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好きな人を好きじゃなくなる理由が”お金”なのは自然なこと

初めて恋人ができた中学2年生のころから現在まで、私は年上の人とばかり付き合ってきた。同級生の恋人もいなくはなかったが、ほとんどが自分よりも学年が上だ。干支が一回りするくらいの年齢差の人との交際もある。

自分がなぜこんなにも年上の彼氏ばかりできるのかわからない。それは後日改めて考えてみようと思うが、きっと私は年上彼氏に何かの縁があるはずだ。

学生のころは、「〇〇先輩カッコいい」といった”憧れ”や”好き”と言った感情だけで付き合えた。それ以上の判断基準はいらない。

それが、社会人になるとガラリと変わってしまった。あれは初めてのお給料をもらって半年が過ぎたくらいの頃だったろうか、「もしこの人と結婚することになったらどのような生活になるだろうか」という視点で彼氏を見るようになっていた。

社会人1年目、22歳の頃の私は確か10歳くらい年上の彼氏がいた。今が自分なりの幸せな毎日を送れているからその時分の彼氏の年齢差なんて真っ先に記憶から薄れてしまうけれど、高校を出て働いていたその彼は社会人13年目になると言ってたのは覚えている。

22歳と32歳の交際。このくらいの年齢になれば怪しいものでもなんでもなく、よくあることだ。

彼は、ものすごく優しかった。初めて会ったとき、彼の口から出る言葉が私の耳を心地よく刺激した。声が好き。声量もちょうどよい。話し方も穏やかだ。決して自分を主張するタイプではなく、相手が心地よく話せるような相槌がうまかった。乱暴な言葉を使わないのも私のタイプだった。この人と話していると居心地がいい。私はそう感じた。
ちなみにくっきり二重でたれ目の可愛らしい目がチャームポイントの彼のルックスはどんぴしゃの私のタイプ。スラッとした細見の体に纏うジーンズとロングTシャツも似合っていた。カッコいいと思った。

私の完全な一目惚れから交際が始まった。彼も私のことを好きだと言ってくれたときは空を飛べそうなくらい喜んだ記憶がある。今まで何人もの男性とお付き合いをしてきたけれど、この人とならきっと今まで以上に楽しい毎日が送れるかもしれないという期待に胸が躍った。

私は免許を持っていたけれどペーパードライバーだったから、彼の運転でいろんなところに出かけた。自分の右側にいる彼に、「見てみて!富士山が見えた!!」と興奮して伝えた中央道での会話を今でも覚えている。

そんなに大好きだった彼は、私から別れを告げた。


きっかけは彼の給料明細を見たことだ。
ある彼とのデートの日。たまたま給料日で給与明細書がカバンに入っていた私は、「今月の給料こんな感じだった~」と彼に明細書を見せた。

実はこれは私が意図したことである。私は彼から聞く仕事の話の中で、経済的な不安を感じる点がいくつかあった。そこで、彼の給料は一体いくらなのか知るために、自分の給料を話のきっかけにしようと思ったのだ。

彼は私の給与明細を見てもともとパッチリだった目をさらに大きく見開いてこう言った。

「え、俺よりかなりもらってるじゃん。」

彼は自分の給料について私に何かを隠す素振りを見せずに話してくれた。
彼の給料は私よりも10万円近く少なかった。しかも、給料日にまとめて支払う現金がないため分割で支給されていた。

私は働き始めて半年ほど。方や彼は社会人13年目。お給料は私の方が10万円近く多い。ボーナスも含めると私の方が年収ははるかに高かった。

当時の私は社会人1年目で住民税が引かれていないことを考えても、この差は私に大きな衝撃をもたらした。

そこからだ。あんなに大好きだった彼への熱い気持ちが、ふっとなくなってしまったのは。まるで挽きたてのコーヒーがテーブルの上で徐々に熱を失っていくように、私の彼への思いも冷めていった。

彼に会ってもワクワクしない。楽しめない。あれ、どうしてだろう?初めは自分のその気持ちに戸惑っていたが、実は最初からわかっていた。私が自分を認めたくなくて目を背けていたんだ。原因はわかっている。彼の年収が自分より低いと知ったからだ。

彼のことを好きじゃなくなる理由が”お金”だということに、私は自分への嫌悪感を抱いた。自分はなんて卑しいのだろうと。

けれど、あれから月日が経った今、恋人を好きじゃなくなる理由がお金であることは間違ったことじゃないとわかった。

彼と別れたあとに、今度は14歳年上で私より倍以上の年収の人と付き合うことがあった。その人もまた、関係を続けることはできなかった。

それでも、私は彼らからあることを学んだ。それは、お金はその人の価値観を示してくれるということだ。給料という決められたお金の中から、いつどこで何にいくら使うのかは人それぞれが抱く価値観で決まる。

私より年収が低かった彼も、私の倍以上の年収の彼も、どちらも私と大幅に異なる価値観を持っていた。「そこにお金を使うの?」「ここにお金を使わないの?」一緒にいてモヤっとすることが多々あった。そして、どちらの彼とも「この人と一緒に生活する私」を想像することができなかった。

ちなみに、私は将来誰かに一生養ってもらいたいという気持ちは毛頭ない。自分も好きな仕事をしていきたい。それを実現するためにも、価値観が異なる相手との生活は難しいと思っている。


私には夫がいるが、夫とは出会ったときから「この人と家族になりたい」という感情を抱いた。夫を選んだ理由はたくさんあるが、何事も価値観が自分と似ていたことは大きい。デートで選ぶお店のジャンルも、食後に食べるおやつの有無も、自分への投資についても、考え方がすごく似ていた。一緒にいて居心地が良かった。そんな夫は、私と年収がほぼ一緒だった。

「あぁ。人が誰かと結婚するときは、自分と同じ年収の人を相手にするのが一番幸せになれるんだ。」

もちろん年収が同じならば誰でも良いというわけではないが、たまに「自分より年収が上の人を結婚相手に望む」という話を聞く度に私は不安な気持ちになる。


元カレの話に戻ろう。
社会人1年目のころ大好きだった彼の給料を知って急に冷めた私の感情は、嫌悪感を抱いたり卑しいと自分を責めるものでも何でもなかった。価値観が合わないと気づくためには必要なことだった。

それでも、本当にタイプの彼だった。見た目も優しくて穏やかなところも、本当に好きだった。だから、ものすごく残念に思う。

多分、この世の中には私のようにお金がらみで好きな人を好きじゃなくなる人はたくさんいると思う。でも、それで自分を責めないでと伝えたい。あなたのその感情はごく自然なものだから。





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