見出し画像

ぽん多

 入り口は大通りから一本入ったビルの一階。立て看板やメニューは外に出ていない。重厚な木の扉が閉じられており、中の様子も隙間からしか伺えない。少々入りづらい雰囲気。扉を開けると、目の前に厨房が開けていて、おじいちゃん3人が厨房から声をかけてくれる。案内された一階カウンターは三席。ちょっと無骨な雰囲気と口調のおじいちゃん店員のせいか、店内にBGMがなく無音なせいか、なんとも言えない緊張感が漂う。二つ隣の席のカツレツの衣が立てる、カサカサという音が聞こえてくる。
 席に着くとメニューが配られる。カツレツと、別料金のご飯&味噌汁&漬物を注文。ゆっくり揚げているのか、結構時間が掛かる。ほうじ茶を飲んでいると、様子を見て注ぎ足してくれた。予約の電話が掛かってきたのが聞こえる。小学生以下の子連れは入店禁止らしく、念を押すように確認している。こだわりが強そうだと思いつつ、この静けさを思えば当然のような気もしてくる。

 10分くらい経ったか、もう少し掛かったか。注文した料理がやってくる。食器は年季の入った、金の縁取りの入った洋食器。薄手の小ぶりな茶碗も含めて高級感があって、老舗の喫茶店のよう。(そういえば、レジの向こうの壁に飾り棚があって、コーヒーカップが飾られていた。)ただ、高そうで年季の入ったレトロなデザインの器に味噌汁やご飯が並ぶと、祖父母の家でご馳走を出されているような、なんとも言えない気持ちになる。
 カツレツ(とんかつではない!)は大粒のパン粉がバシバシに立っていて、でも食べてみると柔らかい。バリバリというよりは、かき氷みたいにシャリシャリする感じ。パンからなのか、ほのかに甘い香りがして、ちょっと上品な印象がある。脂身の少ない厚手の肉なのに柔らかいのは、低温でゆっくり揚げているのだろうか。そういえば衣も色が白い。最近あるようなレア気味ではなくしっかり火が通っているが、水分は残っている気がする。塩と胡椒の下味が効いていて、ソースがなくても大丈夫。
 味噌汁は鰹の風味が強くて、東京っぽい感じがする。古漬気味の漬物が懐かしい気持ちにさせる(祖父母感!)。ご飯の割にちょっと多かったかな。

 食べ終わったところで、次のお客さんが入ってくる。空席がなかったのか、ベンチで待つよう促されている。慌てて席を立つと、椅子の座面が目に入る。革張り(合皮かも)のひび割れが年季を感じさせる。会計の場所は出口側ではなく、カウンター席からだと少し奥に進んで済ませるようになっている。支払はおそらく現金のみ。帰りには店員さんがわざわざ出口まで付き添い、重い扉を開けて送り出してくれる。ここへきて、ぶっきらぼうに見えた店員さんの印象が丁寧に感じられてくる。ヤンキーが良いことをすると急に印象良くなるやつ…例えが悪いか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?