっとこらえる この気持ち
強引な ヤツと思われ たくはない
気まずくなると 立ち行かぬ
思いやられる この先が
なにせ相手は 箱入り娘
x
二人にとっての 初夜となる 
その夜男は 手を出さず
いやいや頭も 出さぬまま
娘の気配 感じて眠る
やわらかく弾む マシュマロに
埋(うず)もれている 夢を見た
x
配達員が 今日も来る
またこいつかと 思ったか
留守でないのに 置き配だ
荷物は白い スカートよ
裾がレースに なっている

「いいね すっごく似合ってる 
 可愛い もう我慢できない」
x
たまらず膝に 飛び込むと 
マシュマロのよに ふんわりと 
男の頭を 受け止める
x
スカート越しに 伝わった
ふたつの膝の やわらかさ
レースの裾から 飛び出した
白い肌の 生っぽさ
天にも昇る いい気持ち
x
「この膝があれば もう何もいらない」

男は溺れた 白い膝
箱入り娘が 気になって
仕事がまるで 手につかぬ
x
飛んで帰って 玄関の
ドアを開けると 正座して
箱入り娘が 待っている

膝にじらせて 出迎えに
来てくれたとは いじらしい
xx
男迷わず 膝に飛び込み
その日その日の つきせぬ話
小さくふるえる 白い膝
笑ってるのか 笑ってるのだ
x
「僕の話 面白い?」

拍手のように パチパチと
ふたつ合わさる 膝頭
x
喜ばせたい まだもっと
熱がこもるは 男の話

仕事が辛い 日もあるが
語り聞かせる
ネタができたと 思えばいいと
xx
うつ向いていた 冴えない男
胸を張り 顔をあげれば 見違えた  
顔つき目つき ちからが宿る
x
「こんなに面白い人だったんですね」

飲み会で 隣のヒサコが 投げかけた
艶っぽい 視線も仕草も 何のその
ヒサコの膝に ただ夢中

酔った頭が 傾いて
ヒサコの膝に 倒れこむ
膝枕 ヒサコの膝の 膝枕 
本物だけの やわらかさ
xx
男たちまち 骨抜きだ
頭の上から 降ってくる
ヒサコの声が トドメを刺した
x
「好きになっちゃったみたい」
x
いつものように その夜も
膝をにじらせ 玄関で
男待ってた 箱入り娘

ヒサコの膝も 良かったが 
箱入り娘も 捨てがたい

「やっぱり君の膝枕がいちばんだよ」
xx
男が漏らした 一言に 
箱入り娘が 硬くなる 
男の浮気に 勘づいた

そこにヒサコの 着信だ

「今から行っていい?」
x
さあ大変
ヒサコがうちに やって来る
ヒサコの膝が やって来る
x
箱入り娘 箱の中へと
男あわてて 片付けて
押し入れの奥 追いやった
x
「来ちゃった」 

歯ブラシ持って 現れた
ヒサコ泊まる気 まんまんだ

だがしかし 男せがむは 膝枕 
膝の先には 手を出さず
x
大事にされて いるのだと
ヒサコ感激 したものの
あくる日も その次の日も
膝から先へ 進まない 
x
歯ブラシ変えたは13本
ついにヒサコは 我慢限界

「そろそろ枕を交わしませんか」

女から 口には出来ぬ そんなこと
x
毎夜感じる 誰かの視線
男に膝を 貸してると
ジトり感じる 誰かの視線
x
「ねえ誰かいるの?」
「そんなわけないよ」
xx
すると今度は 押入れで
カタカタカタと 音がする
x
「ねえ何の音?」 
x
「気のせいだよ ごめんちょっと仕事しなくちゃ」 
x
「いいよ 仕事してて 私先に寝てるから」
x
「違うんだ 君がいると気が散っちゃう」
xx
男ヒサコを 追い返し
押入れ奥に 追いやった
箱入り娘を 取り出(いだ)す
x
箱にぶつけた 白い膝
打ち身だらけの 傷だらけ
その膝ふたつ すり合わせ
いじける姿が いじらしい

「焼きもちを焼いてくれているのかい?」 

箱入り娘 抱き寄せて 
指で撫でるは 膝の傷
x
「もう誰も部屋には上げない 
 僕には君しかいない」
x
「お願い」と 手と手合わせる かのように
ぎゅっと合わせる 白い膝
その膝ふたつ すり合わせ
男を誘う 「ねえ来て」と
x
「いいのかい? こんなに傷だらけなのに」

そして「いいの」と 言うように
左右の膝を 動かして 
男促す 箱入り娘
擦り傷に 当たらぬように
男はそっと 頭をのせる
x
「やっぱり君の膝がいちばんだ」
xx
「最低!」
x
ヒサコの声に 飛び起きた
玄関に ヒサコ怒りの 仁王立ち
震えるヒサコ 唇の 
なんと形の 良いことか
xx
「二股だったのね」
x
「本気なのは君だけだ 
 これはただのおもちゃじゃないか」

男は思わず 口走る
「なんてひどい」と 言うように 
弱く震える 白い膝
しかし男は 気づかずに
ヒサコの背中 見送った
x
どちらに愛を 誓うのか
迷い迷って 出した答えは
やはり生身の ヒサコの膝だ
xx
「もうこれ以上 君と一緒にはいられない 
 でも君も僕の幸せ願ってくれるよね?」
x
なんと勝手な 言い草だ

箱入り娘を 箱に入れ
男は娘 捨てに行く
静まり返る 箱の中
責めるかのよな 膝枕
x
悪人だ ああ悪人だ 悪人だ

箱を置いたわ ゴミ置き場
一度たりとも 振り返らずに
走って帰り 布団をかぶる
xx
真夜中雨が 降ってきた
膝枕 箱の中では ただひとり 
濡れそぼるその 白い膝
x
迎えに行こう
行ってはならぬ 捨てた身で
ぐっとこらえる 許してと
x
ヒサコの生身の 膝枕
あのやわらかさ 思い浮かべて
男自分に 言い聞かす
x
「忘れよう 忘れるしかない
 ヒサコの膝が忘れさせてくれる」
xx
眠れない 夜を過ごした この男
玄関の ドアを開けると あの箱が
見覚えのある あの箱が
x
箱の中 膝にじらせて 
たどり着いたは 箱入り娘
箱に滲んだ 真っ赤な血
x
「早く手当てしないと!」

箱入り娘を 抱き上げる
滴り落ちた 真っ赤な血
男のシャツを 染める赤
x
「大丈夫? しみてない? ごめんね」

膝に消毒 液を塗り 
包帯を ただ巻きながら こみ上げる 
辛い想いが こみ上げる
x
愛おしい 申し訳ない 
裏切ることが できようか
傷だらけ そこまでしても 男の元へ
はるばる戻った 箱入り娘
x
ふとよぎる 別の考え

「もしやこれも
 プログラミングなんじゃないか」
x
箱入り娘 膝枕 行動決める パターンは
工場からの 出荷時点で
インストールが されている

二股を かけられたとき 
ゴミ捨て場 捨てられたとき
あのいじらしい 反応も 
全部全部が あらかじめ
決められている パターンではと
x
「人工知能に踊らされているだけじゃないか」

たちまち白けた 男の目
枕は枕 ただのモノ
箱入り娘は ただのモノ

「明日になったら捨てに行こう 
 二度と戻って来れない遠くへ」
x
最後にと 頭預けた 膝枕
別れを予感 してるのか
強張っている 白い膝
箱入り娘の 白い膝

男の頭に 浮かぶのは
ヒサコの膝の 膝枕
作りもの 作りもの
生身の膝には 勝てはせず

夢かうつつか
箱入り娘の 声がした
x
「ダメヨ ワタシタチ 
 ハナレラレナイ ウンメイナノ」

あくる朝 男は目覚めて うろたえる
x
これは一体 どうしたことか
x
頭が重い とにかく重い
横のままから 起き上がれない

それもそのはず 
男の頬と 白い膝
皮膚と皮膚とが くっついて
どうやったって 離れない
こぶとり翁に さも似たり
x
保証書の 連絡先に 電話する
呼び出し音が 鳴るばかり
そのとき気づく 注意書き
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《お客様 この商品は 膝枕
 箱入り娘 膝枕
 返品も 交換なども できませぬ
 例外もなく お断り
 責任を 持って一生 大切に
 お取り扱い 願います
 万が一 取り扱いを 誤ると
 不具合を 生じることが ございます》
x
男いよいよ 起き上がれない
ますます深く 沈み込む
箱入り娘の 膝枕
今までにない フィット感
吸いつくような フィット感
男を包み 飲み込んだ
xxx
男と女は 膝枕
切っても切れぬ 膝枕
x
膝に頭を 預けることは
命預ける ことにも似たり
命預ける ことにぞ似たり
xxxx


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