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スカッとしている藤ちゃん

リハビリ職の藤ちゃんは、炭酸ジュースのようにスカッとしている。

見た目は大きい、とっても大きい。

声も大きめ声。多分もともと低いんだろうけど、人と話すときはかなり高めに発しているから、テンションが高く感じる。

目はちっちゃめ。つぶらな瞳。その瞳をくちゃっとして、いつもよく笑っている。勢いよく、スカッと、はじけて、笑っている。

困っていても、ショックを受けていても、第一声に必ず笑い声が混じる。いやらしくない、スカッとしている笑い声。

そして藤ちゃんは、芯が強い。意見が違えた時、相手を否定することはないけど、かぶせて自分の意見を通す強さを持っている。しかもスカッと笑いながら。

そして、自分の意見が間違っていた時に訂正する潔さもある。笑わずに謝罪する潔さもある。

藤ちゃんは、とても頼りがいのある、女性だ。

藤ちゃん曰く、弱点は、言い方にとげがあることらしく、日々直すように努力しているとか。

私はあまり感じたことないんだけれど。

そんな藤ちゃんが、来月昇進する。通所リハビリ部門で部下を持ち、責任のある立場で物事を判断する人になる。そうなることを、藤ちゃんは選んだ。

藤ちゃんと私は同い年。何度か一緒に飲みに行ったこともある。子供の歳も近いから、自宅にお邪魔したこともある。

長年同じ建物内で働いてはいたが、一緒に通所で働くようになったのは昨年の夏ごろから。

お互い意見がはっきりしていることや、利用者様に対する想いが似ており、一緒に働くようになってからのほうが以前より深い関係になれている

私は比較的ジメッとした空気があるが、藤ちゃんはカラッとしている。

うらやましい。

藤ちゃんが言っていた。
「私は比較的強いから、折れちゃうことはないと思うよ」
カラッと笑って言うから、嫌味感はゼロ。

あーあ、本当にうらやましい。

そんな藤ちゃんから、先週言われた。

「リーダーになってよ、一緒にやろう」

現在うちの事業所は、リーダーが不在となっていて私が代理をしている。上司はもうすぐリーダーを決めるといって、もう半年が過ぎようとしている。
藤ちゃんから「リーダーやろう」と言われたとき、私は、なんだかちっちゃい雷に打たれたような気分になり、体が高揚するのを感じた。
と同時に、藤ちゃんから目をそらせてしまった。

私は、リーダーを断っていた。
藤ちゃんが通所リハビリ統括を承諾した時期に、私は、リーダーを断った。

藤ちゃんはそれを知らない。

私はリーダーを断った。何度も悩んで、後悔もして、涙もした。いろいろ偽って自分を納得させようとしたけれど、やっぱりちゃんと、書いておこうと思う。

大きな人事異動があってから、一年半がたつ。私の一年半前の直属の上司は、リーダーだった。うちの事業所は勤続年数が長いパートさんが多く、意見が強い人も多い。新人職員の受け入れをすることが難しく、新人さんはみんなすぐにやめていった。

その時のリーダーは、とても優しい人で「働く職員が働きやすい職場作り」を目標に頑張っていたんだけれど、パートさんを落ち着かせることが精いっぱいで、新人が15人やめたところで、自分から移動希望を出して、リーダーをおりた。

その次にリーダーになったのは、私の同期だった。完璧主義者の同期は、相手に合わせることが苦手で、上司である施設長と、もめにもめていた。もともと完璧を求めすぎて、現場の職員とも何度かもめごとはあったのだけれど、上司相手に結構な啖呵もきっていた。すげーなー、大丈夫かなと思って、横で見ていたけれど、同期は徐々に精神がぼろぼろになってしまい、5か月でリーダーをおりた。

順番的に、次は私だということは、わかっていた。

この状況で私は、リーダーをするということを、頭でいっぱい考えた。小さい子供がいる私が、リーダーになって、大丈夫か?サービス残業は物理的にできないし、熱を出したら休まないといけない。ほぼワンオペ状態の私は自宅でもフルに動かないといけない。

できる?私にできる?現場は手ごわいパートさんがいっぱい。協力はあまり望めない。でもそこにかかりきりになってはいけない。自宅のこともやらないと。

あー怖い、できるかな・・・少しやってみたいけどでも、生活できなくなっては困るし・・・

上司から話をもらった時に、具体的にどんなことが増えるのかを聞いてみた。「やってみたらわかるんじゃない?だめならやめればいいし」・・・押し付けられている?変な気分が残った。

悩んで、悩んで、旦那ちゃんに相談すると、あまりいい反応はしなかった。「忙しくなるんじゃないの?大丈夫?」私は家事は比較的苦手。だから旦那ちゃんに迷惑をかけている時がある。やってみたいと、言い出せなかった。

前任のリーダー2人にも相談してみた。口をそろえて2人とも「やめたほうがいいよ!大変だから!」と、自分がした後悔を教えてくれた。

「休みの日にも職員から明日の勤務を変えてくれだの、悩みを聞いてくれだの電話がかかってくるし。緊急事態が起こったら会社のために働かないといけないし。やめた方がいいよ、ほんとに大変だから。」「マネージャーはこっちに仕事ふりっぱなし。大変だと思うよ。あの人のしたでやるのは。辞めといたら。」

今思えば、あの2人の言葉の主語が全部”私は”だったことがわかった上で聞けばよかったと思う。

「私は大変だったから」
「私はマネージャーとうまくできなかったから」

間違いなく今回は、誰のせいでもない。もし、悪者を作るのであれば、それは私。前任の2人とか旦那ちゃんを、責めてるわけじゃない。

自分に自信がなかった。1人でもやってやるという、覚悟がなかった。それは間違いない。娘との時間を、仕事に塗りつぶされたくない。家にいるときまで、人の愚痴を聞きたくない。

結果私は、リーダーを断った。

「リーダーになってよ、一緒にやろう。」と藤ちゃんに言われた時、素直に思ったことは、「藤ちゃんに相談して入ればよかった。」だった。弱虫な私の背中を誰かに押してほしかったんだと、今さら気が付いた。私という存在を、リーダーとして必要としてくれる人はいたんだ。気が付いたときに、涙も出た。

来月からうちの部署にも、リーダーがくることになった。ちょっと弱そうだけど、とても優しい人。そして、私にはない強さがある人。藤ちゃんには、それを伝えた。

断ったことが失敗か成功かは、これからの私次第だと思うから、今日のnoteでこの話に区切りをつけることにした。

ただ一つ、もし今後誰かが悩んでいたときに、私は藤ちゃんみたいな存在でいたいと思う。ただただ前向きで、カラッとしていて、一緒に頑張ろうって言える人。

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