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『この世界からは出ていくけれど』読書感想文

韓国のSF作家キム・チョヨップさんの短篇集を読んでみました。ぼんやり読んでいるとお話に置いていかれてしまい、なんだかんだの3巡目。彼女作品のSF設定は骨太で、とてもセンスが良くて、もう一度読み直してみたくなってしまう。既成概念をSFというドリルで思いがけない場所を掘ってくる感じがスキ。

その世界観、わかるような、わからないような、わかりたいような、わからなくてもいいような。わかりえないから、感じていたいような。

以下少々ネタバレあります。


★最後のライオニ
信じた気持ちは、信じた者だけのものだから、たとえその希望が失われたとしても、運命が違う形にして信じた希望を連れてきてくれると、わたしも信じているから、やっぱりムダに信じていたいな。

★マリのダンス
視知覚の異常症を持つモーグのマリが習うダンスとテロのお話。固有受容感覚を失うことを経験した人たちは、自分の身体が自分のもののように感じられなかったとか、ひどい場合だと身体と精神がばらばらになったような感覚を覚えるのだと語る。という一説で、この切実さは体験した人が近くにいないと書けないと思った。わたしの近しい人も同じこと言っていた。

★ローラ
3本目の腕を熱望するローラのお話。
自分の身体の一部が欠けていると感じ、欠けたもの得たいと強く望む気持ちを持つローラ。日常生活に困っているわけでもなく、あったらむしろ邪魔な腕。例えば性同一性障害のような身体の不一致の感覚を3本目の腕で表現する発想力がすごいと思った。

★ブレスシャドー
粒子が振動するニオイで意思疎通をする人類とプロトタイプの人類のお話。こちらの世界線でみれば、マジョリティの逆転。多数派が占める概念が常識となるけれど、そこに正解・不正解があるのではなく、同じ人類同志、思いを持って、時間を共有できるかどうかだろ?って聞かれてる気がした。
互いの相対的な感覚の差異を自然に埋めるだけの度量が欲しいが今は、まだない。ふうー。

★古の協約
禁忌と友情のお話。
わたしたちもこのお話のように惑星の時間を分けてもらっているに過ぎないのかもしれない。マントル渦巻く地球の長い長い時間軸の中で、今はたまたま地球が睡眠中で、目覚める前までの時間を人類に分けているだけに過ぎないという考えは、わりと自然なことだと思ってしまった。

★認知空間
認知空間の管理者ジェナと認知空間に行けなかったイヴのお話。
わたしたちが手分けして記憶するなら、この宇宙全体を描くことができるのかもしれない。このラストの一説が好き。認知空間の格子ストラクチャーを映像でイメージすることはできなかったけど、インディージョーンズのクリスタルスカルがソ連の諜報機関KGBの大佐イリーナ・スパルコにみせたアレの感じだろうか。友の言うこと信じたからジェナはこの世界から出て確かめに旅立った。私も同じ旅の途中だな。

★キャビン方程式
相対的な時間軸に暮らす姉妹のお話。
観覧車で描かれた局地的時間バブルは、どんなイメージだろう?。人生の中で多くの人と関わりあうけれど、それぞれの世界が違うから、ピントが合うことはめったにない。だけど時々、ぱっときらめくような瞬間があったりする。それは恋かもしれないし、友情や、家族愛かもしれない。

全体的にあなたとわたしの交差した瞬間のきらめきの
淡々と優しく淡々と切ない物語。


おまけ
フリーレンedノンクレジットが聴きたくなった

いつも読んで下さりありがとうございます😊




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