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遊女と男

家族を持てることがどんなに幸せなことか

着物はほぐれたまま
あなたの所へ行こうとも行けぬ

あんな娘を嫁にだなんて
何を考えているのと
それはそうね、許しては貰えぬことは
100も承知。

それでも 私をと 言ってくれるだけ
その言葉だけで 嬉しい

私は売られた
貧しい暮らしの家族のために
親や兄弟を助けるためにここへ来た
二度と出られぬ さだめ

好きな人とは一緒になれぬ

畳の部屋の明け方に
交わす言葉の 切なさよ…

私は男の子がいいわ
女はこりごりだもの

女子もよい
お前のような 可愛い子がうまれてくれるなら
なんて幸せなのか
その赤子の愛らしい目  なんと可愛いことか
見せてやりたいな

では あなた 見せてくださいまし
まずはあなたを三枚おろしにでも…

くすぐったい
よしとくれ

いや、お前にも 見せてやりたいねぇ
本当に可愛い子だよ

そうかしら

違いないさ
俺とお前の子なんだ


あなたが愛しい

【ここから 出してください】

心で思っているのとは 裏腹なもの

おべっか なんかは 容易いものを
こんなにも あなたには 言えぬもの
本当に 私は あなたを…


《私の事?》

《忘れたのか 腕の傷を》

《では、私のなごりは?》

《顔のほくろ?》



嫌だわ、そんな。
ほくろだなんて。
また!私の事をばかにするのね!

あぁまた、心が痛む音がする
こんなにも あなたに好かれたいのに
あなたは 私が嫌いな所ばかりを そうやって
からかわないで 欲しいのに

そんなことはない
俺には特別なんだ
お前の全てが

まあ…!


お金がたまらない
一生懸命ためて、迎えに行くと言ってくれた
必死になってこしらえても
「何のために 使うのだ」
「まさか、あの子を?」
「気でも狂ったか」

「なにを言う!あいつぁ俺の初恋なんだ」
「バカにしないでくれ!」

「気がふれっちまったな」
「悪いこた言わねぇ お前を好いてる娘が近くにいるじゃねぇか」
「お前の両親のためにも、この家業のためにも、お前は早く正気に戻って あの娘と祝儀あげることだ」


私は知っているのです。
本気の恋は しちゃいけないと
それでも ただ あの人が愛しい

あの人を恋焦がれて待つのです

仕事ですから、仕方がないじゃありませんか

そう諦めて 誰かに抱かれながら、
思いを焦がすのはあなた1人

まって、待ちくたびれてしまうまで
思い疲れて死ぬ事が出来るなら
いっそ そうしてしまいたい

上にも下にもなれず
この鳥かごに入れられたまま



仕事から帰った夫に聞く。
「ねぇ?私のどこが好き?」

「ん?顔。」

「え?顔?」

「そう。だめ?」
「目とか小さなコロンとした鼻とか…」

「おい…鼻はよせよーう!くそぅ!」


《顔が好きだって》
《本当に覚えてるの?忘れてるの?》
《本当に私のこと?》

《いつも怒ってた。小さな鼻も口も 好きだと言うと 怒っていたな》

《あのまま、変わってないのは私だけなの?》
《この人は あなたとは違う人なんじゃ?》

《疲れているみたいだな》

《疲れやすい?》

《気疲れてしやすい》

《忘れちまいたかったのさ…》
《お前がここにいるんだ、それだけでいいのさ》
《お前とお前の望んだ 男の子2人もいてよぉ》
《他にどんな望みがあるんだい》
《思い出さなくたって こいつぁそれでいいんだよ》



家族一人一人が 《今》が大切なんだって
これ以上の幸せはないと、この男は私に言う。

そこで夢から覚めた。

隣には 顔が好きだからと言って眠った夫と、
夫にそっくりな男の子2人が 寝ている。

だから私は 涙を流した。
狂おしいほど願っていた あの夢が

叶ったのだから。




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