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カプセル


小学校の頃、本を読みながら帰っていて、電柱にぶつかりそうになったり、溝に落ちそうになったりしていたうちの子ども。実際ぶつかったり落ちたこともあるのかもしれないな。家でも移動中の車中でも、読み始めると周囲の音が全く聞こえなくなる。

スッとカプセルをこしらえ、その真ん中にストンと腰をおろす。水族館の、水圧に耐えうる分厚いアクリルでできたカプセルだ。

読書の邪魔をされようものなら、誰かれ構わずキッと睨みつける。普段は温厚なぼや~んとした人なのに、目に殺意が宿るほど。

いつからだろう。赤ちゃん用の、文字のない絵本には興味を示さなかった人が、本に魅入られるようになったのは。

人って好きな物には、誘導しなくても全自動で全力で向かっていくものなのだろうか。

本が友達だった。友達は少なかったし、うまくいかないことが多かった。そのころ、強烈にハマったのはハリポタだ。あの子を支える友だったのだと思う。


図体は私よりも大きくなった現在、「最近友達とハリポタの話で盛り上がったんだー」と言う。

みんな同じころに同じようにハリポタにはまり、みんな頭の中で精巧にハリポタワールドを作り上げていたらしい。

本好きな人が多いところにいられてよかったね、と心の底から思う。

「それぞれの描いていた”世界”を打ち明け合ってみたら、みんなすごくて…」テーマパークも顔負けのワールドが作り上げられていたようだ。そう話す子どもの目はキラキラしていた。

「ほんっとよく読んでたよね。もう読まないの?久しぶりに読んでみたら、また違う感覚があるんじゃない?」私は再読のたびに発見があるものだから言ってみた。

「もういい」

「友達とも話してたんだけど、子どもだったから、若い脳だったから、何にも囚われず、頭の中で自由に世界を構築できた。もう頭が固くなってしまって、あの頃のように想像に任せて自分を飛ばすことができない。完璧にできていたんだってーあの世界が。今はもうあれはムリなんだよ」

ふぅん、そんなものか…っていうかまだ若いじゃないかー!と思うけれど、全然違うらしい。

「だから作家ってすごいと思うんだよね。大人になっても想像力で世界を構築しているんだから。その力を保っているんだから」

ふぅん、なるほどね。なんだかよくわからないけど、大人の階段上ってるみたいだね。


「そろそろラノベを卒業したいんだよね」と、のたまう。

あぁ、そっか。私が児童書から次に読むものが見つけられなくて脱落したように、YAやラノベのある今の時代に生きる君も、”次”を見失う時が来るのだな、と思った。

「直木賞とか本屋大賞とか手当たり次第に読んでいけば~大作、名作と呼ばれる作品も若いうちに読んでおきなよ~」

「宮部みゆきも読みたい、昔読んだあさのあつこもう一度読みたい、友達は綿矢りさがオススメだって・・・」たくさん言ってたけど忘れた。

本が読みたいんだなぁ。本を読むことに没頭する時間が恋しいんだなぁ。現実逃避なんだろうなぁ。

それでも、変わらず本が好きであることに安堵する。


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